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短編小説「逢魔が刻の近道は」

 こんにちは。ローランです。

 今日は、逢魔が刻をモチーフに考えてみました。家路を急ぐ女の子、近道をしたその道は…

 以前にTwitterで掲載した詩を形式を変え、改題、改訂したものです。とはいっても、ほとんど原型をとどめていないです(汗)
 では、今日もお楽しみいただければ、幸いです。


美しい時刻


「逢魔が刻の近道は」


 放課後の教室。奇術部員が集まっている。各々が練習してきた手品を披露し終えたところだ。
「みんな今日は楽しかったね」部長のレイが話す。
「うん。学年末テストも終わって、やっとみんなと会えたし。練習の成果を披露できてよかった」
「コロナに試験に…ってずっと集まれなかったもんね。部活来てても少数での練習だったし」
「やっぱりみんなで集まると賑やかでいいね。久々に気合いが入るわ」
「ほんと」
「でもさお前スポンジボールの隠し方が上手くなったよな」
各々が口々に話し出す。
 レイは教壇に移動し、パンパンっと手を鳴らした。
「はいはい口々にしゃべらない! 全員揃ったところで、事前に連絡してある通り、今から今年度の総会を始めます。みなさん着席してください」
と声をかけると各自がもぞもぞ動き出す。
 全員が座ったところで、レイは部員の数を数える。
「あれ?一人足りない?」
「レイ部長、自分を数え忘れてない」と部員から突っ込まれる。
「やだなぁ!ちゃんと数えたよ」
もう一度窓側から順番に数える。自分もきちんと数えて呟く。
「13名。うちって部員数14名だよね」
「え?13ですよ」
「いや、名簿には確かに…」
と脇に置いてあった部員名簿を確認すると、あれ?13名だ。変だな。確か14名だったはずだけど…といぶかしく思いながら、名簿をもう一度数える。やはり13名だ。あちゃー!自分の勘違いだったのかと思い
「ごめん!なんか勘違いしてたみたい」
と皆に謝った。
「部長って天然すぎー!」
「新人が入部したのかと思ったよ!」
と部員らの総突っ込みに合う。
「あはは!すまぬすまぬ。じゃ、全員出席ということで、この総会は成立しました。では議題に移ります。今年の会計報告から…」

 その後の議題は大きな問題もなくスムーズに終了した。次年度の部長、会計などの役員も決める。
総会終了後、一旦解散し、新旧役員のみ教室に残る。引き継ぎを終えてレイはホッとひと息吐いた。
「さあ、これで安心。私、議事録を顧問の先生に提出して帰るね」
レイは職員室に寄ってから学校を後にした。

 いつもの帰り道。夕日が眩しい。春らしくすっかり日が長くなってきたなと季節の移り変わりを感じつつ、家路を急ぐレイ。
 今日は初めての塾の日だ。今までは家庭教師だけつけてもらっていたのだが、それでは受験のテクニックを学べないからと、有名な進学塾に通うことにしたのだ。
 スマホで時間を確認する。ヤバい。このままでは確実に遅刻する。途中編入なのに初日から遅刻はみっともなさすぎる。
 そこでレイは近道をすることにした。住宅街から外れていく。
 ここの住宅地は昔、森だったところを開発してできた新興団地だ。この先だけ一部森がそのまま残されている。そこには小さなほこらがあって、この敷地の木を切ろうとした工事関係者が祟りを受けたという噂話を祖母から聞いたことがある。
 なんとなく怖かったので、近道だと知っていても今までは通らなかった。でも今日は、今日だけは仕方がない。
 夕日が暗闇と混じり合い、西の空は少しだけ夕焼けの名残を残し赤紫から藍色へのグラデーションになっている。
 森といっても30メートルくらいか、木々に囲まれている道路はそこだけ少し暗いが、ここを抜けた先にはまた住宅街が広がっているので、向こう側は家の灯りで明るく見える。
 いまはレイ以外に通行人もいないから、薄暗い森の道は一人では怖い。いっそ走り抜けてしまおうか。駆け出そうとしたその瞬間。誰かに引っ張られた。
「え!?」
ぎょっとして振り向くと女の子がいる。同じ年頃の女の子で自分と同じ制服を着ている。同じ学校の子?心臓が飛び出そうなくらい驚いたが、どうやら同じ方向に帰宅する生徒のようだ。
「ねぇ、ここ通るの?」とその子は話しかけてきた。
「びっくりしたよ!いるなら声かけてよね。そうだよ。今日は近道しようと思って。あなたも?」
驚きつつも、自分と同じ近道組だなと納得してホッとする。
「私、2年のマキ」
「え?2年?私も!何組?」
「3組」
「え?」
レイは3組だ。こんな子いたっけ?背筋がぞっとする。
「部活の帰りに遅くなって近道しようと」
「部活って」
「奇術。あなたと同じ…」
恐怖で全身がこわばる。ここから逃れなければ!レイは逃げ出そうとした。
「だめだよ。もう逃げられない」
震えでレイの歯がガチガチ音を鳴らす。
「な…なに…言って…」
「レイちゃん、私も2か月前にここに囚われてからずっと移動できないの」
「私、あなたのこと知らない」
レイははっとする。先程の部員数。そうだ一人足りなかった。あれは…あれがこの子!
「でもあなたのこと誰も覚えてなかった」
「お願い、思いだして!私、マキだよ。同じクラスで同じクラブだったマキだよ!助けてお願い…」
マキと名乗る女の子は泣きながら叫んでいた。
 レイのぼやけていた記憶がだんだん鮮明になってゆく。そうだ!マキちゃんだ!仲良しのマキちゃんだ!
「マキちゃん!」
レイが名前を呼んだそのときだった。

「もう帰れないよお姉ちゃんたち」
いつのまにか、背後に着物を着た幼女が立っていた。妖気をまとうその姿にレイの全身が総毛立つ。震えながらレイはマキに抱きついていた。
「逢魔が刻の魑魅魍魎…」
レイが呟く。
すると幼女はにっこり微笑んだ。
「よく知っているねえ。近頃はすっかり私たちのことを忘れている人間が増えて困っていたの」
幼女は禍々しい笑みを浮かべる。
「森がどんどん壊されて、ほこらの封印が解けたんだ。出てきたらおともだちもみんないなくなっちゃってたんだよね。寂しかったから、新しいおともだちを増やしてるんだ。ほんとはニンゲンは嫌なんだけど、飽きたら食べちゃえばいいし。さぁ、おねえちゃん、なにして遊ぼうか」

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