人生屁みたいなもの
恥の多い生涯を送ってきた。
人生は敷かれたレールの上を走ってるわけではない。
時として想定していない事象が起き絶望や失望、挫折を経験し黒歴史を刻んでいく。
それを時折思い出しては奇声を発しながら戸棚に頭を打ち付け落ち着かせるものだ。
その日、私は火曜日ということでイオンへ買い物に出かけていた。イオンの火曜市はお得だが夕方ともなるとやたら殺伐とした雰囲気だ。普段は優しいレジのおばちゃんも今日ばかりは必殺!仕事人の中村主水のように鋭い眼光を放っている。ここまでに何万点もの商品をスキャンしたのか想像すらつかない。
通常よりも割引ともなると棚から納豆が消え、卵が消えと生活における栄養コスパ部隊が全滅していく中で普段は買えそうもない国産牛のステーキ肉がおつとめ品で残っていた。
多くの人が割引に気を取られこちらの高級肉は目に入らなかったらしい。
うっひっひ!しめしめ!と買い物かごに静かに置いて洗剤などの生活用品を買い漁り両手に抱え上機嫌で駐車場へと向かった。
駐車場と歩道にはわずかな段差があるのだが今日の私は気持ちが舞い上がっている。なんて言ったって国産牛のステーキなのだ。
古くなっているとはいえ熟成されて旨味がにじみ出ているのかもしれない。
まさに天へ舞い上がる気持ちというものはこういう気持ちを指すのだろう。
なんでもない段差をピョイン!と軽やかに跳ねて着地した。すると着地と同時に尻に電気が迸り爆発音がした。
ブォッ!!
着地した衝撃によって足から腹に圧縮された空気が送られ胃袋から腸へ押し出されて肛門に達し噴き出したと推理した。
尻にまだ電気が残留しているような感覚が残っている。
当然これから店へと向かう人達がいるわけだ。
公衆の面前で私は超特大の屁をこいたのだ。あれだけの爆音が聞こえないわけはない。
それもとにかくものすごい音だったのだ。一年に何回出せるかわからないほどの会心の一発だった。
あまりの恥ずかしさに牛の鼻の穴だろうが豚の尻の穴だろうがとりあえず穴があれば頭を突っ込みたい気持ちだった。
近くを歩いていた女性が笑いをこらえているのか「ムッフ!フッ!」と不自然な咳をする。
このままでは今夜の家族の団欒で話題にされるに違いない。或いはTwitterで特大の屁をこいたおっさんがいたなんてツイートされて拡散され万が一バズってみろ…日本全国に恥をさらすのだ。
なんとかして今のは『屁ではない』ことを証明せねばならぬ。そこで一番ポピュラーな手段に出た。
靴を地面へとこすり付け、今のは屁ではなく靴がアスファルトに擦れて出た音です~と周りにアピールした。
だが無情にもブゥ~なんて福音が鳴るわけもなく、まるでウンコを踏んづけたみたいになっていた。
これじゃウンコマンだ。それも両足こすり付けてるからダブルウンコマンだ。
車に戻るとすでに国産牛で得たテンションはだだ下がりし、また一つ恥を重ねたことを実感した。
尚、その時に買った国産牛ステーキは冷凍庫に入れて忘れてしまい一年程熟成させることになるのであった。
一年後にそれを食べて体調を崩したのは言うまでもない。
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