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『7人の聖勇士の物語』第12章(2)大馬上槍試合が終わり、7人の騎士とその従者たちが再会するお話。

こんにちは。
いつもお読みくださりありがとうございます。

「たーした」?
私にはどうしても「たーした」と聞こえるのです。
帰りのバスの運転手さんが、降車するお客さんにかけていた一言なのですが。

「たーした」、「たーした」、「たーした」・・・
降りる人の一人一人に声をかけるので、連続して聞こえてくると何だかおかしくなって、笑うのを我慢するのがたいへんでした。

シチュエーションから考えれば、「ありがとうございました」とおっしゃっていると思われるのですが、どうしても「たーした」と聞こえます。「ありがとうございま」の部分がどうやったら「たー」と短縮されるのでしょう。

言葉っておもしろいですね。
バスを降りてから家までの道、まわりに誰もいなかったので、遠慮なくクスクス笑いながら歩きました。

また「たーした」の運転手さんにお会いできるかな。

『7人の聖勇士の物語』の続きです。
東の大帝が大規模な馬上槍試合を開催し、多くの武勇自慢の騎士たちが参集します。馬上槍試合の優勝者となった7人の勇士たちは、仲間の一人、聖アンソニーが伴っている美しい王女が、長い間巨人に捕えられていたグルジアの7人の王女たちの長女、ロザリンド姫だとわかり、喜びました。

12章は長い章なので3回に分けてお送りしています。今回はその2回目です。

『7人の聖勇士の物語』
第12章 コンスタンチノープルの馬上槍試合大会(2)

するとスコットランドの聖アンドルーは叫びました。「私としては、白鳥の姿になっていた6人の美しい王女たちをうら若い貴婦人へと戻すお手伝いができたのは幸運でしたが、あの方(ロザリンド)は彼女達の姉上なのですね。妹さんたちがご無事と聞くと、あなたの奥方は喜ばれることでしょう!」

「ああ!では、あなたがあの国を発ってからの出来事はご存じないのですね、スコットランドの友よ!」と聖パトリックは叫びました。「ははは!王女たちは全員、父上が知らないうちにあなたを追って出発したのですよ。私は森の中をさまよっているときに王女たちと6人の侍女たちに出会いました。そして、あの方々を捕えていたおぞましい敵から幸いにもお助けした次第です。私は、彼女たちはもうあなたを見つけただろうと思っていたのですよ。」

「いや、実のところ、今まで彼女たちから逃げまわっていたのです。」と聖アンドルーは両手をこすり合わせながら答えました。「王女のうちの誰かが私に結婚してほしいと言い出すかもしれなかったし、結婚なんて私には全然似つかわしくありませんからね。なにしろ私は、まだ何年も独身でいるつもりなのですから。」

「あなたが王女たちの誰かに結婚を申し込まなかったとは驚きです。我が勇敢なるアイルランドの友よ。」と聖アンソニーは言いました。「あなたのお国の有名な騎士道精神にも叶っているし、私もあなたを義弟として歓迎できたなら嬉しかったですのに。」

アイルランドの聖パトリックは答えました。「確かに!私としては王女たちの一人と結婚するか、さもなければ全員と結婚したかったところです。一人を選ぶことは至難のわざですし、残りの方々の気持ちを傷つけることは目に見えていますからね。あれほど感じの良い若いご婦人たちにお目にかかったことはありません。そこで、手に入れた小さな車を王女たちに差し上げ、数頭の鰐と河馬に引かせました。そして、世界をさまようかわりに、父君の宮廷へとおとなしくお帰りになるようお奨めしたのです。王女たちが私の助言に従って下さったかどうかはわかりません。なぜなら、彼女たちが北へ向かうと、私は馬の向きを変えて、我が忠実な従者とともに南へ向かったからです。」

