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『7人の聖勇士の物語』第12章(3)聖ジョージがアルミドールを倒し、サブラ王女を火刑から救出するお話

こんにちは。
いつもお読みくださりありがとうございます。

一昨日、私が住んでいる地域では雲がなく、皆既月食がとてもよく見えました。楽しみにしていましたので、夕方ごろから時間を気にしていたのですが、少し用事をしているとあっという間に7時16分頃となり、大急ぎで庭に出てみましたら、月はもう赤銅色にほぼ覆われておりました。天王星食も見られるとのことだったのですが、よくわかりませんでした。

その後、何度も出たり入ったりして夜空を見上げ、赤い月を堪能しました。昔、理科の授業で月食の原理を教わった筈ですが、もうすっかり忘れてしまいました。同じようにお庭に出ていた隣家のお子さんたちが、お父さんに月食の起る理由を教えていただいていたので、秘かに耳を傾けながら、広大無辺の宇宙空間で太陽、地球、月が一列に並んで重なり、遠く背後から太陽に照らされた地球の影が月に映ることの不思議を楽しみました。私たちも太陽系の一員なんだな、と実感した一時でした。

※画像は須藤しげる作「明月」(部分)です。月食の絵ではありませんが、パブリックドメインのフリー画像をお借りしました。月を見ながら少女は何を想っているのでしょう。優しい空想をかきたてられますね。

『7人の聖勇士の物語』の続きです。
東の大帝が開催した大馬上槍試合で7人の勇士たちは再会し、互いに大喜びしました。すると、スコットランドの聖アンドルーに恋い焦がれる6人のグルジア王女たちがやってきて、聖アンドルーと結婚したいと大帝に願い出ました。まだ独身を楽しみたいアンドルーは困惑してしまいます。

12章は長い章なので3回に分けてお送りしています。今回はその3回目です。

『7人の聖勇士の物語』
第12章 コンスタンチノープルの馬上槍試合大会(3)

「お待ちなさい、美しい王女たちよ。」皇帝は穏やかにこのように言いました。「この件についてはそなたたちの間で少々誤解があることは明らかじゃ。それに、聖アンドルーは極めて礼儀正しい騎士であるから、そなたたちの内の5人が不幸せになったり、彼の妻となる1人を妬んだりすることを望んではいないのだ。それゆえ、私はそなたたちに護衛をつけ、父君の宮廷へとお送りしようと思う。父君のもとでそなたたち銘々が、ハイメンの神(結婚の神)の祭壇へと導いてくれる気高い騎士を速やかに見つけることを望んでいるぞ。」

6人の気丈な王女たちは皇帝による裁定にとても不機嫌な顔をしました。しかし、皇帝のお決めになったことは常に最終決定なのですから、彼女たちは何もお返事することができませんでした。とはいえ、その場にいた者は皆気付いたことですが、もう一度スコットランドの騎士を見つめた彼女たちの表情は先程とは一変しておりました。王女たちの指先が届かない距離に控えていて賢明だった、と聖アンドルーが考えていたことは明らかでした。

「やれやれ、ご主人様。私が思いますに、うまく切り抜けられましたね。」とマードックは聖アンドルーにささやきました。

「極めて安易な解決法ですね」とテレンス・オグレーディは言いました。「でも、6人の侍女たちはどうするのだろう!」

歴史書が語るところによりますと、王女たちはグルジアに戻り、6人の勇敢な騎士たちと結婚して、その後もとても幸せに暮らしたとのことです。また、6人の美しい侍女たちも同様に、6人の忠実な従者たちと結婚し、その従者たちは皆やがて騎士となり、グルジアの立派な領主となったとのことです。

馬上槍試合大会と祝宴がすべて終ると、7人の勇士たちは各々の故郷へと出発する準備をしました。しかし、彼らが旅を始める前に、知らせが到着しました。キリスト教徒である東の皇帝を打ち倒すため主だった異教の勢力が結集したというのです。そこで皇帝は使いをつかわし、7人の勇士たちとその家来たちに援助を求めました。彼らは軍勢を召集して皇帝の援助に馳せ戻ることを全員一致で約束しました。

