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[西洋の古い物語]「メイブロッサム王女」第3回

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
「メイブロッサム王女」第3回です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※明日は3月3日、桃の節句ですね。画像は外出先で出会ったお雛様です。なんだか幸せな気分になったので、思わず写真を撮らせていただきました。

「メイブロッサム王女」第3回

 行列には王妃様と王女様、王女様の親類にあたる60人の王女様方、それから近隣の王国から来られた120人の王女様方が加わっていました。この方々が堂々と進んで来ますと、空が暗くなり始め、突然雷鳴が轟き、雨と霰が滝のように降ってきたのです。王妃様は豪華なマントで頭を覆いました。行列に加わっていた王女様方もお付きの侍女たちも皆、同じようにしました。メイブロッサム王女も彼女たちを見習おうとした時、まるで烏やミヤマガラス、大鴉、コノハズク、そしてあらゆる不吉な鳥の大群が鳴くような恐ろしくしゃがれた鳴き声が聞こえ、その瞬間、巨大なフクロウが王女様の方にさっと飛んできて、蜘蛛の糸で織られ、蝙蝠の翼で刺繍したスカーフを彼女の上に投げ掛けたのです。続いて嘲り笑う声が空に轟き渡りました。一同は、またしても妖精カラボスの不愉快な悪ふざけか、と思いました。

 王妃様はこの不吉な前兆に恐怖を覚え、王女様の肩からその黒いスカーフをはずそうと引っ張りましたが、まるで釘で打ちつけてでもあるようにそれは実にぴったりとくっついているのでした。

「ああ!」と王妃様は叫びました。「私達の敵を鎮められるものは何もないのかしら?あのひとには甘いお菓子を50ポンド以上も届けたし、一番上等のお砂糖もその二倍は送ったわ。もちろん、ウエストファリアのハムも二つね。なのに、何の役にも立たなかったのね。あのひとはこれまで以上に怒っているのだわ。」
(※ウエストファリア [ドイツ語ではヴェストファーレン] はドイツ北西部の地名です。ウエストファリアの森でどんぐりを餌に飼育された豚から作るハムが有名なのだそうです。お肉を乾燥させた後、ブナ材とジュニパーの枝を混ぜたもので燻製して作るとのことです。)

 王妃様がこんなふうに悲しんでいる間、皆は川の中を引きずられでもしたかのようにびしょ濡れになりましたが、それでも王女様は大使のこと以外何も考えていませんでした。そして丁度この時、大使が王女様の前に姿を現しました。王様もご一緒でした。喇叭の大音響が響き渡り、人々は皆それまで以上に大声で歓呼しました。ファンファロネードはいつもなら言葉に詰まるなどということはないのですが、王女様にお目にかかりますと、考えていたよりもずっとずっと美しくて威厳がありましたのて、彼は数語口ごもっただけで、何ヶ月も練習してきて、寝言でも言えるほどに覚えてきた長広舌を完全に忘れてしまいました。その一部分でも思い出すための時間稼ぎに、彼は何度も王女様に深々とお辞儀をしました。彼女の方は、何も考えずに6度も膝をかがめて会釈をしました。そして、彼の明らかな困惑を和らげようとして言いました。
「大使様、あなたがおっしゃろうとなさっていることは全て素敵なことに違いありませんわ。だって、あなたがおっしゃろうとなさっているのですもの。でも、急いで宮殿へ参りましょう。雨が土砂降りですわ。邪悪な妖精カラボスは私たち皆がびしょ濡れでここに立っているのを見て面白がるでしょうから。雨宿りできる所に行ったらカラボスのことを笑ってやれますわ。」

 すると大使は言葉を発することができるようになりました。そして彼は、明らかにその妖精は王女様の輝く瞳によってかき立てられる愛の炎を予見して、それを消すためにこの洪水を送ってよこしたのでしょう、と礼儀正しく答えました。それから彼は王女様を導くために手を差し出しました。

