[西洋の古い物語]「銀の橋」
こんにちは。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
今回も、シャルルマーニュ(カール大帝)にまつわるお話です。死後も人々に祝福を与えると信じられ、愛されている偉大な皇帝のお話です。ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※ 画像は物語とは関係ないのですが、アルフォンス・ミュシャの「モエ・エ・シャンドン シャンパン ホワイトスター」(1899年)です。こぼれ落ちそうな葡萄や色づいた葉が豊饒の秋を感じさせてくれますね。シャンパンの銀色の泡を見つめていると、飲む前から酩酊してしまいそうです。秋の夜長、物語に乾杯!
「銀の橋」
ケンプテンの小さな村の近く、ライン川のほとりに、大帝シャルルマーニュが変わらず愛した場所がありました。そこでは他のどこにもまして太陽が明るく輝くように思われ、静寂と平穏がいつも大帝の魂を落着かせ、喜びで満たすのでした。
※ケンプテンはドイツ、バヴァリア州、ミュンヘン西南西の都市です。ローマ時代から知られた古い都市で、歴史的建造物が多いそうです。
皇帝は国事に悩んでいるときにはいつもこの場所に来ていたようです。また、長旅や戦争から帰還すると、いつもこの美しい場所を真っ先に訪れたのでした。生涯を通してここは大帝のお気に入りの場所でした。日の光のもとその場所を眺めるのも好きでしたし、月明かりに照らされたその場所も大好きでした。世の人々が寝静まった夜中にそこを歩き回ることもしばしばでした。緑なす小高い山々、葡萄の蔓に覆われた丘陵、そして森の中の心地良い空地は眠りよりももっと彼を癒やしてくれました。
皇帝はこの場所に葬られたいと望んでいました。しかし、人々はそうはさせませんでした。偉大な皇帝は自身が建立したエクス・ラ・シャペルの壮麗な大聖堂に荘厳に埋葬されました。しかし、死後も彼の魂は生涯に平安をもたらしてくれたその場所を訪れることを望みました。今日でも、皇帝の魂は、毎年一度、夏の終わりにその場所を訪れるということです。
人々が言うには、一年中で最も月明かりが美しい夜、シャルルマーニュは大聖堂の墓所を出て、ライン川の静かな谷間のその場所へとやってくるのです。悪さをしに来るわけでも、その場所で休らい、楽しむためだけにやって来るわけでもありません。彼の目的は、終生大きな喜びであったその場所を祝福することでした。
シャルルマーニュの魂がそこを訪れる夜には、銀色の月の光が川に妖精の橋をかけるのが見られるかもしれません。この橋を通って偉大なる王の魂はライン川を渡るのです。彼は、近隣のあらゆるものに祝福を与えながら、滑るように行ったり来たりします。小さな村も小屋も、丘も谷も、葡萄畑も川岸も、そして偉大で穏やかなライン川そのものも、全てが彼の祝福を受けるのです。
最後に彼は、自身がこの地に建ててインゲルハイムと呼んだ宮殿を訪れます。インゲルハイムとは「天使の家(エンジェルズ・ホーム)」という意味です。そしてここから彼は永眠の場所へと再び戻っていくのです。
この小さな谷間の住民はライン川沿岸地域きっての裕福な人々だと言われています。そのうえ彼らはどこの住民よりも幸福で健康なのです。彼らの葡萄畑ではいつも美しい葡萄の房がたわわに実っているからです。
もし葡萄畑が実りを結ばないようなことがあれば、何かわけがあってシャルルマーニュの魂が毎年恒例の訪問をできなかったのだと人々にはわかります。でも、彼らは来年を楽しみにしています。だって、来年はこれまで以上の豊かな収穫があることを彼らは知っているのですから。皇帝の偉大な魂が2年続けて訪問しないことは決してありません。
こうして何世紀にもわたってシャルルマーニュは彼が愛したこの土地に祝福を与え続けています。月明かりの夜、ライン河畔の人々は指をさしてあなたに教えてくれますよ、あれがその銀の橋だと。シャルルマーニュはその橋を行ったり来たりしながらあらゆる場所を訪れ、祝福を与えているのです。
「銀の橋」の物語はこれでお終いです。
自然の恵みを偉人の遺徳のおかげと考えることは、世界中に見られることかもしれません。この物語によれば、ライン川流域の人々は、葡萄がもたらす豊かさを喜び、それはシャルルマーニュがずっと祝福を与え続けてくれているからだ、と感謝しているのですね。葡萄に限らず、季節が来れば作物や果実は実りますが、それは当たり前のことなのではなく、年々繰り返される恵みによって今日も私たちは生かされているのだと思います。秋の実りのこの時期、あらためて自然の恵みに感謝したいです。
このお話が収録されている物語集は以下の通りです。
今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。
次のお話をどうぞお楽しみに。
これまでのシャルルマーニュにまつわるお話は、こちらからどうぞ。
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