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元クルマ雑誌編集者が選んだ、最も面白かったアニメ

こんにちは、ろーるすこーです。
普段こちらのnoteでは趣味でやってるアニソンDJ関連の投稿をしておりますが、生業としてはずっと編集やライターといったメディア関連のお仕事をさせて頂いております。
現在はフリーランスとしてアニメ/アニソン関連の記事も書かせていただいているのですが、元々は自動車雑誌の編集者からキャリアをスタートさせておりまして、6年ほど自動車関連のメディアを専門で会社員をしていました。

子供の頃からずーっとアニメもクルマも大好きだった私が28年間生きてきて本当に唸った、1番面白かったクルマが登場するアニメをご紹介したいと思います。

その名も……「ルパン三世」。

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▲知っとるわ!って思うでしょ?ちゃうねん最後まで話を聞いてーや。

…なんですけど、その中でも2015年に放送されたTVシリーズ PART4 第20話「もう一度、君の歌声」というお話です。
なぜ、この話が1番面白いかと言うと、クルマ好き/アニメ好きの両方の視点で見ても面白かったと言えるお話なのですよ。

当該のアニメは各種サブスクサービスで見ることが出来ます。

https://www.netflix.com/title/80135750

▲パッと調べた感じ、Netflixとかdアニメストア等で視聴可能みたいです。ご自身が利用しているサービスで探してみてください。

クルマの事を全然知らない人が見ても「あぁ、いい話だな〜」って思える回なんですけど、クルマに関する知識が加わると更に面白くなるマジでいいアニメなので、良かったら駄文にお付き合いくださいまし。

・ルパン三世 PART4について

30年ぶりとなる新TVシリーズとなった本作は、イタリア・サンマリノが舞台となっており、日本に先駆けてイタリアで先行放映が行われました。
第一話ではいきなりルパンが今作のヒロインである、超セレブのレベッカ(CV.藤井ゆきよ)と結婚。大泥棒が超金持ちと結婚して、引退……!?みたいな波乱から始まったりと、個人的にはめっちゃ好きでした。
最後はタイムトラベル的なSF要素も入ってきたりとシリーズのファンからは賛否両論あったみたいでしたが、まぁマモーみたいな前例もあるし、多少はね?

2018年に放送されたPART5では舞台をフランスに移し、水瀬いのりさんが演じるアンという少女がヒロイン役で登場するのですが、設定とかもPART4から引き継いでいる部分が多く(レベッカも出てくるし)、佐倉綾音さんも登場するので、面白かったです。
(声優さんメインで見ているという訳ではない)

そういう後々への繋がりもあったりするので「ルパンってカリオストロしか見た事な〜い」って人でも、このPART4からTVシリーズを見始めても、案外楽しめるんじゃないかと思います。

・第20話のあらすじ

有名な歌手ノラ・アニタが半世紀近く愛用した車をルパンが盗み出す。銭形ら警察達に追われるルパン。しかし警察達は、あまりにも貴重な車なので、車の破損を恐れて手出しできない。ルパンが運転する車が向かった先は……!?一方、年老いたノラ・アニタを、夫マーティンが看病していて、マーティンは若き日のノラとの想い出を懐かしんでいた。
引用:公式HP

さてさて、本題の20話ですが、あらましは上掲の通りでございます。
実はこの旦那のマーティンさんが運転免許を持ってない人で、ノラさんも運転できる元気がもうなくて、手元にクルマがあっても昔を懐かしむことしか出来ない……というなんとも悲しいお話なんですね。

「金も特にいらんから早く売り払ってくれ」とクラシックカーの専門業者に頼むわけなのですが、業者としては"かつての大物歌手が愛した愛車"という箔が付いたクルマなので、なるべく高値で売りたい。
ようやく買い手が付いたタイミングにルパンが現れて、愛車を盗み出すという訳です。

・ルパンとフィアット500について

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ルパンと言えば黄色いフィアット500(チンクエチェント=イタリア語で500)。
これはクルマ好きじゃなくてもなんとなく知ってることだと思います。

確かに「カリオストロの城」以降の愛車は完全にフィアット500ですが、実はそれ以前にも色んなクルマに乗っています。
その代表格なのが、ベンツのSSKでしょう。

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▲初代テレビシリーズの相棒はベンツSSKでした。ドイツのスポーツカーメーカー「ポルシェ」を創ったフェルディナンド・ポルシェ博士の設計したレーシングマシンで、生産台数はわずか37台。1920年代後半〜1930年代初頭にかけて製造された自動車ながら、最高速度は200km/hを記録するなど、相当な高性能車であることは想像に容易いでしょう。

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▲懐かしのアイキャッチですが、コチラはSSK……ではなく、アルファロメオ6C1750グランスポルトというこれまた1930年代を代表するまた別のクルマ。TVシリーズ第2期に登場します。

