セトリ解説「Ciel étoilé」
アニソンインデックスさんの公募企画に「Ciel étoilé」というミックステープで参加しました。
きっかけ
私の所属するアニソン原曲DJイベント「NERD BEAT FREAKS vol.20」にて以前披露した"星繋ぎ"をベースにしています。この時の感触が良かったので、自分が納得できる"作品"レベルまで完成度を高めたモノに昇華しておきたいというのがきっかけ。
やったこと
その1
星関連のアニソンをかき集めたプレイリストを作って、聴き込んで、イメージを掴む。
→その中でも自分が好きな曲がバラード寄りな物が多い、という気付き。
それらが活きるmixを作ろうと決心。
その2
mixのイメージをさらに固める為に、それらの楽曲から連想する単語を書き出してみる。
→キラキラ、神秘的、儚さ、切ない。でも幸せそうな雰囲気もある。
これらは一見矛盾してるようで、していない。
キラキラした部分もあり、切なさもある。それを合わせ持つから"儚い"って事なんだろうなと腑に落ちた。
この二律背反な感じを星で例えると、七夕の物語みたいだなと思いました🎋
織姫と彦星、2人は引き離されてしまっても、心の奥深くでは繋がりあっている。通じ合っている。
ということで、真のテーマは「織姫と彦星」。
前半は織姫パート……つまり女性から男性に向けたような内容の曲でまとめています。逆に終盤は彦星の気持ちに寄り添った選曲のつもり。
セトリ解説
1曲目:おもいでしりとり / DIALOGUE+
40分の冒頭として、歌い出しのインパクトも欲しい。
→「星に願いを出来るだけ愛を〜」
"星関連のmixである事"を強調しつつ、笹の葉に短冊を下げて、願いを込める"七夕"っぽくもある。
2曲目:Shine!! / CINDERELLA PROJECT
この物語にとってシンデレラはもちろん織姫。
きっと彦星も遠くからこちらにむかって呼んでいるはず。
3曲目:シリウス / 藍井エイル
4曲目:トライアングラー / 坂本真綾
おおいぬ座のシリウスは冬の大三角のひとつ
続けてトライアングラー=三角とシャレを効かせつつ、織姫と彦星が年に一度会えるのは七夕の日。時系列的には真逆の冬からスタート。心境を考えると、1番寂しさを感じるタイミングなのかも。
心は通じ合っているとはいえ、同時に不安や痛みを抱えて生きている。
本音はいつでも触れ合える距離で繋がっていたいはずだから。
5曲目:360°星のオーケストラ / petit milady
冒頭10分くらいは速めのBPM帯で勢いを付けたかったので、170〜180くらいで繋いでいきました。音楽的には起承転結の"起"を意識した、という部分ですね。
もちろん文脈的にも七夕の物語に寄り添っています。
6曲目:星のオーケストラ / saji
もちろん"星のオーケストラ"繋ぎ。
今回のmixのタイトルにも使った"エトワール"という単語は仏語で星という意味だが、転じてオペラやバレエなどの花形役者にも使われる。
「かげきしょうじょ!!」は宝塚モチーフの歌劇団のお話で、放送前にキャストインタビューさせて頂いた事もある、個人的に思い出深い作品でもあります。
7曲目:夜空 / 鈴木みのり
このmixでは4ヶ所、無音になる部分があります。5〜6曲目と6〜7曲目(イマココ)。あと12〜13曲目と16〜17曲目の間ですね。
ここの行間もかなりこだわったポイントの1つです。基本的に私はmixの中で3回も4回も音を途切れさせるのは、音楽的にあまり好きではないのですが、自分の表現したい事との折り合いを付けた結果、こうなっちゃいました。
この点が最後まで悩んだ部分ではあったのですが、こうして制作を終えて改めて聴いてみると、儚い感じというか、か細い感じというか、余韻を感じさせる演出になってる気もします。
あとは「360°星のオーケストラ」~「星のオーケストラ」~「夜空」と連続して音が途切れる部分をオルゴールっぽい音色で合わせることで、統一感出ないかな~と狙ったかな。
8曲目:I & I / Leola
先にも挙げたように推し曲のひとつです。
