[西洋の古い物語]「ヴァンダル・キャンプの幽霊騎士」
こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今日は、ヴァンダル人の古い要塞跡に現われる幽霊騎士のお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※ 今週はオリンピックの日本選手の皆さんの活躍とパリの町並みの美しさに酔いしれました。灯りがともる夕景のルーブルの美しい画像を、フォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございました。
「ヴァンダル・キャンプの幽霊騎士」
昔、グレートブリテン島にアルバートという名の騎士がおりました。彼は武芸に長け、あらゆる美徳に飾られておりました。ある日のこと、彼は冒険を探しているうちに偶然ある城に迷い込みました。城では手厚いもてなしを受けました。
夜になり、夕食が終わりますと、冬の間、由緒ある名家ではよくそうするように、一家の人々が炉端に集まり、いろいろな話をしながら時を過ごしました。そのうち、彼らは近くのワンドルベリーの野原に幽霊の出る塚があることを語りました。その場所は、昔、土地を荒らし、キリスト教徒たちを殺戮したヴァンダル人たちがその場所で野営を張り、その辺りに要塞を築いた場所でした。さらにこんなことも語られました。静まりかえった夜に誰かがその野原を横切り、塚に登って「我が敵よ、姿を現せ!」と大声で叫ぶと、廃墟となった要塞からたちまち巨大な幽霊のような姿が、闘いに備えて武装し馬に跨がって飛び出てくるのです。そして、この幽霊は叫んだ騎士に襲いかかり、速やかに倒してしまうのです。
※ヴァンダル人 5世紀に西ヨーロッパに侵入したゲルマン系の一部族
さて、この不思議な話を聴いたアルバートは、本当のことなのか大いに疑問に思い、確かめてみようと心に決めました。月が明るく輝く夜の静寂に、彼は武装し、馬に跨がり、直ちにワンドルベリーの野原へと急ぎました。高貴な血筋の従者がお供をしました。
彼は塚に登り、従者を帰すと、叫びました。
「我が敵よ、姿を現せ!」
時を置かず、廃墟の中から巨大な幽霊騎士が、完全に武装し、巨大な軍馬に跨がって飛び出てきました。
幽霊はアルバートに向かって突進してきました。アルバートは馬に拍車を当て、盾をかざして、槍で相手に突き掛かりました。両騎士ともにこの激突でぐらつきました。しかし、アルバートは決然としてその力強い腕で敵を圧倒しましたので、敵は猛烈な勢いで地面に投げ出されました。これを見るとアルバートは倒れた騎士の馬を手早く捕まえ、塚を立ち去ろうとしました。
しかし、幽霊は、立ち上がり、自分の馬が引かれていくのを見ると、槍を振り回し、アルバートの太腿を容赦なく傷つけました。そして彼は現われた時と同様、突然姿を消しました。
我らが騎士は勝利に大喜びし、城へと意気揚々と戻ってきました。城では一家の人々が彼のまわりに詰めかけ、彼の勇敢な行いを褒めそやしました。しかし、武具を脱いだとき、右太腿からはずした鎧の腿当てに血の固まりが一杯溜まっているのに気付きました。それは外腿の傷から出た血で、傷は化膿して腫れ上がっていました。城の人々は心配し、大急ぎで薬草と包帯をあてがいました。
それから、捕獲された馬が連れてこられました。馬は桁外れに大きく、黒玉のように真っ黒でした。両目は荒々しく閃き、首は誇らかに湾曲し、背には戦闘用の輝く鞍をつけておりました。
曙の最初の光が射してきたとき、馬は荒々しく後ろ足で立ち上がり、痛みと怒りを示すかのように鼻を鳴らし、蹄で地面を猛然と打ち鳴らしました。地面からは火花が飛び散りました。城の黒い雄鶏がときをつくると、馬は、恐ろしい叫び声を発して、忽然と姿を消しました。
毎年、その同じ夜、同じ時間に、騎士アルバートの傷は新たに口をあけ、苦痛で彼を苦しめました。かくして、臨終の日に至るまで、彼は、ヴァンダル・キャンプ(ヴァンダル人の野営地の意味)での幽霊騎士との対戦を毎年思い出させるよすがを身体に帯び続けたのでした。
「ヴァンダル・キャンプの幽霊騎士」はこれでお終いです。
ワンドルベリーはケンブリッジの南東一帯に広がる丘の上にあり、鉄器時代の環状遺跡やいろいろな伝説が残る魅力的な場所だそうです。ウォーキング・コースも整備されているようなので、(なかなか行けませんが)機会があれば訪れてみたいです。
今回のお話も紹介されていますが、ヴァンダル人との関連性は示されていません。
ヴァンダル人の野営地跡であったというお話は、『ゲスタ・ローマノールム』(13世紀頃。「ローマ人の物語」の意)に掲載されており、よく知られていたようです。長い英文ですが、もしよろしければ以下をご参照ください。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。
このお話の原文は以下の物語集に収録されています。
次回をどうぞお楽しみに。