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『7人の聖勇士の物語』第14章 聖ジョージの3人の息子たちが騎士となり、冒険の旅に出るお話。

こんにちは。
いつもお読みくださりありがとうございます。

12月に入りましたね。今年もあと1ヶ月です。うかうかしているとあっという間に今年が終ってしまいそうです。年内になすべきことが山のようにありますから、一日一日を大切に、気を引き締めて暮らしたいと思います。

11月末頃から街ではクリスマス・ツリーがお目見えし、今ではあちらこちらで見かけるようになりました。我が家には私の背丈よりも大きなクリスマス・ツリーがあるのですが、このところ何年間も飾らないままになっています。飾りつけをするのは楽しいのですが、大きくて重いので物置から出してくるのがたいへんですし、片付けるときの手間を考えると億劫になってしまって・・・。

でも、クリスマス・ツリーを飾ると部屋の中だけでなく、心の中も華やいで楽しくなりますから、今年は面倒がらずに飾ろうかな、と考えているところです。

『7人の聖勇士の物語』の続きです。
今回は聖ジョージの3人の息子たちのお話です。

『7人の聖勇士の物語』
第14章 聖ジョージの3人の息子たち

キリスト教国の勇敢な戦士たちがたずさわった不思議な冒険は数知れず、また、彼らが行った気高い偉業も枚挙に暇がありません。しかし、この物語では、その多くについては厳然たる必要のために沈黙しなければなりませんし、ただ簡単に語ることしかできないものも多いのです。

何年もの間、聖ジョージは世界中を旅して回りました。忠実なド・フィスティカフはいつも彼の傍らにおりました。しかし、彼らの消息はイングランドには届きませんでした。聖ジョージの3人の気高い息子たちは今や立派に成長し、彼らの主君から騎士叙任の名誉を賜っておりました。ある夜、彼らが母君のお墓参りに来たときのこと、夢かうつつか、彼らの目の前に母君の霊魂が、地上におられたときにまとっていた優しいお姿そのままでお墓から立ち現れ、「父君を探しに行き、故郷へ無事お連れしなさい」と助言をなさいました。母上は息子たちが誉れ高い父君の思い出を愛していたために、このような助言を与えたのでした。母君は優しい微笑みを浮かべてこのようにおっしゃると、彼らの目にはお姿が見えなくなりました。

十分に準備をして、彼らはイングランドを出立しました。ノルマンディーを通ってさほど遠くまで行かないうちのこと、森を通り抜けようとしているとかん高い叫び声が彼らの耳を襲いました。急いで木々の間に駆け込むと、一人の美しい乙女が十数人の武装した男たちに捕えられているのが見えました。彼らは、着ている服や武器から猛々しい盗賊のように見えました。大きな声をあげながら彼らは盗賊たちに襲いかかりました。誰も降参しようとしませんでしたので、3人は全員を殺し、貴婦人とその侍女たちを解放しました。盗賊は侍女たちを周りの木に縛り付けていたのです。

乙女は涙ながらに感謝の言葉を述べました。涙は次から次から彼女の百合のように白い頬をつたい落ちるのでした。彼女は、自分はほど近いところに城を持つ公爵の娘だと告げ、3人を城へと案内しました。3人の若武者は豪華な宴席でもてなされ、滞在してくれるよう公爵から乞われました。しかし、自分たちの務めを忘れることなく、彼らは早々に出発し、あらためて父君を捜すのでした。

彼らは何日も旅を続けました。家も住民も見当たらない土地でしたので、夜は森の中や開けた草地で休息を取り、天蓋といっては星がきらめく天空のみでした。彼らはこのようにして母なる大地の上で安らかに休みましたが、彼らにとってはまるで最高純度のアラビアの絹でできたカーテンに囲まれて羽毛のベッドの上で眠っているかのようでした。