音楽的には7曲目から起承転結の"承ゾーン"に突入しています。
ここでの目的は、冒頭の掴みの部分(起)から、"転"へと橋渡しする為にBPMをがっつり落として、自分の世界観に引き込むことになります。
歌詞の内容としては「離れていても大丈夫」とか「2人ならきっと平気」のような"起"で聞かせた高BPM帯の曲と大差ないのですが、曲調が変わることで、そんな織姫の本音と建前的な部分が表現されているような気がします。
もちろんそれらの言葉に嘘偽りは無いと思いますが、不安な想いが溢れる時もあるはず。
ある種、自分に言い聞かせるようにそんな言葉を発している側面もあるように私は思います。そんな二律背反な部分が"承"のテーマです。
9曲目:どんな星空よりも、どんな思い出よりも / 結城アイラ
会えなくて辛い想いもしたけど、やっぱり彦星を想う気持ちに代わりは無いと再認識した織姫。この想いを忘れなければ、もう何も怖くない。
10曲目:アルタイル / 秦基博 meets 坂道のアポロン
ここで10曲目に「アルタイル」。
わし座のアルタイルとは、まさに彦星そのもの。
想い合う2人の気持ちは同じであって欲しいから「一方、その頃……」的な感じでイレギュラーに彦星モチーフの曲を1曲だけ挟みましたが、織姫パートはもう少し続きます。
11曲目:六等星の夜 / Aimer
仲良しすぎて仕事をサボってしまった結果、神の怒りを買って引き離された2人。「戻らない過去に〜」とリンクします。
12曲目:いつ逢えたら / aiko
会える日を指折り数えて待ち遠しく思う織姫。
物語が動き出す"転"に向けて、少しずつ変化を加えていきます。
13曲目:ハルカトオク / saya
ここから転です。
残酷だけど、どんなに想いあっていても、2人の距離は変わらずに遥か遠いままで。
14曲目:いちばん星 / 黒羽寧子(CV:種田梨沙)、橘佳奈(CV:洲崎綾)、カズミ・シュリーレンツァウアー(CV:M・A・D)、鷹鳥小鳥(CV:田所あずさ)
推し曲その2。
恋は切ない。でも愛はとっても温かい。
EDの映像はサビで大きな天体望遠鏡をぐるりと囲むようなカメラワークなのが、なんか印象的で記憶にあります。
15曲目:プラネタリウム / LiGHTs
もちろん"あの星"とはアルタイルの事でしょう。間奏をループさせて、天体図のAメロいっぱいまでキラキラさせてます。
16曲目:天体図 / サンドリオン
1Bからラスサビに飛ばしているんだけど、1サビとラスサビだと音圧が違うのでトリム絞ってなるべく違和感出ないようにしてます。これも後で語りますが、難しいことはせずにミキシングとかシンプルにこういう細かい基礎をこだわった方が、今回のmixのテーマである儚さの表現に繋がると思いました。
「不安があっても大丈夫!」みたいな歌詞の曲をずっと使っているけど、音楽的要素……つまりメロディとかBPMとか曲調で、織姫の「不安があっても大丈夫!」という言葉の意味が「決意」から「不安」を経て「確信」に変わる様子を描けているんじゃないかなと思っています。
文字としては同じ羅列を繰り返しているだけかもしれないけど、その背景にある想いは目まぐるしく変化しています。
17曲目:Stellar Stellar / 星街すいせい
18曲目:Stella-rium / 鹿乃
ここから彦星パートだよ!というヒントとして、歌いだしの「だって僕は星だから」を利用させてもらいました。
ここまで織姫に寄り添ってきましたが、一方その頃、彦星は彦星で自身を"迎えに行く王子様だ"と確信します。
なんとなく「お!流れ変わったな!」と感じた人も多いかと思いますが、具体的には歌詞に出てくる一人称も変わっています。
また音楽的には"結"へ。最後に再びBPMを上げて、畳みかけにいきます。
あとは「Stellar Stellar」から「Stella-rium」で曲名的にもモジってるし、こういう小ネタも畳みかけの要素ではある。
19曲目:Super Noisy Nova / スフィア
