見出し画像

『戦後新聞広告図鑑: 戦後が見える、昭和が見える』読了

かろうじて昭和生まれですが、全然知らない世界の広告でした。
著者である町田忍さんが、個人的に収集した昭和20〜30年頃の新聞広告を紹介した本です。
ジャンルごとに半ページほどの解説文が載っており、ごろごろしながら読むのにちょうどいい。

書評を読むと、同年代を生きた方の「こんなのあったなー」と懐かしむ声が多かったです。
なので、まるで違う世代の視点から感想を書いてみようかなと思います。

興味を持ったきっかけ

ブームを過ぎて定着した感のあるレトロデザイン。
あまり作らないジャンルなので、引き出しの一つに入れておこうかなという考えから手に取りました。
当たり前ですが、なんちゃってレトロとは比較にならない時代感。
垢抜けない手書き文字と不思議なレイアウトは、当時のモダンなのか当時からダサいのかわからない。商品説明の「〜は〜でありますから、〜と言うことです」といいった独特の調子もとても真似できません。

右から?左から?

かつて横書きは右から左へ流れていたのは知識としてありましたが、この本で主に取り上げている昭和30年前後は今と同じ左から右。
一部昭和10年代も紹介されており、それは右からでした。
少し調べるとアメリカではなく日本主導で統制したとか、左右混在していた時期が結構あったらしいなど興味深い情報が。別の機会に詳しく調べてみたいです。

ドン引き景品

グリコ商品に付いている補助券10枚で、なんと小鳥プレゼントがあったそう。

特賞 オウム
一等 カナリア
二等 文鳥つがい
三等 セキセイインコつがい

どこから仕入れるのかとか、まともに輸送できるのかとか、その気もないのに当たってしまった家庭のその後とか、いろいろ気になりますね。
カラーひよこが露天で売られていたのもこの頃なので、小鳥がウケてたのでしょう。

囁き系多し

コピーの余韻が非常に気になります。

エスビー モナカカレー
「トロミがおいしい…」

渡辺即席しるこ
「ママが選んだステキなおやつ…」

マックスウェル インスタントコーヒー
「ひきたてのコーヒーそのままの風味がご家庭で味わえる…」

森永 チューレット
「コレ‥‥とってもかわってるのよ!」
「食べられるチューインガム…」

一体どういう読み方をしたら良いのか。
どういうニュアンスで受け取るのが正解なのか。
今の感覚だと節目がちに小声で再生されるので、とても商品アピールになると思えません。
三点だか二点リーダを使う傾向は全体的に見られました。

サンヨー夫人

サンヨー電気の洗濯機広告にスタイリッシュな立ち姿を見せる「サンヨー夫人」。
誰なの!と調べたら木暮実千代さんという女優の方がモデルだそう。
イメージキャラクターがいると途端に代理店の香りがするというか、広告〜って感じしますね。

旅広告に飛行機の外観

航空会社が提供する旅行サービスの広告。
今は観光地の写真などを載せて「旅先でのステキな体験」にフォーカスを当てますが、飛行機そのものアピールがすごい。
飛行姿やエンジン部分のアップなど、うちの飛行機はすごいんだぞという情熱でしょうか。
現代人からすると、モノクロの飛行機イラストは戦闘機とあまり見分けがつかないのでつよつよに見えるのかも。

車、バイク

縁が薄く、ほどほどの興味であるジャンル。
各メーカーが競い合うように販売しており、実際に見たり乗ったりした人は興奮しそうだなという印象です。
知識はないながら妙に気になる、日産の「ダットサン」。
口に出したくなる商品名「ダットサン」。
もとの綴りは息子を意味する「DATSON」だったものが、「損」を連想するため太陽に「DATSUN」になったとのこと。
そういえばカップヌードルも、パッケージで「ヌ」を小さく表記することでヌードを連想しないような工夫をしてますよね。
こういう配慮、今はあまりないように感じます。
昭和は揚げ足取りが多かったのでしょうか。

しかしどれも愛嬌のある表情をしています。
家電もそうですが、理由があってこのフォルムなのかな、と想像します。
技術不足で中に収まらず、やむを得ずこの外観になったような。
それが個性となり愛らしさになっているような気がしました。
今は部品が小さくなり、いくらでも好きな外観にできてしまいます。その結果、どれも同じような見た目になり退屈になっているのではないでしょうか。

紙面デザインについて

不鮮明さから古い印象を受けますが、モノクロ広告の自由度は今とさほど変わらないように思えます。
商品や企業ロゴの手書き感の影響はあれど、現役も存在する以上それだけが理由ではなさそう。一体何をもって「古臭い」と感じるのか。

1つは書体にあるような気がしました。
復刻フォントを見かけるようになりましたが、時代に合うよう調整されているため同じではないんですよね。
何を調整したのかというと、例えばカタカナの大きさ。漢字が大きく、カタカナが小ぶりだとレトロな印象になります。

もう一つは「文字の組み方」ではないかと思いました。
当事は金属活字なので必然的にベタ組。ベタ組とは、作文用紙のようにきれいにマス目に収まる組み方です。文字を並べると物理的に干渉するので、正方形より詰めることができません。
今はアプリケーション上で調整できるためその制限がなく、字形に合わせて詰めることができます。

違いがわかるのかよという感じですが、ある程度まとまった文章から出る雰囲気ってあるんですよね。
でもやっぱり技術不足による不鮮明さ、足りてない愛嬌が一番でしょうか。

今の広告は残るのか

ふと思ったのが、今の広告は半世紀後に残るのだろうかということ。
大手が作成した紙面広告はともかく、Webバナーの変遷も記録しておく価値があるのではと思います。
消費者に密着したバナー広告は時代を映す鏡、流行りもあるのできっと面白い。
誰か定点観測してる人いるのかな。

Webコンテンツは削除されたら見れないので虚無が強いです。
ソシャゲが終了したときも何も残らない寂しさがありました。
もしネット上のコンテンツが消える事件があれば、空白の数十年が生まれてしまう。
短期的な便利に依存せず、そこで人が活動した記録が残るよう意識する必要があるのかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?