ルパンはTVシリーズ第1期の後半あたりからフィアット500に乗り換えるのですが、それまで乗ってきたクルマは戦前モデルとはいえ、いずれにせよ大衆車とは程遠い超高級車な訳です。

対してチンクはパワーも出ない、貧弱なクルマです(排気量も約500cc)。現代の軽自動車より遅いです。
そこでルパンの愛車には、チンクの改造を得意としていた「アバルト」社の改造が施された…という設定が付け加えられているわけなんですよね。

この記事のヘッダーに使っている画像がまさにアバルトチューンされた"ソレ"なんですが、本当にアニメみたいにこんな感じでレースに出てたりしてたんです。

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▲コレは現行モデルのチンクエチェント。2007年のデビュー以降、未だに人気が根強く、よく街中でも見かけます。

コチラは現行モデルのフィアット500ですが、もちろん現行モデルにも「アバルト仕様」は存在しています。

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▲奥が"アバルト"。ちょっと速そう(実際速いけど…)。

正確に言えば、ルパンのチンクはアバルトチューンのエンジンを搭載しているらしいので、現行モデルで真似をするならば手前の見た目をした黄色いチンクに奥のエンジンを積むといいのかもしれませんが、そんなマニアックな話はさておき。

現行のチンクが、ルパンの乗っているチンクをオマージュして作られているのは言わずもがなですが、その元となったフィアット500はまたの名を「NUOVA 500(ヌォーバ チンクエチェント=新しい500)」と呼んだりします。

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▲TVシリーズ第1期やカリオストロの城でキャラクターデザイン/作監を務められた大塚康生さんはご自身もヌォーバチンクオーナーなのだそう。

いやいや、この見た目で"NEW"はおかしいやん。って話なんですけど、何を隠そう実はルパンが乗ってるチンクって2代目なんですよね。なので旧モデルと区別できるようにヌォーバと呼ばれたりします。

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▲初代フィアット500"トポリーノ"
1936年から1955年にかけて製造されていました。

で、コチラが初代500。
イタリア語でハツカネズミという意味の「トポリーノ」という愛称で知られています。

鋭い方ならもうお察しかもしれませんが、先ほど紹介した、第20話の次回予告動画でルパンが盗み出したクラシックカーというのが、実はこの初代チンクだったという訳なのです。

第20話の考察(ネタバレ注意)

さて、ここからは20話の内容を含む考察になるのですが、多分これを読んだあとに見ても全然面白いと思うので、先にアニメを見てからでもいいし、順番の前後はお任せします。
一応、ネタバレ注意です。

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トポリーノを盗んだルパンでしたが、なかなか逃げる素ぶりを見せないことに銭形警部が違和感を覚えます。
そもそもこのクルマが遅すぎる……というのもあったかもしれませんが、ルパンの目的はこのクルマの値段を釣り上げることにありました。
世紀の大泥棒が盗んだクルマともなれば更に価値は上がるだろう、という目論見の元、マーティンさんが売りに出した仲介業者と峰不二子がグルになって立てた計画に乗ったルパンが、わざと報道中継などに目立つようにアピールをしていた、という訳なんですね。

それにいち早く気づいたとっつぁんは業者に洗いざらい吐かせて、ルパンとの合流地点に張り込みます。
一方で峰不二子はオーナーの元へ訪れ、計画の全容を話します。「奥さんとの思い出を断ち切るように色々とモノを処分しているようだけど、本当は売りたいなんて嘘。絶対に後悔するに決まっている。今ならルパンに無線を飛ばして呼び戻すことも出来るわよ」と業者のウラをかくような交渉しにやってきたのです。う〜ん狡猾!

その頃、そんなことになっているとはつゆ知らず、トポリーノで街中をトコトコと走るルパンですが、やはり半世紀以上も前のクルマだし、何よりマーティンさんが免許を持っていないということで整備もそこそこだったのか、どうもハンドルの調子がイマイチで右に曲がろうとすると言うことを聞きません。
仕方がないので、交差点を本来の合流地点とは逆の左に曲がると、右方向でルパンを張ってた銭形は見事に欺かれてしまいます。

急いでパトカーが追いかけてきますが、するとまるでルパンを逃そうとしているかのように、途端にトポリーノの調子が上がり、さっきまでとはエンジンの吹け上がりも別物に。車格を活かしたキビキビとした走りで細い路地裏を抜けて、追跡を完全に振り切ります。

無線越しに聞こえる元気なエンジン音を久しぶりに聞いたマーティンさんは、まだ元気だった奥さんの助手席に乗った若かりし頃を思い起こします。
実は昔、マーティンさんは人気歌手だったノラさんのマネージャーをしていたのです。