タイアップ元のTVA「宙のまにまに」は天文部が舞台の作品(それを言ったら君ソムや恋する小惑星もだけど)。このmixの最後は天体観測で〆なので、そこに対する布石でもある。
20曲目:流れ星キセキ
21曲目:ナガレボシ
これも曲名繋ぎ。「あなたを守りたい」とか、Stellar Stellarの流れで聞くと彦星視点かな。
ナガレボシは絶対にイントロから聞かせたかったので、前曲をアウトロで受け取ってeditっぽく繋ぎました。
アウトロ〜イントロ〜Aメロ〜Bメロ〜サビの流れですね。
22曲目:君の知らない物語 / supercell
ナガレボシの1サビ終わり「いつもこの胸に」
→「いつも通りのある日のこと〜」と"いつも"で被せたくてこの繋ぎ方になっている。
今回2番は使わなかったけど、ベガとアルタイル、夏の大三角に「やっと見つけた織姫様 だけどどこだろう彦星様」と歌詞は七夕要素満載。
君しらに登場する夜空は、夏の星空であることが分かります。冬の大三角から始まった物語もいよいよ終盤。2人が出逢える季節が巡ってきました。
最後:天体観測 / 高木さん(CV.高橋李依)
もちろん「今夜 星を見に行こう」からの「天体観測」。
そして、2分後に君が来た。大袈裟な荷物を背負って。
そもそもこの曲自体が
「イマという箒星 君と二人追いかけてた」から
「イマという箒星 今も一人追いかけてる」という、出会って別れる構成になっているのも七夕っぽい。そしてラスサビ。
君が来なくても君と追いかけてるって、ちょっと解釈が難しいけど、心は通じ合ってるよって事だと思うし、とりあえず男性目線ではある。
「アニソン原曲mixをカバー曲で終わらせるのってなんだかな~。まあ、ちゃんと劇中で使われているのでアニソンであることには間違いないと思うけど。」というモヤりがありつつも、なんとか着地しました。
まとめると
ザッと挙げましたが、こんな感じで前半を織姫パート、最後は彦星視点な感じに分けて、星関連楽曲を繋いだのが、今回のmixでした。
神は細部になんとやら、と思って自分なりに細かい所までこだわって選曲や構成を練りましたが、正直ここまで意図を理解してもらおうだなんて微塵も思っていません。
でも、伝わらなくても、ムダでも、ここまで細部にこだわって、ようやく他人からはその輪郭が認識出来る程度なのかなと思ってます。
これを私は"壊れるほど愛しても1/3も伝わらない"、「1/3の純情な感情」理論と呼んでいます。でも言い換えると、壊れるほど愛せば大体1/3くらいは伝わるわけです。
今回、私が1/3くらい伝われば良いな〜って思ってた部分は「星繋ぎであること」「なんか切ないな、儚いな〜」とか、せいぜいこのくらいです。
実際に「構成が良い」とか「世界観作るの上手」とか「選曲のセンス高い」といった感想を頂戴しました。嬉しい。
織姫と彦星、というワードに辿り着けなくても、なんとなく"世界観"がある=トンマナが揃ってるくらいには伝わっているし、構成で勝負してるのも伝わってるのかな。ここまで書いてて約7000文字なんですけど、その"世界観"って3文字を説明するのに7000文字も必要としてるんですよね。壊れちゃう〜。
自分は"シンプルにスゴい"が1番スゴいと思ってるので、誰でもマネできるけど簡単にはマネできないレベルまで、基礎を磨くしかないのかなと。
野球の大谷選手が二刀流で唯一無二なのも結局、試合後にスクワット220kg上げたり、常人じゃないレベルまで基礎を鍛えてるからで、とにかく小さな当たり前の事を積み重ねまくって1番高い所まで到達したんですよね。
なので、今回は何も特別なことはしてません。
丁寧に選曲して、曲を流す順番も、ピアノやオルゴールで音色を合わせたり丁寧に考えて、ボリュームを適切に調整して丁寧に繋ぐとか、当たり前の事しかしてないつもりです。
もし自分が他の人と比べて秀でている部分が何かあるとしたら、それは言語化の部分かなと思います。
DJって結局、他人のふんどしで相撲取ってるだけなので、肝心なのは1曲に対する思い入れの部分でしかないと思います。「ライブで聴いて自分の中で大切な曲になった」とか、理由はなんでもいいんです。
なぜその曲が好きなのか?
