【現代と現在のはざま】イン・ビトゥイーン /MOMASコレクション特集 須田剋太 埼玉県立近代美術館
今回の展示概要を一言で言い表すのはなかなか難しい。企画所蔵品展なのか、でも他地方館からの借用作品も結構あった。
公式サイトには以下の記載
上記の内容に「境界」というテーマを軸に作品を展開していく。
出品作家のピックアップ
早瀬龍江(はやせたつえ)
初期は日本のシュルレアリスム。古賀春江からの系譜というか脈々と伝わっているであろう大正絵画。キリコやダリの影響がモロにある世代なのだろうなぁ、と。
その一つ前の世代がゴッホ→キュビズムに影響された様に時代は移り変わりシュルレアリスムも日本の画壇へ影響が現れてくる。
今回、感激したのは、1953年東京国立近代美術館「抽象と幻想」展に出品された作品が見れたこと。
色合いがすごく好き。この瓶はニッカウヰスキーの瓶だろうか。それともブランデーの瓶か。
ちょっと写真は暗いがもう少し色が良い。
2023年初頭、東京国立近代美術館コレクション展・小特集「プレイバック 『抽象と幻想』」が開催されていた。
1953年、まだ京橋にあった頃の東近美で行われた展覧会を振り返り、3D映像で展示風景を甦らせるという企画。
この小特集が大変面白かった。
そのまま東近美所蔵になった作品もあればそうで無いものもあるわけで。
この早瀬龍江氏の「非可逆的睡眠」も「抽象と幻想」展に出品していたのだ。
時を超えて、場所を超えて当時の出品作品が見れる事に感激である。
作品のバックグラウンド、今までどんな展覧会に出されてきたのか、という経歴を見るのも面白いと感じるのだな。
自分が知らないだけで、絵画そのものは色んな美術館へ出張している。海外出張をこなしている絵画もあるのだろう。(近年だと、東近美の古賀春江作品がメトロポリタン美術館→テートへ旅をしていた)
「抽象と幻想」の図録資料展示もあった。それは残念ながら撮影禁止だが、厚みやカバーの様子がわかって良かった。
東近美の時も展示あったかな。パンフレットはあった気がしたが…当時のパンフレットとデザインが同じ小冊子を配布していてそのリバイバル感にグッと来た。
自分が生まれるより30年近く前の展覧会の様子が分かるなんて胸熱でしかない。
しかしこの埼玉で早瀬龍江氏の作品に囲まれ、東近美の小特集をブワァッと思い出した時、まるでテストで重点的に勉強した部分が出題された様な、進○ゼミの広告漫画みたいな「これわかる!わかるぞ?!」という気持ちになったのだった。
埼玉県立近代美術館側もこの「抽象と幻想」プレイバック特集が東近美でされた事を知っての企画だと思うが、この様にある美術館からある美術館へリンクする瞬間がすごく好き。
潘逸舟(はんいしゅ)
東京都現代美術館のコレクションで見た海の映像作品。
「シュババッ」と海に向かって全裸になる瞬間の逆再生が、ちょっと笑ってしまうのだけど好きなんですよね。つい見てしまう。
真顔を作ってわけ知り顔で見てるのですがね、内心はちょっと笑っている。
今回、埼玉への訪問は彼の作品を見るのがまず第一目的だった。
やっぱり海に向かっている。
モノクロの映像なのだが気がついたら30分ほど見入っていた。打ち寄せる波の映像はそれだけで永遠と見ている事ができる、というのもあるかも知れない。
とりとめがない、のだが同じ波は2度と来ないというか。これぞループ。
MoMASコレクション
【特集 須田剋太】
さて、コレクション展示室へ移動。
今回は須田剋太氏の特集が圧巻だった。
特に、大画面の抽象画を広くとった展示室にずらりと並べた風景は、今、文を書きながら思い出しても心臓がドキドキしてくる。
とにかく、かっこいい…
見てて痺れる画面なのだ。
こんなダイナミックな作品を残しながら、須田剋太氏は挿絵画家としても著名だった。
私は初めて知ったのだが、司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズの挿絵は須田氏が描いていた。
司馬遼太郎…歴史物しか読んでいないな、実家には「街道をゆく」全巻あったはずだ。
「歳取ったら私もああいう、渋い紀行文を読むのかなぁ」などと老眼をかけて読み進める両親を見て思ったのだが、私にもその時が来た様だ。
唸りながら家路に着く
作家セレクトが面白い埼玉県立近代美術館。
物凄く著名かと言われると、そうでは無いのだが、取り上げ方、資料展示までしっかりやり切る姿勢、借用作品のセレクト。ちょうど良い展示量。
唸ってしまう。
美術館を背に心地よいため息をつきながら北浦和の駅へ向かうのは良いものだ。