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『7人の聖勇士の物語』第10章 (1) ウェールズの騎士、聖ディビッドが馬上槍試合でタタール皇帝の王子を殺してしまい、皇帝の命令で邪悪な魔法使いを退治する冒険を引受けるお話。


こんにちは。
いつもお読みくださりありがとうございます。

朝夕はすっかり涼しくなってきましたね。
秋を感じられるようになると、白いご飯のおともにお漬物が恋しくなります。
お漬物はどれも好きですが、柴漬けがありますとご飯がますます進みます。
柴漬けとは「紫葉漬け」つまり赤紫蘇のお漬物のことで、京都郊外の大原の名産とのことです。詳しくは知らないのですが、有名な老舗が幾つもあるそうですね。よく寄る駅前のスーパーでも時々買いますが、どこの商品かは気にしないことが多いです。

先日、いつものスーパーで、「建礼門院」という名前のついた柴漬けを見つけ、思わず手に取りました。

平清盛の息女に生まれ、高倉帝の中宮となられた徳子様こと建礼門院が、平家滅亡後に大原の寂光院に隠棲された際に、里人が差し上げたお漬物をとてもお喜びになり、美しい紫色にちなんで「紫葉漬け」と名付けられた、という伝承があるそうです。

「建礼門院」の製造販売は「林慎太郎商店」さんです。
ホームページを拝見しますと、

壇ノ浦に沈んだ平家一門と幼い安徳天皇の菩提を弔いながら寂しい日々を過ごされていた徳子様を、柴漬けがお慰めした故事にちなみ、「往時の製法を可能な限り再現して仕込んでおります。この故事をより多くの方に知っていただきたいとの思いを込めて品物の名を「建礼門院」と呼んでいただいております。」とのことです。

夕食にはまだ早かったのですが、さっそく試食してみました。
美味しかったです。ほどよい酸味が舌に優しくて、これなら徳子様も少しはお食事が進まれたのではないか、なんて夢想してしまいました。

繰り返し読んで、結末もよく知っているけれども、何度でも読みたくなる『平家物語』。秋の夜長に今一度読んでみようと思います。

(※今回の画像は、水野年方画「寂光院」(『文藝倶楽部』7巻13号口絵、木版画)です。パブリックドメインよりお借りしました。)


それでは、『7人の聖勇士の物語』の続きです。

『7人の聖勇士の物語』
第10章 ウェールズの聖ディビッドの冒険(1)

ウェールズの聖ディビッドについてお話しするのが7人の戦士たちのうち最後になってしまいましたが、雄々しい勇気と武勇の評判はどなたにも決して劣りません。忠実な従者オゥエン・アプ・ライスに付き従われてあの真鍮の柱から出立した後、聖ディビッドは太陽が昇る方に向かって進み、多くのヨーロッパの一流の君主たちの宮廷を訪問し、何度も馬上槍試合に参加したり、命がけの闘いに従事したりして、無数の雄々しい偉業を行いました。そのすべてを忠実な従者は細心の注意を払って物語り、どんなことも漏れることを許しませんでした。彼の主人の剣が殺した敵の数、また、倒した巨人の巨大さ、殺した野獣の獰猛さ、追い払った怪物の恐ろしさ、阻止した魔法使いの術の強力さ、道中闘った悪霊や亡霊や悪鬼の恐ろしさは実に驚くばかりでした。実際、忠実なオゥエンが主人と自分自身の偉業を語るのを聞いていますと、聖ディビッドよりも雄々しい騎士やオゥエンよりも勇敢で頼りになる従者は存在しないに違いないと思わずにはいられません。

彼らは旅を続け、ヨーロッパを後にして古のアジアへと足を踏み入れ、名声轟くタタール皇帝の宮廷に到着しました。彼らが到着する前から宮廷には聖ディビッドの勇名が届いておりましたので、これほどの勇武の騎士にふさわしいあらゆる礼節をもって彼らは迎え入れられました。

彼らが到着した日には豪華な祝宴が用意され、その地の大領主や貴族たちが参加しました。口の広いコップに満たした薔薇色のワインが何杯も飲み干されましたが、この芳醇な液体を飲んだ量では誰も聖ディビッドにはかないませんでした。翌日に向けて大馬上槍試合の準備がなされ、この帝国でかつて見たこともないような武芸の高貴な偉業がなされることが期待されました。

遠近を問わず近隣のあらゆる地方から勇武の騎士たちが、想像できる限りのあらゆるスタイルの豪華な武具に身を包んでやってきました。しかし、兜と羽毛の前立て、それに馬飾りの絢爛さといい、スカーフの華麗さ、また、盾や胸当て、高々とした兜から騎士にふさわしい拍車まで全身の武具がまばゆい美しさで光り輝く見事さも、誰も聖ディビッドに勝る者はおりませんでした。数え切れないほどの戦士たちが試合場に入場し、多くの激戦が行われました。最後に聖ディビッドが、槍を運ぶオゥエンを従えて乗り入れました。喇叭が響き渡りました。聖ディビッドは槍を手に取り、対戦にそなえて高く振りました。

聖ディビッドの最初の対戦相手の騎士は、タタールの主だった貴族の一人でした。彼の兜、武具、頑丈な盾は青光りする鋼でできており、また、青いスカーフが彼の両肩からひらめいておりました。タタールの騎士は勇敢に振舞い、聖ディビッドの槍の強烈な衝撃に雄々しく耐えて持ちこたえました。両者二度目の突撃の際に、聖ディビッドは全力を奮ってタタール人に強烈な一撃を食らわせたので、彼は鞍から転げ落ち、うつろな呻き声をあげて気を失い、地面に倒れました。遠方まで知れ渡った有名なこの試合の闘いを一つ一つ語るには、時間がいくらあっても足りません。

