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野外アニクラが抱えるたった1つの致命的な課題とは?

インタビュー・文:ろーるすこー(前田勇介)
写真:kassy2828(https://twitter.com/kassy2828

先日開催されたvol.11では500名もの参加者が集まり、大いに盛り上がった『アニソンWOODSTOCK』。今回はそんな同イベントを主催する"ぐっさん"こと山口和基さんに発足の経緯や、今後の展望などを伺ってみた。すると、アニソンWOODSTOCKだけに限らず、全ての野外アニクライベントが抱える、1つの大きな問題点が浮かび上がってきた。


「気付いたらPAになってました(笑)」

アニソンWOODSTOCK主催の山口和基さん

−−−本日はお忙しい中、お時間頂きありがとうございます。聞くところによると、来場者数が500名を突破したそうで、改めてその勢いを感じますが、山口さん的な手応えみたいなものはいかがでしょうか?

いや、本当にありがたいことに過去最多の方々が遊びにきてくださって、非常に嬉しい限りです。ただその反面、今回ちょっと駐車場がパンパンになってしまって、先ほど急遽、会場の方と相談して臨時で駐車できるスペースを確保してもらったり、今回導入したチケット制の来場者管理方法も、QRコードなら非接触で出来るからいいなと思ってたのですが、会場の電波の問題で端末からうまく出来なかったりと、まだまだ詰めが甘かった部分もあったので、今後の課題ですね……。

−−−早速なのですが、まずは自己紹介の方からお願いしてもよろしいでしょうか?

はい。アニソンWOODSTOCKを主催しております、山口と申します。普段はフリーランスで音響屋さん、いわゆるPAの仕事をしています。昔から音楽は好きで、過去にDJもしていたのですが、アニソンWOODSTOCKでは完全に裏方でやらせてもらってます(笑)。

−−−そうなんですよね(笑)。実は自分、前回のアニソンWOODSTOCKにも遊びに来させて頂いてて、ただ表立ってDJとかをされてるわけではないので、山口さんが主催だって全然知らなかったです(汗)。

もちろん僕自身アニメも好きですし、アニクラへ遊びにも行きますが、現役プレイヤーではないので、現場は若い子たちに任せています。DJさんのブッキングに関してもウチのメンバーに任せていまして、自分はプロモーターとしての役割に専念してる感じですね。

−−−いや、でもその割り切りがアニソンWOODSTOCKに関しては良い方向に向いてると思いました。先ほどおっしゃられていた不慮のトラブルへの対応もそうですし、会場の音響周りの設営のクオリティも、本業ということもあると思いますがやっぱり高いなって感じました。主催兼DJとして出演もすると、演者としての意識にマインドが引っ張られちゃうと思うんで、意図的ではないにしろ、疎かになりがちというか……。

そう言ってもらえるとありがたいです。普段から仕事でPAをしているので、野外フェスみたいな現場での経験もありますから、絶対にこういうイベントって何かしらのトラブルが起きたりするもんだって、痛い目を見てきているので(笑)。あとはやっぱり設備の整っているライブハウスとかじゃないので、設営の大変さとかですよね。その辺を考えたら、DJプレイのことまで手が回らなくて。

−−−そもそもの話なんですが、どうしてこのイベントを始めようと思ったんでしょうか?

やっぱり単純に、こういう野外フェスみたいなイベントが好きだからなんですよね。自分自身の原体験としてあるのが、友人にたまたま誘われて行ったフジロックですね。フェス自体も最高に楽しかったですし、事前の準備やレンタカーを借りて仲間と車内でワイワイする新潟までの道中も楽しくて。そこから野外フェスの虜になっちゃいまして、気付いたら音響屋になってた。みたいな人間なので(笑)。だから会場の雰囲気作りみたいな部分ではそういったイベントからの影響を受けてる部分もあるかと思います。

−−−確かに、今回トレイルステージやレイクサイドステージに建てられてた看板なんかは「めっちゃ野外フェスっぽいな〜!」って思いました(笑)。

細かい部分なんですけどね。アクセントとしてあるだけで雰囲気出ますよね。あとはアニソンでこういう野外の大きなイベントって最近ないよな……。って感じてた部分もあって、それなら自分がやろうかなと。実はRe:animationさんでも仕事として、PAに入ってたりもしてたんです。リアニさんみたくデッカいお祭り!みたいな規模は個人ではなかなか難しいですけど、自分の手が届く範囲で出来る野外のアニソンイベントをやりたいなというのがキッカケですかね。

「神輿は用意するから、みんな担ぎに来てくれ!」

−−−具体的に、山口さんがアニソンWOODSTOCKを開催するにあたって、参考にしている野外の音楽イベントってどんなものがありますか?

