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[西洋の古い物語]「バレンタインデー」



こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回はバレンタインデーにまつわる物語です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※ 画像はエドモンド・ブレア・レイトン作「歌の終わり」(1902年、部分)です。歌が終った後、恋人たちはどんなことを話すのでしょう。

バレンタインデーの起源は幾つか説があるようですが、こんなお話もあります。

「バレンタインデー」

 善良なる聖ウァレンティヌス(バレンタイン)は皇帝クラウディウス2世の時代のローマの司祭でした。彼と聖マリウスはキリスト教の殉教者たちを助けました。この親切な行いのために聖ウァレンティヌスは捕らえられ、ローマ総督の前へと引きずり出されました。総督は彼を有罪とし、棍棒で殴り殺したうえ、首を刎ねるよう命じました。聖ウァレンティヌスは270年頃の2月14日に殉教を遂げました。

 この頃ローマにはある慣わしがありました。それは古くからの慣しで、2月に異教の神を賛美するルペルカーリア祭を祝うことになっていたのです。祭の際には様々な異教の祝祭が行われましたが、その中にこのようなものがありました。若い女性たちの名前を書いて箱の中に入れておき、その名前は偶然が導くまま、男性たちによって箱から引かれたのです。
(※ルベルカーリア祭は、古代ローマで2月15日に牧神ルペルクスのために行われた豊饒祈願のお祭りです。)

 ローマの初期キリスト教会の聖職者たちは、さまざまな異教の祭礼から異教的要素を払拭しようと努めました。例えば、乙女たちの名前を聖人の名前に代えることにしました。ルペルカリア祭は2月の半ばに始まります。そこで聖職者たちは、新たにキリスト教化された祭礼を祝うために聖ウァレンティヌスの殉教記念日を選んだと思われます。このようなわけで、若者たちがバレンタイン(恋人)にしたい乙女を選ぶ、もしくは新しい年の守護者として聖人をお祝いするという慣わしは、こんなふうにして始まったのです。

バレンタインデーの起源についてのお話はこれでお終いです。


もう一つ、バレンタインに愛する女性への思いを歌ったフランスの詩人について、こんなお話が伝わっています。

「囚われ人のバレンタイン」
(ミリセント・オルムステッド作、adapted)

 オルレアン公シャルルは1415年のアジャンクール(アザンクール)の戦いで捕虜になり、25年間にわたってイングランドで幽閉されました。彼が作ったバレンタインの詩は、書かれたものとしては最も早いものだとされています。その詩は彼がロンドン塔に幽閉されている間に書かれ、今でも大英博物館の王室関係書類のなかに見ることができるのです。

 その中の1つはこんなふうに書かれています。

  恋人になってくださいますか。愛しいひとよ、返事して下さい――
  優しく同意してくださるか、さもなければ断って下さい。
  そっと囁いてください、誰にも知られぬよう。
  恋人になってくださいますか。愛しい人よ、
                   ――はい、それとも、いいえ?

  運命は意地悪ですが、私たちは
  あなたからの一言で幸せになれるでしょう。
  命は疾く飛び去るもの、――過ぎゆく前に
  あなたは私の恋人になって下さるでしょうか、
                   ――はい、それとも、いいえ?

「囚われ人のバレンタイン」のお話はここまでです。

 オルレアン公シャルル(シャルル・ドルレアン 1395-1465)は、イングランドとフランスの間で行われた百年戦争の時代のフランス貴族、オルレアン家の当主で、詩人としても知られています。フランス王家とも血縁が濃く、自身は国王シャルル6世の甥、また彼の息子は後に国王ルイ12世となりました。フランス側が壊滅的敗北を喫したアジャンクールの戦いで捕虜となり、以後イングランド側が和平交渉を有利に進めるための政治的捕虜として長きにわたって幽閉されました。その間には、領主不在のままイングランド側に攻囲されたオルレアンがジャンヌ・ダルクによって解放されるといった、歴史上名高い事件も起きました。

 オルレアン公シャルルは恋愛をテーマとした詩も多く残していますが、今回ご紹介した「囚人のバレンタイン」で引用されている彼の詩がバレンタインの詩として書かれた最も早い作例であるのかどうかについては、議論があるようですね。一番早い作例かどうかはさておきまして、戦争に敗れて捕虜となり、異国の地で長く幽閉の身であったシャルルは、誰よりも命の儚さを感じていたことでしょう。愛しい女性の「はい」の一言は、彼の憂いを慰め、辛い日々に幸福の光をともす魔法の一言なのですね。彼はその嬉しい一言を聞くことができたのでしょうか。

 もうすぐ今年もバレンタインデーがやってきます。日本では、チョコレートを使者として女性から男性へと愛の告白をする日、ということになっていますね(こういうのを「本命チョコ」というのでしょうか)。一人でも多くの方々が、お相手からの嬉しい一言を聞くことができればいいですね。

今回のお話の原文は以下の物語集に収録されています。

最後までお読み下さり、ありがとうございました。
次回をお楽しみに。

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