6人の勇ましい騎士たちと聖ディビッドは手合わせしましたが、聖ディビッドの武芸のわざによって皆打ち破られました。とうとう、皇帝の一人息子で跡継ぎの君が試合場に入場し、ウェールズの戦士に勇敢に挑戦しました。彼は、「聖ディビッド以上に立派な対戦相手は見つからないだろう、同国人たちが受けた恥辱を自分が雪(そそ)ごう」と考えたのです。皇帝の子息を対戦相手としての立派な試合に参戦するのだと考えると、勇ましい聖ディビッドの胸は踊りました。

彼は、「高貴なる王子様が槍を交えたいときにいつでも試合を始めていただいて結構です」と言いました。

「今こそその時だ、騎士殿」と勇敢なタタール人は答えました。彼は、一面黄金と貴重な宝石で鋲打ちされた、稀に見る入念な職人技で作られた武具を身に着けておりました。

「これほど勇敢な王子を殺すとすれば残念なことだ」と聖ディビッドは考えました。「しかし、我が祖国の名誉のためには・・・、それよりも気高いものは存在しないのだから・・・。それに、私自身としては、誰よりも・・・(聖ディビッドが考えたことを繰り返す必要はないでしょう)。王子が攻めてきたら、闘わざるを得まい。」
(※聖ディビッドは、勇敢なタタールの王子を馬上槍試合で殺してしまうのは惜しいが、祖国と自らの名誉のため、わざと負けることはできない、と考えているのでしょう。)

喇叭が鳴り響き、馬がとびだしました。地面は馬の足元で震え、土埃が雲のように空中に立ちました。両者とも激しい攻撃を受け、その衝撃は強烈でしたが、いずれの騎士も鞍にふみとどまりました。再び両者は突撃しましたが、同じ結果でした。三度目のとき、聖ディビッドは鞍から転げ落ちそうになりましたが、懸命の努力で体勢を回復し、次のさらに激しい対戦に備えました。タタール大帝の誇り高い子息は、自分がどんなに豪胆な戦士と闘う羽目になったのかをよくわかっていませんでした。遠く離れたカンブリア(※ウェールズの古名)の地が輩出した勇敢な英雄たちのことを彼は知りませんでした。槍を振り回しながら彼は聖ディビッドに向かって「敗北の覚悟をせよ」と大声で叫びました。すると、ウェールズの騎士は、自分の槍を強くにぎり直し、馬の両脇に膝をこれまで以上にしっかりと押しつけました。

「王子は我がご主人を落馬させるつもりなのかな。」試合の様子を見ていた忠実なオゥエンはそう思いました。「王子には聖ディビッドに用心していただかねば。聖ディビッドはご自分に匹敵する方々をこれまでに12人も槍の一突きで地面に投げ落としてきたのだ。このことを王子にお伝えしたほうがいいだろうか。」
(※オゥエンは、王子が挑んできたら聖ディビッドも真剣に応戦せざるを得ないので、王子の身の安全を案じているのです。公正な試合での勝負とはいえ、跡継ぎの王子を失った皇帝の怒りは恐ろしいですから。)

喇叭が鳴り響き、タタールの王子とウェールズの戦士は試合場の中央で相まみえました。すさまじい激突でした。タタールの王子の槍は無数のかけらに砕け散りました。ウェールズの騎士は真の勇武の人でしたので、自分の槍を傍らに落とし、斧をつかみました。それで、両者は対等な立場となりました。しかし、既に聖ディビッドの槍は王子の脇腹に致命傷を与えていたのです。が、誇り高い王子は屈服しようとしませんでした。今やとてつもない速さで互いに打ちかかる二人のまわりには無数の火花が立ち、(忠実な従者オゥエンは後日断言したところによれば)まるで炉のただ中で闘っているかのように見えました。ついに、聖ディビッドの斧が恐ろしい力でタタール王子の兜に振り下ろされ、兜を真っ二つに切り裂きました。残酷な武器はタタール大帝の不運な跡継ぎの脳を貫くまでとどまることがありませんでした。

観客がこの事態を目にしますと、悲しみと怒りで気が転倒した人々のかん高い悲鳴がその場の空気を引き裂きました。偉大な皇帝と廷臣たちは皆、身分の上下にかかわらず、誰よりも大きな声で悲鳴を上げました。直ちに試合場は解体され、皇帝は、ウェールズの騎士を御前に連れてくるように命じて、宮殿へと戻っていきました。今や死によって輝きが曇ってしまったタタールの貴重な宝石、王子のお葬式が終ると、皇帝は、嘆きに満ちた哀悼と悲しいため息をやめ、ウェールズの戦士にこのように話しかけました。

「実は、タタールの国境近くに強力な魔術師が住んでいるのだ。名前はオーマンダインという。魔法のかかった城と庭を持っていて、魔法の城壁の中に入った者で戻ってきた者はいないのだ。さて、実のところ、そなたは、王子の命を奪った所業により死に価するのだが、もしその魔術師の領域に冒険を求め、ここへ奴の首を持ってくるなら、そなたの命を助けるだけでなく、私の死後タタールの王位を与えよう。」

この不思議な冒険にウェールズの気高い戦士はとても喜び、「直ちに冒険に出発する準備ができています」と申し上げました。これを聞いて皇帝は、今彼がなした約束を果たすまでは他のいかなる冒険にも決して従事しないことを、騎士道の誓いと祖国への愛によって彼に義務づけました。

今日はここまでです。
次回はウェールズの騎士、聖ディビッドの冒険のお話の続きです。

次回をどうぞお楽しみに!


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