『白の乙女は若葉に守られ花開く』前原よし先生の書き下ろしロマンスが登場!
ロマンスヒルズコレクションに、前原よし先生の書き下ろしロマンスが登場しました。孤独を抱えた神の御子と、彼女に恋した若き領主が紡ぐ、優しい愛の物語。和風ファンタジーです。
6月11日配信開始。Kindle Unlimited に加入していれば0円で読めます。
白の乙女は若葉に守られ花開く 前原よし
あらすじ
「シュリ、俺をあなたの男にしてくれ」
孤独を抱えた神の御子と、彼女に恋した若き領主が紡ぐ、優しい愛の物語。
神の御子に選ばれたシュリには、幼い頃から不思議な力が備わっていた。
ある日、不吉な予兆を感じたシュリは、予言を伝えるために領主を呼び出した。
しかしシュリは、目の前にいる若き領主ヒカミを前に戸惑いをおぼえた。
彼の緑色の瞳は、情熱的な光を湛えてまっすぐにシュリを見つめていた。
その視線の理由を、無垢なシュリは理解できなかった。
「あなたはなにが好きだろうか」
彼の問いに、何も答えられなかった。ただ、切なさだけが心の奥に残った。
そして予言の日。シュリは今までにない焦りを感じて空を見上げた。
あの人が危ない。助けなければ。
湧き上がる強い想いを胸に、シュリは神鳥に姿を変え大空へと羽ばたいた。
編集部おすすめポイント
ネット小説や漫画でご活躍されている、前原よし先生の書き下ろし和風ファンタジーです。
神と人との距離が近い、日本によく似たとある世界で出会った二人。内気なシュリは、若き領主ヒカミとの出会いによって自分の気持ちを取り戻していきます。一方ヒカミはシュリを愛おしく思えば思うほど、浮世離れした彼女に振り回されてしまいます。
二人のコミカルな会話と、心癒される物語をお楽しみください。
前原よし先生について
ツイッター漫画やインターネット小説で活躍している前原先生のツイッターはこちら
https://twitter.com/mahebarayoshi
お試し読み
序章 羽化登神
シュリが高台から見下ろす景色に、いつもと大きな違いはなかった。重い雲ばかりの空の下で雨が続いている。今朝、隠主(おんぬし)が珍しく、この空具合は好きではありませんと言っていた。
ここはさほど酷い雨にはなっていない。ここは。
縁側から空を見上げ、同時に一人の男を思い出す。
──あなたは何が好きだろうか?
初めは聞かれた内容をとっさに理解できなかった。次に何も思い浮かばなかったことが残念だと思った。欲しいものがないことが辛かったのではない。質問に答えられなかったことが、言葉を交わすことができなかったことが切なかった。
まず印象に残ったのは彼の声だった。耳朶を滑る爽やかな心地よさがあった。これまでに聞いた誰の声とも違った、春の葉のような鮮やかな緑を思わせるそれをずっと聞いていたかった。
姿勢よく伸びた姿は木の幹を連想させた。彼の体から熱が発せられているようだと、そしてできるならば触れることでその熱を感じたいとも思った。
ただそれは不可能であるけれども。
後に彼から手紙と贈り物が届けられた。手紙には礼と、息災でという気遣う内容が簡素に書かれていて、シュリはその三行ほどの手紙を何度も読み直した。
贈り物はハナミズキだった。庭に植え、花の季節を待ちながら、彼に触れているのだと夢想してハナミズキの幹を撫でた。
今日は雨で触れていない。濡れることなど構わず、庭に出て撫でに行こうかと考えた。
そのとき全ての音が消えた。
雷光の如く落とされた直感に従い裸足のままで庭に降り、前に駆けながら着物を脱ぎ捨てていく。
全裸になり足を踏み出す。もう一歩、踏み出した後脚は地面からすでに遠い。
彼女は真っ白な鳥に、神鳥へと化し空へ羽ばたいていた。