そうですね。例えばさっき話に出た各フロアの看板なんですけど、たまたま家に使わなくなったスケボーのデッキがあったので、それを加工したわけなんですが、コレは『GREENROOM FESTIVAL』っていう横浜の赤レンガ倉庫でやってるイベントからインスピレーションを貰いました。

−−−ホントについ先週とかにあったイベントですよね。

そうですね!ご縁があって、以前に仕事で参加していたのですが、このイベント自体がサーフ系カルチャーをバックボーンに持ってるので、会場作りとかもすごいオシャレなんですよね。そういった装飾とか見せ方の部分では影響を受けてるかもしれません。

−−−逆に「このフェス遊びに行ってくれ!」みたいなイベントってあったりしますか?

愛知県豊田市で行われてる「橋の下世界音楽祭」ですね。自分はこのイベントのスピリットというか、精神がすごく好きで。その名の通り河川敷の橋の下でやってるんですが、とにかくめちゃめちゃ雰囲気が良いのと、主催の方がめちゃめちゃ粋でカッコいいんです。そんなロケーションや人柄に共感して、結構デカイアーティストがノーギャラで駆けつけたりもしてるんです。

−−−このイベントはめちゃめちゃ有名ですよね!音楽好きで有名な東海オンエアのゆめまるくんがめっちゃレコメンドしてて知りました。行ったことないんですけど、自分も行ってみたくて……。

入場料も基本無料の投げ銭方式にしてて、例えば屋台で焼きそばを売ってたおっちゃんみたいな人が「めっちゃ良かったよ!」とか言ってその日の売り上げを全部アーティストに渡しちゃったりするんですよね(笑)。そういうやりとりを見たら、そのおっちゃんから焼きそば買いたくなるじゃないですか。タダで駆けつけるアーティストも粋だし、ケータリングで出店してるおじさんも粋だし、それ見て焼きそばを買うお客さんも粋じゃないですか。

−−−めちゃいい話っすね(笑)。こういうイベントってお客さんも含めてみんなで作ってくものじゃないですか。まさにそれのお手本みたいな。

そうなんですよ!野外という公共の場でやる以上、全員が参加者というのは避けては通れないんですが、それがすごく綺麗に機能してて。でもよく考えたら、日本人って昔からそういうことをやってきてたんですよね。まさに"夏祭り"の精神だなと思ってて。神輿があっても担ぐ人が集まらないと祭りって成り立たないんですよ。

−−−無料で遊びに来れるけど、誰かがお金を出して祭りをやってるわけであって、そこに対して「また来年もやってよ!」と投げ銭が集まるのは心と心が通い合ってるというか、単純に「楽しかったな!」っていう気持ち以上のものがそこで生まれてますよね。

ウチのイベントも入場無料でやってますけど、スポンサーが入ってるわけとかじゃないので、資金繰りという面では毎回自分が身銭を切ってやっています。当初からイベントがある程度、成長したらマネタイズさせたいと計画を立てていました。その方法の1つとしてクラウドファンディングみたいな物に頼りたいなって気持ちが揺らいだこともあったんですけど、僕にはそこまでの度量が無かったのと、そのリソースが刃になって自分に返ってくることもあるなと思って、やめました。あくまで自分がやりたくてやってるだけなので。僕のイベントの雰囲気に共感してくれる人から入場料を頂けるのが理想です。

−−−う〜ん、確かに。客と店の関係になっちゃいますもんね。下手したら「こっちは金払って来てるんだぞ!」とも言われかねないし。そもそも、山口さんの場合はそれをやっちゃうと普段の仕事と何が違うんだ?って話になりますもんね。

そうなんですよ。別に仕事がやりたいんじゃなくて、祭りがしたいんです(笑)。ただ実際問題、現状は自分が全部赤字を被ってて「こんなん屁でもねえぜ!」って言えるくらい稼げてたら良いんですけど、正直キツいけど逆にこれ為に仕事頑張る!みたいな感じなので。ただ、ありがたいことにウチのイベントも段々と来場者数も増えているので、橋の下世界音楽祭みたいに、もう少しマネタイズが上手くやれたらな……と思ってる所なんです。

「野外アニクラが無料開催なのには理由がある」

−−−お金の部分はどのオーガナイザーも悩みのタネだと思います。自分もイベントを主催したりするので分かる部分もあるのですが、野外アニクラってだいたい無銭なことが多いじゃないですか。スピーカー持ち込んだり手間もかかるのに。あれってなんでなんだろう?ってずっと疑問に思ってたんですよね。

この手のイベントって大体、公園だったり公共の場をお借りして開催するのが普通かと思うんですが、こういう場所って占有許可は取れても貸切が難しいんです。公園は一般の往来もありますし、入場料の徴収が出来なかったり、そもそもこういう場所って非営利団体じゃないと貸し出しの許可が下りなかったりするんですよ。加えて、仮に入場料を取ってもOKという場所だとしても、その場合は会場費が例えば倍になったりとかするので、そういう事情から無料開催している方が多いんだと思います。