仲間たちはこれに類した多くの冒険の話をしましたが、とてもお話しする余裕はありません。

騎士たちは楽しく過ごしました。そして、従者たちはもっと楽しく過ごしました。彼らは互いが誰かがわかると愉快になり、ド・フィスティカフの天幕に集まることで合意しました。集まりは実に楽しく、彼らはものすごい量のお肉を食べ、サモアやファレルノのワインの大杯を数え切れないほど飲み干しました。そして愉快な冒険物語を数多く語り、おどけた歌を歌いました。従者たちはそれぞれ主人の偉業と故国を声高に自慢しました。忠実なるオゥエン・アプ・ライスは誰よりも大声でウェールズの聖ディビッドのことを自慢し、自分の愛する祖国ウェールズのことを誇らしげに語りました。この点ではアイルランドのテレンス・オグレーディもひけを取りませんでした。マードック・マッカルパインはスコットランドの聖アンドルーは最も優れた主人の一人であり、もしスコットランドが世界中で最も美しく最も広い国でないとしても、ともかくも彼はスコットランドを一番愛している、なぜならスコットランドはスコットランドであり、彼の祖国であるからだ、ときっぱりと言い切りました。

「握手だ、我が友よ」とド・フィスティカフがとびあがって叫びました。「まさにそれこそ私が楽しいイングランドが好きな理由だ。イングランドには欠点もあることは認めよう。だが、ほぼ世界中を歩き回ったが、私の考えではイングランドに匹敵する国はない。欠点はあれど、私はイングランドを愛している。」

「ふん!」フランスのル・クラポゥは声を上げました。「ともかくも、イングランドはうまし国フランスとは比べものにならないですね。」

「イタリアには劣りますよ、疑いなくね。ほら、古代のローマ人たちはなんと気高い人々だったことか!」とイタリアのニッコロは、片手一杯ほどのマカロニを呑み込みながら言いました。

「小さな島をスペインのような広大な領土と比べるとは!」とスペインのペドリロは叫びました。「ほら、我々は文明人でローマの属領だったのですよ。かたや、ブリテン人は体に色を塗った未開人で、世界中の誰にも知られていなかったのです。」

こんなふうに彼らは言い争いましたが、皆上機嫌でした。そして、この話題について多くの冗談が言い交わされました。彼らの故国についてのあれやこれやはお終いにしなければなりません。そして遂に騎士たちの晩餐も従者たちの楽しい夕餉もお開きとなりました。

勇士たちは、これまでに従事した無数の闘いで疲れた手足をふかふかの寝台で休ませましたが、翌日彼らがまだ起き上がるか起き上がらないうちに、たいへん美しい6人の異国の王女たちが首都に到着し、変装して試合を観覧していたことが知らされました。王女たちの到来の様子はこんなふうであった、あんなふうであったと言う者たちの中に、王女たちは飼い慣らされた12匹の鰐と同数の河馬に引かれた車に乗ってやってきた、と述べる者がありました。

「グルジアの王女たちだ、たいへんだ!」と叫んでスコットランドの聖アンドルーは寝台からとびおきました。「マードック、全速力で見てまいれ、そしてもしそうだったら馬と荷物をすぐに用意するのだ。さもなければ、あの気丈夫なお嬢さんの誰かが、我がうるわしのスコットランドの先祖伝来の城までご一緒します、と言ってきかないであろうから。」

その知らせを聞いて、「獲物の居場所はもう突き止め済みだよ、間違いない」とアイルランドの聖パトリックは叫びました。彼は若い頃狩りが好きだったのです。「苦労のかいあって、彼女たちは我々の隠れ場所を突き止めたのだよ。一つ言っておかなくてはならないことは、全員とても愛らしいお嬢さんだということ。それに、多くのうら若い貴婦人は偏見とか内気さが障害になって良い嫁ぎ先を見つけられないものだが、あの王女たちはそんなものには全く悩まされてはいない、ということさ。どう思う、テレンス、深入りするとひどい目にあいそうだね?」

「ああ!全くです、気高いご主人様、そうですとも!でも、私が思いますに、アイルランドにお戻りになったら話は別です。あのグルジアの王女たちが足元にも及ばない美人を大勢見つけることは、アイルランドではたいして難しくはございません。」とテレンスは答えました。

聖パトリックは故郷アイルランドの美しい女性たちを熱烈に崇拝していました。アイルランドの女性たちの美しさを知っている者で彼女たちを崇拝しない者がいるでしょうか。実は、聖パトリックは王女たちの誰かを花嫁にしようという考えを心に抱き始めていたのですが、故郷の女性たちについて従者がわざと添えた言葉によって気が変わりました。

