『7人の聖勇士の物語』第10章 (2) ウェールズの騎士、聖ディビッドが邪悪な魔法使いを退治する冒険に赴くお話。
こんにちは。
いつもお読みくださりありがとうございます。
以前、短い間でしたが親しくして頂いた方がありましたが、もう数年ご無沙汰しています。その方は事情があって故郷に帰ることになったのですが、最後にお会いした日の別れ際に、メルアドを新しくしたからと教えてくださいました。雪の降りそうな寒い晩のことでした。
そのアドレスはConvallaria@*******なのですが、何度メールを送っても送信不能で返ってくるので、その内に諦めていつしか忘れておりました。Convallaria(コンヴァラリア)という、優美な響きのこの言葉は「鈴蘭」の学名だとその時知りました。詳しくはConvallaria majalis(コンヴァラリア マヤリス)、別名「谷間の百合」というそうです。
「谷間の百合」といえばバルザックの薄幸のヒロインを思い出します。彼女はどうして急に故郷に帰ってしまったのでしょう。何故新しいメルアドにこの言葉を選んだのでしょう。考えているとなんだかせつなくなってきました。私の勝手な空想とは異なって、どうか幸せにお暮らしでありますように、と祈らずにはいられません。多分もうお目にかかれないような気がしてならないのですが。
優美な鈴蘭の写真はフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございます。今は鈴蘭の季節では全然ないのですが、上のような理由で冬が近づくと思い出す花です。
『7人の聖勇士の物語』の続きです。
聖ディビッドと忠実なオゥエンは皇帝の命令に従い、魔術師オーマンダインを対峙するために出発します。
『7人の聖勇士の物語』
第10章 ウェールズの聖ディビッドの冒険(2)
3日の内に、聖ディビッドと忠実なオゥエンはすべての支度を整え、出発の準備ができました。
彼らは何日間も東の方向へと進みました。道中の憂さを紛らわせるために楽しく会話をしながら行きましたが、それでも疲労困憊する旅でした。ついに恐ろしい森の領域にたどりつきました。木々はあらゆる方向へと曲がりくねり、長い刺やかぎ針のついたあらゆる種類の茨や蔓が枝々からつり下がっていました。前方では不思議な炎が燃えているように見え、森の奥の暗がりの中でちらちらと揺らめいていました。そして、凶兆を告げる鳥たち、梟や大鴉、蝙蝠、その他恐ろしい姿の翼ある生き物が、耳障りな陰気な声で鳴きながら大枝の合間を飛んでいました。聖ディビッドが教えられたところによると、この森の中に魔術師オーマンダインの城があるのです。
「忠実なるオゥエンよ」と聖ディビッドは言いました。「我が名誉と騎士道の誓いによって、私はこの悲しみに満ちた不思議な森に入り、通っていかねばならない。だが、お前は森の外で私の帰りを待つのだ。そして、もし私が戻らなかったら、故郷の親族のもとへ行き、私の悲しく物憂い最期をすべて物語るのだ。」
忠実なオゥエンはこの言葉を聞くとわっと泣き出し、こう答えました。「長く敬愛してまいりました名高いご主人様、仮に一万の森があって、その一つ一つに三万人の邪悪な魔法使いが住んでいて、その一人一人を倒しながら道を切り開かねばならないとしても、私は変わらずおそばにいて、腕と手と剣が動く限り戦いたいと思います。」
「ならばこの恐ろしい森に入っていこう、忠実なオゥエンよ、さあ!」と聖ディビッドは声を上げました。そして、剣を抜くと、彼らの前進を阻む茨や蔓を断ち切り始めました。忠実なオゥエンはこの仕事をよく手伝いました。このようにして、ゆっくりとではありますが、彼らは道を切り開き、進んでいきました。進むにつれて、叫び声や金切り声はどんどん増していき、頭上の空は毒々し赤い流れ星で覆われ、おぞましい凶鳥が群をなして頭の周りを飛び回り、異国の冒険者たちの耳にすさまじい金切り声を響かせました。
「得るに値するものは少ないが、困難と忍耐なくしてはめったに得られないものだ。」はい回る植物の蔓を切り払いながら聖ディビッドは言いました。「我々の耳を襲う梟の鳴き声や金切り声や叫び声は、気にしなければ何ともない。気高い冒険をなそうとするときには、あのおぞましい梟のように、躍起になってやじり倒そうとする人間が大勢いるものだ。」