トポリーノに案内されるように街中を抜け、追跡を振り切ったルパンが快調にクルマを飛ばすルートは、昔まさにノラさんがパパラッチやらの人目を盗んでマネージャーだったマーティンさんと秘密のデートを楽しんだ馴染みの道でした。サンバイザーに挟まれた2人とトポリーノが写った写真を発見して「俺をここへ連れて行けってか」と呟くルパン。

マーティンさんは、今はもうベッドで寝たきりになり意識も戻らないノラさんの手を取りながら、無線の音を聞いて「あそこの橋ではあんなことがあった」「ここの峠道は舗装されていないからよく泥がついた。それを洗車させられるのはいつも私だった」とひとつひとつ思い出が蘇ってきます。
2人の間には子供が生まれなかったので、まるで我が子のように可愛がってきたクルマでしたが、最後にこんな素敵なドライブまで楽しませてくれた…。
そう感慨に耽るマーティンさんの手をノラさんは一瞬だけ握り返しますが、写真の撮影場所でもある2人のデートのお決まりの目的地へと到着し、エンジンが止まる音がすると、まもなく静かに息を引き取ったのでした。

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と、まぁこのように普通に良いお話ではあるのですが、クルマ好き的にはより深い…となるわけです。

トポリーノが最後の乗り手としてルパンを選んだのは、もちろんルパンがヌォーバチンクを愛車としていることに起因しているでしょう。
ノラさんとマーティンさんが我が子同様に可愛がったトポリーノですが、そんなトポリーノからしたら子供世代のヌォーバチンクのオーナーにクルマが想いを託すという描写はクルマ好きからしたら泣かせる演出です。
私はイタリア文化に造詣が深い訳ではないのですが、国民的歌手だったノラさんのモデルとなっているのは恐らくローマの休日のオードリー・ヘップバーンかなと思います。
ローマの休日と言えばベスパ(スクーター)のイメージですが、一応トポリーノの助手席にもヘップバーンは乗っています。ヘップバーンが運転したのはベスパでしたが、運転が荒いというのも共通です。
また秘密のデートの途中、峠道でアイスを必ず食べたという描写がありますが、ローマの休日のスペイン階段でジェラートを食べるシーンはあまりにも有名です。(現在のスペイン階段では飲食はおろか座ったりするのも罰金食らうらしいですが…)

エンジンを切るような描写がなかったことや、「クルマはどうしたの?」と不二子に尋ねられたルパンが「あいつがどこを死に場所に選ぶのか、ちょっと気になったもんでね」と答えていましたし、無線から聞こえてきたエンジン音は明らかに不調そうでしたから、意図的に止めたというより、壊れて動かなくなってしまった、と考える方が素直だと思います。
つまりエンジンが壊れたと同時にノラさんも息を引き取った…ということになります。

映画やドラマなんかもそうですが、クルマ好きとしては劇中車としてかっこいいクルマやマニアックなクルマが登場すると思わず目がそちらにいってしまうものです。しかし、例えば007のボンドカーなんかもそうですが、あくまでクルマは小道具であって物語の主役ではありません。

この話の素晴らしい所は、クルマがもうひとりの主役だという点にあります。
トポリーノもヌォーバチンクも、高級車でもスポーツカーでもないただの大衆車ですが、確かにイタリアで多くの国民に愛されたクルマです。
ルパン=チンクという既成事実があるからこそ作れる話な訳で、人気・知名度ともにヌォーバチンクよりも劣る、クラシックカーとしても地味なトポリーノにここまでフォーカスできたのは、イタリアでも放送されていたPART4ならではだと思います。

不二子にいいように使われた仲介業者でしたが、(承知の上で盗まれつつも)報道陣に「多くの人にとってクルマは単なる移動手段に過ぎないでしょうが、我々にとってや宝石や財宝と同じなのです」と受け答えしていましたが、これは本当に嘘偽りがない言葉だと思います。
イタリアの人はクルマが好きな人が多いですし、自動車メーカーもたくさんあります。
今作のヒロインであるスーパーセレブのレベッカもフェラーリ458イタリアに乗ってましたし、登場するパトカーもPOLIZIA(イタリア国家警察)仕様のアルファロメオ159とイタリアの方にとっては馴染みのあるセダンでした。

最新のスーパーカーから往年の名車まで、様々なイタリアのクルマが登場したPART4でしたが、この20話はアニメ作品としても珍しく、物語のストーリーとクルマのヒストリーが調和した素晴らしいエピソードだったので、今でもその感動を鮮明に記憶しております。(了)


引用

▲チンクオーナーでもあった大塚康生さん。自身のアトリエを「2馬力」という名前にしてしまうほど有名な宮崎駿さんの愛車2CVとの貴重な2ショット写真も掲載されています。

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ろーるすこー
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