7人の戦士たちは朝食の席で顔を合わすと、然るべき重々しさでこの件について語り合いました。貴婦人が6名に対して独身の騎士は5人しかおらず、あとの2名は結婚したてであることをあらためて考えました。

「でも、仮に私たち5名が王女のうち5名と結婚することとしても、1人は片隅の子猫のように取り残されてしまいます。のけ者にされるに違いありません」とスコットランドの聖アンドルーが意見を述べました。彼は明らかに皆の中では一番結婚に気乗り薄で、朝食後すぐに出立しようと手配を整えていました。

「ああ!一人は尼僧にならねばなりませんね」とアイルランドの聖パトリックが言いました。「働きたくなくて、何の役にも立ちたくない者にとっては至極結構な人生ですけどね。」
(※結婚できなかった女性が尼僧院に入ることがあったのは昔のお話です。それに、尼僧についての聖パトリックのコメントはあくまでも物語中のことなので、どうぞご寛恕ください。)

しかし、朝食が終るか終らぬかのうちに戦士たちは皇帝の御前に呼び出されました。参上しますと、皇帝のまわりに座っていたのはあの6人のグルジアの王女たちで、光り輝くように美しく、たいへん魅力的で見る者をうっとりとさせました。

「美しいご婦人方、実に気高く心強き王女たち、ここに7名のキリスト教国の勇士たちがおられる。私が知るところによると、そなたらがグルジアの我が兄弟、そなたらの父なる王の宮廷を出立したのは、これらの勇敢な戦士らの一人と(その一人以外とではお嫌かもしれぬが)、結婚するためであるという。この件にはちょっとした困難があるようじゃ。それゆえ、お選びになるがよい、心強き王女たちよ。誰と結婚なさりたいかを。この騎士たちの礼儀正しいふるまいを見たところでは、そなたたちの節度ある慎ましい願いを拒絶すまいことを、我が皇帝としての言葉に賭けて請合おう。」

さて、6人の王女たちは、皇帝の言葉を聞くと、言いようのない表情になり、百合のような頬にはさっと朱がさしました。しかし、彼女たちの目は騎士から騎士へと大広間をあちこちさまようことはなく、実に見事な見習うべき志操堅固さをもって聖アンドルーにじっと向けられていたのでした。

「あの方こそ、私たちを白鳥から乙女へと戻してくださった騎士様でございます。あの騎士様への愛のために私たちは父の館を去り、あの方をお探ししながら、よるべもなく、この世界をあちらこちらとさまよったのでございます。私たちの誰もが、あの方とのみ結婚したいと願っております。」

「よくぞ言われた、美しい王女たちよ」と皇帝は言いました。「おかげで問題が限定され、困難が減った。では、そなたたちのうち誰があの勇敢なキリスト教徒の騎士と結婚したいのか。というのも、アジアの慣習がどうであれ、彼はただ一人しか妻を持つことができないのだ。そのことを忘れてはならない。」

聖アンドルーは恐ろしい敵も巨人も野獣も悪霊も一度も恐れたことはありませんでしたが、この言葉を聞くと、自分の置かれた立場にガタガタと振るえ始め、夜明けに出立しなかったことを後悔し始めました。

気丈夫な王女たちは皆座って彼を見つめておりました。
すると、「私があの方と結婚いたします。」と一番上の王女が言いました。
勇士の胸は沈みました。
「私があの方と結婚するのですわ。」と二番目の王女が言いました。
「いいえ、私が結婚するのです。」と三番目が叫ぶと、「いいえ、私ですってば。」と四番目も叫びます。「いいえ、はっきり申し上げますが、私があの方と結婚するのですわ。」と五番目も叫び、六番目も「皆様間違っていますわ!皆様には、私こそあの方の妻となることをきちんとご了解いただけている筈ですわ!最初からわかっていることですわ!」と叫びました。

今回はここまでです。
スコットランドの聖アンドルーをめぐって6人の王女たちが言い争いを始めました。当の聖アンドルーは結婚には全く興味がない様子です。どうなるのでしょうか。
次回をどうぞお楽しみに!


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