このようにして雄々しく切り払い、断ち切りながら、彼らはついに古い城の城壁が見えるところへやってきました。城壁は陰鬱で威圧するようにそびえ、じめじめしていて、苔が一面に覆っておりました。その近くには巨岩がありましたが、城壁よりももっと湿っぽく、苔むしておりました。この巨岩の中には、魔術で一振りの剣が封印されており、見えるのは剣の柄だけでした。それは精巧な彫刻がほどこされた鋼のわざもので、碧玉、サファイアなどの貴重な宝石がはめ込まれていました。柄頭の周りには黄金の文字で次のような言葉が彫り込んでありました。
「魔法の呪文により、誰も知らない、世にも不思議な驚異が固く閉ざされている。この岩から剣を引き抜く北方の騎士が見つかるまで。その時、我が呪文は解け、我が魔術もすべてが終る。その騎士の強き手によって賢者オーマンダインは倒れねばならぬ。」
「北方の騎士だと!私のことに違いない」と聖ディビッドは声を上げました。「疑いなく、私はあの岩から魔法の剣を引き抜くよう運命づけられているのだ。ひとつやってみよう!」
こう言うと、彼は馬から降りて、剣の柄を握り、渾身の力で引っ張りました。強く、ぐいっと引っ張りましたが、そのかいなく、百分の一インチもその剣を引き出すことができませんでした。
しかし、彼は頑張り続け、手を放そうとはしませんでした。とうとう、忠実なオゥエンは手伝ってもよろしいでしょうか、と願い出ました。そこで、騎士と従者は懸命に引っ張りましたが、それでも剣はどうしても動きませんでした。
次いで、二人は両手を大きな柄にかけ、両足を岩に突っ張りました。これなら剣を動かせるに違いないと思いながら。しかし、そのようにして彼らが引っ張り始めるやいなや、周りで恐ろしい叫び声や嘲り笑う声がわきおこり、城の門が大きく開いて、石炭のように黒い顔と恐ろしく歪んだ体をした12人の醜い侏儒が出てきました。彼らは手に鉄の鎖を持っており、彼らが動くと鎖がジャランジャランと音を立てました。そして、彼らは、歯をむき出し、威嚇的な仕草をしながら、騎士と従者に近づいてきました。
聖ディビッドと忠実なオゥエンは魔法の剣の豪華に宝石で飾られた柄から手を離そうと思いましたが、懸命に手を離そうとしても両手は柄にしっかりとくっついて離れません。今や、剣を引き抜こうとしていたのと同じぐらい必死で手を離そうともがきました。しかし、いくら強く引いてももがいても無駄でした。
しばらくの間侏儒たちは周りに立って、二人の狼狽ぶりを楽しんでいましたが、やがて鉄の鎖を彼らに投げかけると、地上の力ではほどけないように縛り上げ、魔法の城へと運んでいきました。二人は乳母の腕に抱かれた幼子のようにどうすることもできませんでした。
城内には、とても広くて陰気な鉄の広間がありました。唯一の明かりははるか端のほうで燃えている赤黒い松明から発せられていました。広間の中央には無数の鉄のベッドがずらりと並んでおり、その上には犠牲者たちが、残酷な魔術師に縛られたまま横たわって身をよじっておりました。7年という期限が完了するまでの長い間、私たちも彼らをそこに置いておきましょう。そして、毎日魔術師オーマンダインがやってきては彼らの惨めな身の上を嘲ったり、いい気味だとほくそ笑んだりされるがままにしておきましょう。
「ああ!ああ!」と魔術師は一万匹の蛙の鳴き声のような声で叫びました。そして雷のような大声で言いました。「お前たちは私の首を刎ねて、血まみれの戦利品を皇帝に持って帰ろうとしてやってきた。しかし、見るがよい、タタール人を捕えたぞ。」
しかしながら、魔術師のこのような所業にもかかわらず、捕虜となった聖ディビッドは魔術師が思っていたほど惨めではありませんでした。親切な妖精がいつも彼を守っていたのです。聖ディビッドが寝台に横たわっていると妖精は4名の召使いの精霊を並みならぬ美しさの乙女の姿で派遣しました。乙女たちはこのうえなく優しく彼に仕え、世話をし、果物やその他の贅沢な食べ物を持ってきて、彼が目覚めるとそれらを差し出し、甘美な歌声でまた彼を寝かしつけました。妖精の助けがなければ陥ったに違いないひどい状況よりもずっと心地よく時は過ぎていきました。魔術師はそんなこととは露ほども知らなかったのでした。
今日はここまでです。
聖ディビッドと従者オゥエンは、魔術師に捉えられて、鉄のベッドに縛り付けられてしまいました。妖精のはからいで、快適に過ごせるとはいえ、7年間もこの状態が続くと思うと気の毒でなりませんね。
次回をどうぞお楽しみに!