イングランドのコヴェントリーに戻ると聖ジョージは時を置かずに強力な軍勢を集め、城にうら若い花嫁、美しいサブラ王女を残して彼は出航しました。もはや遍歴の騎士ではなく名高い将軍として彼は軍勢とともにポルトガルの海岸に到着し、そこで銘々の国力に応じた規模の軍勢を率いた他の6名の勇士たちと合流しました。ポルトガルの人々は聖ジョージに非常に心酔しました。彼らは自分たちの勇士を持っていませんでしたから、彼に是非なっていただきたいとお願いしました。以後ずっと聖ジョージはポルトガルの人々が最も賞賛する聖人や英雄の一人なのです。

聖ジョージは全キリスト教軍の大将に選ばれ、再び出航して地中海へと入っていきました。モロッコの海岸に上陸しますと、聖ジョージはその地の王、肌の黒いアルミドールを成敗しようと考えました。アルミドールは異教徒の軍勢に合流しようとしていたのです。

ムーア人たちはキリスト教徒の勇士たちの上陸を阻止しようと力を尽くしましたが、無駄でした。激戦が行われました。アルミドールは軍の先頭へと駆けつけましたが、そこですぐに聖ジョージに見つかり、すさまじい闘いになりました。ムーア人の王はこれほど激烈に攻撃されたことはこれまでにありませんでした。

ところで、アルミドールはすっかり勝利を確信していたので、金属を溶かしてぐらぐら煮立てた巨大な釜を準備しておりました。残酷にも、その中にキリスト教徒の勇士たちやその家来たちを投げ込もうと考えてのことでした。しかし、遂に、もはやこれ以上名高い聖ジョージの剣に抵抗することができず、アルミドールは絶望して逃げ出し、その大釜に頭から身を投げました。彼の将軍や主だった将校たちもそれにならいました。激しい闘いは速やかに終結し、肌の黒いアルミドールがサブラ王女を苦しめた残酷な仕打ちの数々に対する十分な報復がなされたのでした。

この一件が首尾よく成し遂げられたのも束の間、聖ジョージは嬉しくない知らせを受け取りました。イングランドでは、今や3人の元気な男の子の母である奥方サブラ夫人を拉致する魂胆で、コヴェントリー伯爵が聖ジョージの城を攻囲しているというのです。邪悪な伯爵は、さすがのイングランドの無敵の大勇士も死の手を逃れることはできなかった、という知らせを広めていたのでした。

勇敢な騎士は雷光のごとき速さで急ぎ帰還しましたが、彼が目にした光景は悲惨なものでした。城は焼け落ち、奥方は邪悪な伯爵に連れ去られた後でした。伯爵は何度も結婚を申し込みましたが奥方はことごとく拒絶しました。このため、奥方は魔術を用いたかどで告発され、生きながらの火刑を宣告されて牢に入れられました。聖ジョージの3人の男の子がどうなったかはわかりませんでした。

聖ジョージとド・フィスティカフは馬に拍車をかけて疾駆し、コヴェントリーへと入りました。そこで狩りに出かけようとしていた伯爵と出くわすと、死闘のすえに聖ジョージは伯爵を地面に打ち倒しました。
伯爵はいまわの際に奥方サブラの無実を認め、息を引取りました。その時、処刑のためにサブラ王女が引き出されてきました。聖ジョージは、サブラの護送兵らをあっという間に追い払い、サブラを彼の馬に乗せて近くの森へと連れて行きました。そこなら追跡を食い止められると考えたのです。

その森をさまよっていますと、ある日彼らは木陰のあずまやで薔薇のしとねに眠る3人の美しい男の子を見つけました。両親には自分の子供たちであることがわかるものです。彼らは子供たちの方へ駆け寄りました。すると、あずまやの奥に美しい貴婦人が腰掛けているのが目に入りました。聖ジョージはすぐにその貴婦人がこれまで何度も助けてくれた親切な妖精サブライナであることがわかりました。彼女は炎に包まれた城から子供たちを救ってくれていたのでした。彼は妖精に何度も繰り返しお礼を言いました。妖精は優しく微笑みながら姿を消しました。

その後、子供たちを「インダストリー(勤勉)」、「アテンション(注意深さ)」、「ティーチャブルネス(素直に教えをきくこと)」と言う名前の賢い教育係たちの保護下に残し、聖ジョージは異教徒との戦いに従事している軍勢に再び加わるため、妻をともなって出発しました。

今回はここまでです。

6人の王女たちはお気の毒でしたが、その後それぞれが幸せになったとのこと、良かったですね。聖ジョージは宿敵アルミドールを倒し、サブラをコヴェントリー伯爵の魔の手から救出して、異教徒との戦いに赴きます。

次回をどうぞお楽しみに!


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百合子
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