ブラック、グレー、いつかはブルー 6
〜社畜は鬱になって、生き直すことに決めました〜
20代のうちに、私はこの会社の中でありとあらゆる経験を積んだ。
大きなプロジェクト、尊敬する先輩と社長との揉め事、頑張っているにも関わらず、便利な奴だとこき使われる日々。
こういう経緯を辛すぎて誰かに相談したりすると、こう言われることが多かった。
「でも、そのおかげで今があるんでしょ?」
「辛いのはあなただけじゃないよ、私なんかね・・・」
「感謝が足りないんじゃない?きっと社長さんはあなたのことを思って・・・」
はいはいはいはい。
その通りです。
その通りなんですがね。
それは、ちゃんと私が消化して、次のステップに進めるようになった時に、私自信が私に言う言葉であって、他人から言われる筋合いはないのだ。
じゃあやってみろ。
同じ立場に立ってみろ。
自慢じゃないが、20代から30代まで、はっきり言って私が任されていた仕事量と責任は、他の誰より過酷だった。
その表向きの華やかさだけを見て、簡単に馬鹿にする奴の多いこと。
その頃から私は、考え方を改めた。
自分の利用価値を、最大限に上げるにはどうするか。
言われたことをやるのはもちろん、他の誰にも出来ないところまで仕事の精度を上げた。
理不尽なことを言われて苦しんでいる後輩の相談にも乗り、時には代わりに直談判もした。
牙を剥いて来る奴には、3倍にして噛み付いてやった。
先輩だろうが、間違っていると思ったことには絶対に首を縦に振らなかった。
そしてとうとう、社長にも意見を言えるところまで辿り着いた。
それでもまだまだ理不尽なことは多く、煮湯を飲まされることも少なくなかった。
おそらくこの負けず嫌いな性格と、くそ真面目な性格によって私の身体は知らないうちにストレスを溜め込んでいたのだろう。
30代後半、ある日の朝。
連日夜遅くまでの業務で疲れ果て、目を覚ましても身体が泥のように重い。それでもなんとか起き上って支度をする。
着替えの途中、不思議なことが起きた。
頭の上の高さまで持ち上げていた右手が、まるで木の葉がはらはらと落ちるような動きで、落ちてゆく。
え?
と思った次の瞬間、全身の力が抜け、足元から崩れ落ちた。
貧血?いや、視界はクリアだ。
時間にして15秒ほど、私の身体はまったく動かなくなった。
一過性脳虚血発作。
脳梗塞の前触れだった。