その曲のどんな部分が好きなのか?
それをきちんと説明できる人ほどDJが上手いと思ってます。
曲だけじゃないです、他の人のmixを聞いて、自分がどう思ったか?
どんなものにもメリット/デメリットはあると思います。
それを説得力をもって説明できる人はドンドンDJが上手くなると私は思ってます。DJ上手くなりたいという人にアドバイスするなら、曲を聴いて、mixを聴いた上で、自分の考えをしっかりと持とう!と答えるでしょう。それこそが審美眼を鍛えるという事です。
もちろん上達のためにはたくさんの楽曲を知る必要があるんだけど、100の曲を知る事と、個人的に深い愛着のある曲を10曲増やすのは同じくらい意味がある事だと私は思います。
知る事は誰だって出来ます。調べりゃ1発です。けど曲に対する愛を深めるのはそうそう出来ることじゃないです。ライブに行くとか、アニメ見ててめっちゃ良いシーンで使われてたとか、そういう出来事がないと深まらないもんだと思うし、DJ的にはそういうインプットの方こそ大切にした方が良いと思います。
今はDJソフトがBPMとか曲のキーとか教えてくれるから、"曲を繋ぐ"という行為がものすごく簡単な事になっていて「ただ繋いでるだけだな」というのがすぐに分かってしまう。
だから自分は曲を繋ぐんじゃなくて、紡いでいこうかなと。
曲を繋いで繋いで、物語にしちゃおうかなと思って、このようなカタチにしました。
若干話は逸れましたが、そんな感じで、表向きは「星と星を繋いでいきますよ〜」みたいなフリをしていて、、というかそれもまた事実ではあるけど、真のテーマとしてはそこからさらに一歩踏み込んで「織姫と彦星」というのが今回のmixに込めた想いでした。ここまでの解説を踏まえて、もう一度聴いてもらえるとまた違った発見があるかもしれません!何度でも聴けるmixに仕上げたつもりです。ぜひお試しあれ!
余談その1
あとはこのテーマに辿り着いたのは石原夏織さんの影響がデカいと思います。以前に取材させてもらったライブ「starcast」がベガとアルタイル、つまり織姫と彦星をモチーフにした構成となっていて、歌詞の内容が女性から男性に向けたものだったり、それが途中から逆転したり……というギミックが仕組まれていました。
ライブの中盤、アコースティックパートで数曲挟むのですが、そこの選曲だけ男女が入れ替わっていたんですよね。これは「セットリストの中盤辺りで2人が出逢えていたらいいな」という想いを込めたと語っていました。
余談その2
これも余談ですが、mixのイラストを知人にお願いした際にも「星とかをモチーフに…」程度の情報しかお伝えしませんでした。
「織姫と彦星」とか具体的に言いすぎると、固定概念を植え付けちゃって、創作の余地を狭めてしまう気がしたので、mixのコンセプトと、タイトルとセットリストだけお渡しして「あとは聴いてみてもらって、イメージでお願いします」とだけお伝えしました。
結果、女の子が光に手を伸ばすようなビジュアルが上がってきて、織姫視点ぽいなと。
細部にこだわりすぎてて、もっとやれるし、やりたいけど40分に収まらないし、どこ削るか〜、アレを削ったら収まったけど、本当に削ったのあそこで良かったか?…みたく収集が付かなくなってた所にこの絵が上がってきたので「良かった、間違ってなかったかも!」と少しだけメンタルが回復しました。
インスピレーションを得る、というのは全ての創作において大切です。私の創作がこうして素晴らしいイラストを生むインスピレーションになった事が嬉しいですし、私が石原夏織さんからヒントを貰って作ったmixが、こうして素敵なイラストになったように、これを聴いてくれた誰かに何かの刺激を与えられるモノになっていれば幸いです。