ある夜のこと、彼らは安らかに眠っておりました。ところが、暁の女神が明るい光で天空を輝かせ、太陽神の黄金の光の到来を告げる頃になると、恐ろしい音が彼らの耳に飛び込んできました。それは、どこか深い深淵から響いてくるらしく、岩を真っ二つに断ち切るような音でした。

彼らは目を覚まして跳び起き、武具の留め金をとめて警戒を固めました。彼らはちょうどよい時に目覚めたのです。もう1分眠っていたとしたら彼らの運命は悲しいものとなったことでしょう。その音がどこから来るのかを知ろうと周囲に目を凝らしていますと、巨大で恐ろしい姿のおぞましい怪物がこちらへやって来るのが見えました。怪物の目は丸くて非常に大きく、まるで燃える皿のよう、口は巨大な猛禽類の嘴のよう、前足の鉤爪は鷲の鉤爪よりもずっと大きくて鋭く、狐のような耳をしており、胸は鱗で覆われ、鳥のような翼がありました。しかし、体は毛むくじゃらで、後ろ足はライオンに似ていました。

怪物は何度も恐ろしい声で吼えたけり、どんどん進んできます。その頭は高い木の枝ほどの高さに達していました。怪物が近づいてきますと、騎士たちの馬は3頭とも鼻を鳴らし地面を踏みならし、恐怖のため後ろ足で立ち上がり、つながれていたロープを引きちぎりそうになりました。若い騎士たちは逃げたりしては恥であると考えて、馬に乗らずにいたのです。それに、彼らはお互いを完全に信頼していました。彼らは迫り来る危険を恐れることなく、踏みとどまっておりました。

怪物は、大きな叫び声をあげながら翼を広げて鉤爪をふりかざし、彼らの方へと突進してきました。騎士たちは互いに少し離れて横に並び、怪物を迎え撃とうと身構えました。怪物は真ん中の騎士に攻めかかると、真ん中の騎士はすばやく後ずさりして剣で激しく切りつけ、その間にあとの2人が両側から怪物に襲いかかりました。彼らは怪物の固い脇腹にすばやく剣の攻撃を雨あられと浴びせかけました。怪物の皮膚はとても固かったのですが、鋭い切っ先が突き刺さりましたので、怪物の血は滝のように流れ始め、騎士たちのくるぶしを越えるあたりまでたちまち溜まってきました。というのも、彼らが戦っていたのは窪地でしたので、そこから血が流れ出すことができなかったからです。水は自分自身の力で丘を駆け上がることなどできませんが、血は水にも増してそんなことはできません。このため、若い騎士たちは、溺死を免れようと思うなら、これ以上ぐずぐずせずに闘いを終らせねばならないことを察しました。怪物が発するふんぷんたる悪臭は彼らの嗅覚神経にはあまりにも耐えがたく、一万匹の鼬やスカンク、フェレットやそれに類する害獣の発する体臭のようでした。

彼らはこれまで以上に激しく攻撃を浴びせかけ、ついに長男のサー・ガイは鱗で覆われた怪物の胸深くまで剣で刺しました。すると、苦痛と怒りのため一万頭の象とライオンとロバを一緒にしたよりも大きなほえ声が恐ろしい獣から発せられ、怪物は勇敢な騎士たちに向かって頭から突っ込んできました。しかし、騎士たちは敏捷に飛び退きました。怪物の顔が自分の血の中に潜るや、騎士たちは再び剣で怪物の背中や脇腹を攻撃しました。すると、何千もの泡が血溜まりの表面から浮き出してきましたので、とうとう怪物のおぞましい命がこときれたことがわかりました。

怪物が死んだことを確信すると、騎士たちは戦場から撤退しました。死んだ怪物が発する猛烈な悪臭のため、そばにいるのはもはや耐えがたかったのです。そのため、近くの流れで闘いの汚れをすっかり洗い流しました。彼らは3人ともとても育ちの良い若者でしたし、必要もないのに汚れたままでいることが嫌でしたので。そして彼らは旅を続けていきました。ですが、この後に起こった冒険の数々を長々と語ることは時間が許しません。

