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おススメでっかい恋文

 教授がマラソン大会に出場するという。

 教授とわたしは元ラン友である。

 コロナ禍の中でも練習を続けてきた教授とは異なり、わたしは現在全く走っていない。

 教授とのデートは「登る」か「歩く」である。

 かつてはこれに「走る」が加わっていたのであるが、怠け者のわたしは断ってきたのだ。

 さて、マラソン大会である。

「応援ナビがある」と教授が言う。

 どうやら応援に来て欲しいらしい。

 応援ナビとは、ネット上にランナーの位置を表示してくれるサービスである。

 何千人何万人と走るランナーの中から、お目当てのランナーを見つけるのはなかなか大変なのだ。

 応援ナビは、何時間もランナーを凝視することなく、効率よく応援できるスグレモノなのである。

 ランナーにとっても、42kmを走りながら、どこにいるのかもわからない応援してくれる人を見つけ出すのはかなり大変だ。

 わたしも見つけてもらいやすいように、かつてはコスプレをして応援へ行ったりもした。

 今回のマラソン大会は、駅付近に居るだけで3回応援できる便利なコースだ。

 合間にカフェやランチへ行きたい。コスプレはダメだ。

 そこで、人は無意識のうちにも、自分の名前には反応するだろうと考え、応援旗を作成することにした。

 でっかい筆と、布用の墨汁と、応援旗。

 40年ぶりに書く"書"である。

 応援旗を何枚も購入する訳にはいかないので、ぶっつけ本番だ。

 しかし、書というのは便利なもので、下手でも味があるように感じてもらえる。

 教授は正直字が上手ではないし、わたしの書を見せたこともないのでサプライズ感もある。

 でっかい筆で書くのも、紙ではなく布に書くのも生まれて初めてのことである。

 でっかい筆は思いのほか墨を吸う。

 子どもの頃の書道は苦痛であったが、この歳になって筆をにぎるのはかなり愉快でうきうきする。

 したためるのは大好きな人の名前だ。

 おばさんになっても恋する乙女心は変わらない。

 浮かれたわたしの書も浮かれている。

 昔取った杵柄とはよく言ったもので、なかなか良いのではないかと自画自賛。

 また、書をはじめてみようかと、さらに浮かれる。

 さて、明日はマラソン大会。

 応援旗をこっそりカバンに忍ばせて、恋する教授の応援へ向かう。


 後日談。

 マラソン大会の途中、自分の名前が書かれた応援旗を見つけた教授が、目を丸くして沿道にいるわたしの側に近づいてきた。

「これ、どうしたの???」

 ふふふ。サプライズ大成功!!!


 アイドルだけではなく、彼氏でもおじさんでも、でっかい恋文はオススメです。

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