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[西洋の古い物語]「木靴」第1回

こんにちは。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
明日の晩はクリスマス・イブですね。
今回も、クリスマスにちなんだ物語を訳してみました。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※ 画像はパブリック・ドメインQからお借りしました。
クリスマスの朝のお楽しみはプレゼントをあけることですね!
何が入っているのか、楽しみで待ちきれませんね!

「木靴」第1回

 昔々のこと、あまり昔のことなので誰もいつのことだか忘れてしまいましたが、ヨーロッパの北の方のある町に―その町の名前はとても難しくて誰も覚えられたためしがないのですけれど―7歳になる小さな男の子が住んでいました。その子の名前はウォルフといい、両親は亡くなっていましたので、年老いた叔母さんと暮らしておりました。この叔母さんは怒りっぽい、けちな人で、一年に一度だってこの子にキスしようと思ったこともなく、この子に一椀のスープを与えるときにはいつも深いため息をつくのでした。

しかし、可哀想なこの子はとても気立てが優しかったので、何があろうとも年老いた叔母さんのことを愛しておりました。でも、彼は叔母さんのことがとても怖くて、その醜い年老いた顔を見るといつもぶるぶる震えてしまうのでした。

ウォルフ少年の叔母さんが持ち家と金貨が詰まった古い羊毛製の靴下を持っていることは周知のことでしたから、さすがに少年を慈善学校へやることはできませんでした。

ウォルフ少年は結局ある学校に行くこととなったのですが、叔母さんは学費を割引してもらおうとして校長先生とひどい口論をしました。この悪人―校長先生のことです―はこんなにみすぼらしい服を着ているうえに学費もわずかしか払わないような生徒を受け入れることに腹の虫がおさまらず、しばしば彼を不当に罰しました。また、学友たちには彼に対していわれない反感を抱かせましたので、揃ってお金持ちの両親の息子である3人の少年たちはこの子をこき使ったり笑いものにしたりしました。

このようなわけで、可哀想に少年は子供がこれほど惨めな目にあうなんてあり得ないほど惨めでした。クリスマスの時期がやってきますと、彼はいつも隅に隠れて泣きべそをかくのでした。

 校長先生は、クリスマス・イブに全校生徒を真夜中のミサに連れて行き、その後彼らを家に連れて帰ることをならわしとしておりました。
(※「真夜中のミサ」とは、イエス・キリストの降誕を祝ってクリスマス・イブの深夜に行われるミサのことです。)

さて、この年の冬は寒さがとても厳しく、何日間も大雪が降り続きましたので、生徒たちは皆暖かな衣服にすっぼりくるまれ、毛皮の帽子を耳の所まで引き下げ、裏打ちした外套、手袋と毛糸編みのミトン、そして頑丈な厚底靴といったいでたちでやってきました。唯一人、小さいウォルフだけは平日にも日曜日にもいつも着ているみすぼらしい服で、ガタガタ震えながら姿を現しました。足には薄い靴下と重い木靴をはいているだけでした。

いたずら者の学友たちは彼の悲しそうな顔とぶざまな様子に気付くと、いろいろと冗談を言っては彼をからかいました。しかし、小さいウォルフは指を温めようとひっきりなしに息を吹きかけていましたし、しもやけが本当に辛かったものですから、彼らには注意を向けませんでした。そうこうしながら、少年たちは校長先生の後ろに二列になって歩き、教会へと出発したのでした。

 教会の中は蝋燭が灯されて明るく輝いており、快適でした。温かくなって気分も高揚した少年たちは、聖歌隊とオルガンの音楽が響いているのをよいことに、低い声でお互いにお喋りをしておりました。彼らは家で待っているお楽しみについて自慢しあいました。市長さんの坊っちゃんは、出かけぎわに、大きなガチョウがお腹に詰め物をされ、調理の下ごしらえができているのを見ました。長老参事会員のお宅には小さな松の木があって、その枝々にはオレンジやお菓子やおもちゃが吊り下げられておりました。そして、法律家のお宅のコックはこれまで見たこともないほどきちんと帽子をかぶっていました。帽子にそんなに気を付けるなんて、彼女自身考えたこともありませんでした。何かとても良いことを期待していない限りはね!

それから彼らは、幼な子キリスト様が彼らに持ってきて下さり、彼らの靴に入れて下さるものについても話しました。皆さんもおわかりの通り、靴はベッドに入る前に煙突の所にちゃんと置いておくのです。小さないたずらっ子たちの目は、檻の中のネズミたちのように生き生きとしていて、明日の朝目覚めたときのお楽しみを思い、もう今からキラキラと輝いていました。砂糖漬けのプラムで一杯のピンク色の袋や、箱の中で隊列を整えた鉛の兵隊さんたちや、まだニスのにおいがする木製のサーカスの動物たち、それに紫色の衣装にピカピカ光る飾りをつけた素晴らしい操り人形が見つかることでしょう。

 ああ!これまでの経験から小さいウォルフにはわかっておりました。締まり屋の叔母さんは夕食抜きで彼を寝に行かせることを。でも、子供らしい信頼と、一年中できる限り善良で勤勉だったと確信していたのもあって、幼な子キリスト様が自分のことをお忘れにはならないだろうと希望をもっていたものですから、彼も頃合いをみて自分の木靴を暖炉のところに置いておこうと心づもりをしていたのでした。

真夜中のミサが終り、礼拝の参列者たちはお楽しみを待ちかねて、そそくさと立ち去りました。生徒の一団も常に二列になって歩きながら、先生の後に続いて教会を後にしました。

 ところで、教会の張り出し玄関の彩色アーチの隅に据え付けられている石造りのベンチの上で、一人の子供が眠っておりました。それは白い羊毛の衣服を着た子供でしたが、寒いにもかかわらず小さな両足は裸足のままでした。彼は物乞いではありませんでした。なぜなら彼の衣服は白くて新しいものでしたから。それに、足元には大工道具の包みが一つ置いてありました。

澄みきった星明かりの中、目を閉じた彼の顔は神々しいまでの美しさに輝き、長い巻毛の金髪のふさは額のまわりに光輪をなしているように見えました。しかし、小さな足は厳しい12月の夜の寒さに真っ青になっていて、見るも哀れなのでした!(続く)

「木靴」第1回はこれでおしまいです。

寒い夜、裸足で眠っているこの子供は一体誰なのでしょう。
続きは明日。どうぞお楽しみに。

この物語の原文は以下よりどうぞ。


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