悲しいことに食べ物もなく、疲労で意識も薄れそうになりながら旅を続けていきますと、真鍮の角笛を吹き、大声で布告をしている布告官に出会いました。それは、この国を荒らし回っているポンゴという怪物を殺した者なら誰にでも莫大な報酬が与えられるという布告でした。彼らは布告官を引き留め、その怪物を殺したことを告げました。そして、獣が倒れている場所を示しますと、布告官は彼らを王の宮廷へ案内しました。王は非常に喜んで彼らを迎え、名誉を与えました。

さて、怪物ポンゴがこの国を荒らし回り、王と全宮廷、大臣たち、将軍たち、そして王の軍隊がどうすればよいのか全くわからず取り乱しておりました頃、次のようなことが起こりました。悪名高い首領に率いられた海賊の一団がこの国の海岸に上陸し、うら若い美しい王女、ユーレイニア王女を連れ去ってしまったのです。

若い騎士たちはその話を聞くや、彼女の探索を申し出ました。彼らの武芸にふさわしい仕事だと考えたのです。屈強な男たちが漕ぐ頑丈な船に乗り、彼らは進んでいきました。何度も嵐にあい、荒波にさんざん揉まれました。この時、彼らの名高い父君や父君の6人の友人も長い航海の途中であり、風と波にもてあそばれていたのですが、彼らはそのことを少しも知りませんでした。実際、豪胆な騎士たちを翻弄することができるのは唯一、風と波ぐらいでしょうね。何週間も過ぎ去りましたが、彼らの船はあいかわらず波のうねりを切りながら進んでいました。ブリタニアが海を耕したときにもっとよくならしてくれていたらよかったのに、と思っておりましたところ、遠くに数隻の船が見えたのです。
※ブリタニア(Britannia)はグレート・ブリテンを象徴する女性像で、かぶとをかぶり、三叉の矛を持った姿で表現されます。三叉の矛は海神ポセイドンの持物でもあり、制海権の象徴ともされています。

船は彼らのほうへ近づいてきました。激しい闘いが行われ、猛々しい海賊たちは燃える松明を手にもち、敵の船に火をつけようと努めました。

ちょうどその時、3人の若い騎士たちの船からはまだ離れたところに一艘の船が見えました。その甲板の上に彼らが見たのは、誰あろう、キリスト教国の勇士たちのうち二人、名高い父君である聖ジョージとその親友の聖アンドルーでした。二人は慌てず落着いて立っており、乗っている船が闘いに参戦するのに十分近くまで接近するのを待っていました。聖ジョージと聖アンドルーの他の勇士たちは海の力に打ち負かされて船内のベッドに横たわり、乾いた陸地にまた無事に上陸できるよう願っておりました。彼らはその時そこで海の底へ沈むかどうかなど少しも心配していませんでした。

3人の若い騎士たちは急いで海賊たちにとびかかりました。海賊たちは、激しい闘いの後、降伏を余儀なくされました。多くの者が海に飛び込みました。殺された者も多数ありました。海賊船のうち一隻が沈没しそうになっていました。その船内から悲鳴が聞こえてきました。それは危難のなかで叫ぶ女性の悲鳴でした。

若い騎士たちは急いでその船に飛び乗り、船が沈没する前に若く美しい乙女を救い出し、彼らの船へと彼女を無事に移しました。ほんの数語話すだけで、彼女こそ探していたユーレイニア王女に他ならないことがすぐにわかりました。

聖ジョージは息子たちの武勲にたいへん喜びました。彼と友人たちは3人に同行してユーレイニア王女の父君の宮廷へと赴きました。宮廷では、皆、当然のことながら、豪華なもてなしを受けました。

それから騎士たちは新しい冒険を求めて出発しました。その冒険はこれまでにお話ししたものにも劣らぬ驚くべきものだったのですが、それらについてお話しするには私のペンよりももっと長いペンが必要でしょう。

今回はここまでです。
お読みくださり、ありがとうございました。

次回をどうぞお楽しみに!


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