 彼女はそっと言いました。
「あなたのことを私がどれほどお慕いしているか多分おわかりにならないでしょうから、ファンファロネード様、私、はっきり申し上げなくてはと思いますの。元気に跳ねる美しいお馬に乗ってあなたが町の門を入って来られるのを見た時から、あなたがご自身のためにではなく他の方のために結婚申し込みの口上を述べにいらっしゃったことが残念でしたの。ですから、もしあなたも私と同じお考えでしたら、私、あなたのご主人のかわりにあなたと結婚いたしますわ。もちろん、あなたが王子様じゃないことは存じておりますわ。でも、あなたが王子様でもやっぱりあなたのことが同じぐらい好きですわ。私たち、世界のどこか心地良い隅っこで暮らしましょ。そしてずっと幸せに過ごしましょうよ。」

 大使はきっと夢を見ているに違いないと思い、美しい王女様が言ったことをほとんど信じることができませんでした。彼は返事もできずに、ただ王女様の手を握りしめましたので、しまいには彼女の小さな指を本当に痛めてしまいましたが、彼女は叫び声も発しませんでした。

 彼らが宮殿に到着すると、王様は娘の両頬にキスをして言いました。
「わが子羊よ、そなたは偉大なるマーリン王のご子息と喜んで結婚するであろうな。大使殿はご子息の名代でそなたを引き取りに来られたのじゃ。」
王女様は膝をかがめてお辞儀をしながら、「父上様の御意のままに」と言いました。
「私も同意いたしますわ」と王妃様もおっしゃいました。「では、祝宴の用意をさせましょう。」
この命令は大急ぎで行われて、皆は祝宴を行いました。ただ、メイブロッサム王女とファンファロネードだけはお互いを見つめていて、その他のことはすっかり忘れておりました。

 祝宴の後は舞踏会、その後はバレエと続き、とうとう皆くたびれて、腰掛けた場所で眠り込んでしまいました。ただ恋する二人だけがネズミのようにしっかりと目を覚ましておりました。何も恐れるものがないのを見ると、王女様はファンファロネードに言いました。
「早く逃げましょう。これ以上のチャンスはもう二度とないでしょうから。」

 そして彼女はダイヤモンドの鞘に入った王様の短剣と王妃様のネッカチーフを取り、それから手をファンファロネードに預けました。ファンファロネードはランタンを携えておりました。二人は一緒に泥だらけの街路へと走り出て、海岸へと下りて行きました、海岸で二人は小舟に乗り込みました。小舟の中では貧しい老船乗りが眠っていましたが、目覚めるとダイヤモンドと蜘蛛の巣のスカーフを身に付けた美しい王女様がいらっしゃいましたので、もう何も考えることができず、王女様が舟を出すようお命じになりますと彼は即座に従いました。

 月も星も見えませんでしたが、王妃様のネッカチーフには丸い石榴石が包まれておりまして、それが松明50本ほどの明るさで輝くのでした。ファンファロネードが王女様にどこへいらっしゃりたいか尋ねますと、彼女は「あなたと一緒ならどこへ行こうとかまわないわ」とだけ答えました。

「でも王女様」と彼は言いました。「あなたをマーリン王の宮廷へお連れすることはさすがにできかねます。王は縛り首でも私には寛大すぎると思うでしょうから。」
「あら、それなら」と彼女は答えました。「私たち、スクォラル島に行くほうがいいわね。誰も住んでいないし、遠すぎて誰もそこまで追いかけては来られませんもの。」
そこで彼女は年老いた船乗りにスクォラル島へと舵を取るよう命じました。

「メイブロッサム王女」第3回はここまでです。

 愛するファンファロネードと駆け落ちして離れ小島を目指すメイブロッサム王女ですが、はたして彼女が夢見ている二人っきりの甘美な生活が待っているのでしょうか。心配ですね。
 
 二人が目指す島は英語では”Squirrel Island”と書かれています。“squirrel”は「栗鼠」の意味ですから、最初は「栗鼠島」と訳そうかなと思ったのですが、実はこの言葉、“quarrel”(口喧嘩の意味)と語感がよく似ていますね。それで島の名前は「栗鼠島」ではなく「スクォラル島」と訳すことにしました。(ちなみに、この物語の原典はフランス語なのですが、フランス語でも「栗鼠 “écureuil”」と「口喧嘩 “querelle”」はよく似た語感の言葉です。) 

これ以上は「ネタバレ」になってしまいそうなので自粛しますね(笑)。
次回をどうぞお楽しみに。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
「メイブロッサム王女」はもう少し続きます。
最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

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