−−−なるほど。場所の制約がそうさせてたんですね。

そうなんです。だから入場料を取れる普通のクラブイベント以上にマネタイズって難しいと思います。加えてJASRACに支払う使用料の問題もあるんです。クラブを借りての開催なら、ハコ側がその辺の権利もやってるので気にすることがないのですが、JASRACの使用料って例えばコンサートホールのような座席でカウントできる場合は人数、もしくはクラブのようなオルスタの場合は占有面積で計算されるんです。ちゃんと人数をカウントしてないと、面積で支払わなければならなくなるため、野外イベントだと大損になってしまう可能性があります。ウチが今回、Peatixを使ったチケット制にしたのもこれが大きな理由です。

−−−この辺の権利問題もPAさんのような裏方の人なら知ってても、なかなか普通の人は知らない部分ですよね。

この辺りが大きなハードルになっているので、ウチに限らず、野外アニクラを主催してる人のほとんどが、開催しただけ赤字になってしまうという実情を抱えていると思います。皆さん本当にノリと勢いと楽しい場所を作りたい!って気持ちだけで開催されていると思います。

アニソンWOODSTOCKの今後について

−−−前回も遊びに来たからこそ、今回はさらに規模感が大きくなって気合いが入ってるな!と感じたわけなんですが、今後の展望はどのように考えているのでしょうか?

お客さんからお金を頂くにしても、人数が集まらないことには1人あたりの負担が大きくなってしまうので、このイベントがある程度、人が集まるようになるまでは宣伝だと思って辛抱だ……!という想いでずっと開催し続けて来たのですが、そろそろちゃんとマネタイズを考えられるかも、というフェーズに入って来たと感じています。ただ、自分は大きなフェスなどでのスタッフ経験もあるので、あくまで自分個人でのハンドリングが可能な規模感というのが、MAXでも1000人レベルかなとも思っていて、そのくらいまでは大きく出来たらなと思っています。

それ以上になっちゃうと、お金儲けができる規模感になってきて、変な話どこかのレコード会社だったり、イベント制作会社がやる規模感のイベントと変わらなくなっちゃうんですよ。つまり、1000人規模くらいというのが1番儲からなくて、誰もやらないレンジってことなんですよね(笑)。なのでウチはあえてそこを目指そうかなと。1000人集めるのってなかなか難しい割に、全然儲からない。割に合わないから誰もやらないけど、そもそもボクは儲ける気もないし、みんなと一緒にデッカい花火を上げたいだけなんですけど、デカすぎても爆死、ということを理解してるつもりなので、せめて現状の倍。ここが手作りフェスの限界かなと思っています。

−−−誰もやりたがらないゾーンをあえてやりに行く、っていうのは攻めてて良いですね(笑)。

ただ、やっぱり1000人規模となると、ボク1人で負債を抱えるにはちょっと額が大きくなりすぎちゃって。現状なら自分ひとりがしばらくもやししか食べない生活をすればなんとかなるくらいの肌感なんですけど、裏方や出演者様にもう少しちゃんと謝礼をお支払いしたいという気持ちがあります。投げ銭なのか、何なのか、ちょっと方法は考えている所なのですが、何かしらの方法でマネタイズはしたいなと考えています。これまでの負債を回収したい!とかの気持ちもなく、ただ毎回「ギリ赤字で済みました〜」くらいの負担で、みんなの楽しい遊び場が維持できれば最高じゃないですか。

今後、有料化するに当たって離れていってしまう方々もいるかと思いますし「お金を払ってでも遊びに行きたい!」と思ってくださる人が現状どれほどいらっしゃるのかも分かりません。それでもボクは"野外アニクラ"という文化が最高に楽しいものだと知っているので、そこに共感した上で、アニソンWOODSTOCKというお祭りを、一緒に作り上げてくれる人を1000人集めたいな、というのが今の目標ですかね。

今回、山口さんに話を伺って野外アニクラという楽しい遊び場が大変な苦労の上で成り立っていることを改めて感じた。しかし、マネタイズに成功している例があることも同時に知れたし、自分にも出来そうなことであるなとも思った。ボクらの遊び場はボクらで作っていく。その舵を取る山口さんは、きちんの身の丈を分かった人だというのも理解できた。だからこそ自分もそうだし、多くの周囲の人間が彼に協力するのだと思う。山口さんは経験から「1000人までなら〜」と語るが、来場者の民度が高ければそれ以上だって目指せるはずだ。あなたがその1001人目になってくれることを願う。

アニソンWOODSTOCK vol.11のイベントレポートはコチラ!


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ろーるすこー
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