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【論点と観点】大吉原展 東京藝術大学大学美術館


開催前からまあ、色々なこともありましたが、かわかわさんのレポ、「『大吉原展』内覧会での、田中優子先生による挨拶全文」を読み、これは絶対に見る、と決めた。


芸大生の手作りだろうか…



会場入り口に田中さんの挨拶文があり、品がありながらも強い意思表示がされた文章に、この時点でちょっと泣きそうになった。
これを読むだけでも、会場に足を運んでよかったと思った。
観点と論点を混ぜない、でも難解な言い回しのない、非常にクリアな挨拶文だ。
小学生が読んでも理解ができると思う。

殆どの来場者がしっかり読んで展示室に入場していた。これはすごい良いことなんじゃないかな。


展示の初っ端は福田美蘭さん。
なかなかのインパクト。今展覧会のキービジュアル、文字の配置、斬新。
でも、いつもの美蘭さんよりちょっとおとなしく感じた。皮肉の混ぜ込み具合、薄め。


メインの展示品は浮世絵中心ながら、坂井抱一や大英博物館から借りた鳥文斎栄之作品など、驚く作品が第1室から展示されている。

海外から来た作品に対しては…「流出・損失」思うところがあるが、海外にあったからこそ今、この目で見れているのかなとも頭をよぎる。
「かも知れない」を言い出したらきりが無いが、災害や空襲で燃えてしまった確率も高かったわけで。なんという運命。今の言葉だとリスクヘッジなのか結果的に分散型保存のような状況になったのか。うーん…複雑な気分。

展示作品に対するポイントをついた解説、見どころ、考え所があり、鮮やかな画面を見ながらも、うーん…という感覚が付きまとう。(吉原という制度に対して)
それで良いのだと思っている。

後半、大火の原因の項目、下級遊郭にまつわる作品は、驚きとやるせなさと…気持ちがズンと重くなった。
これが、現実として描かれた、現在まで残ったということがどれだけ大事なのかを考えたい。

自分の中の吉原感、は安野モヨコの「さくらん」によるところが大きい。もちろんあれはファンタジーだが、ちょっとした知識の下地にはなっている。

場内、唯一撮影OKの場所。


高橋由一 美人(花魁)


今回の展覧会で初めて見ることができ、浮世絵中心だと思っていたので、この作品の展示はちょっと感激した。
しかも修復上がりホヤホヤである。
もう少し暗い印象だったが、これも修復後なせいか、色鮮やかで今までの印象とちょっと相違があった。あの暗さも込みで絵として見ていたのかもしれない。

2020年に国立民俗博物館で行われたジェンダーをテーマにした展覧会のキービジュアルとして使用されていたことが印象深かったのだ。その時の色の印象とずいぶん違っていた。


この絵が描かれておよそ100年後に重要文化財認定をされている。
1970年代になる訳だが、今の様にジェンダー論点もない時代、なぜ重文に指定されたのか。
その意図は何だったのか。

自宅にある重要文化財の秘密展の図録で調べてみた。
この絵の描かれた背景は掲載されていたが、なぜ、1973年に重文指定されたのか、は書かれて居なかった。
もしかすると、「花魁」というモチーフ自体には何の疑問も持たれなかったのかも知れない。要するにスルーだ。
先に指定された「鮭」に次いで由一の人物画、その当時の写実画の初期とみなされたのだろうか。
謎は深まるばかりだ。
「重要文化財の秘密」展は図録も買ってこうして振り返りや自分で調べたいことの参考になるのかな、と思ったが「秘密」という展覧会タイトルがやや大袈裟だったことが、ボディーブローの様に効いてきた。

話が逸れた。

指定の理由はどんなだとしても、吉原という遊郭が存在したことの証として絵画は残っていく。しかし2度と出現してはいけない場所の象徴だと今の時代捉えられ肝に銘じる役割も今後は担うのかも知れない。

展覧会の状況


平日木曜日、雨、開館時間と同時に入場の午前中に訪問。
客層はほぼ中年〜高齢者男女。比率は男性多めかな、という印象。
1人客は少なく、ご夫婦かご友人同士か、語りながらの鑑賞なのか会場はザワザワしていた。
でもまあそういうのは、自分がタイミング外せばそういうのは気にならない。第一室はどうしても混み合うので、一度飛ばして戻って鑑賞した。
浮世絵なのでどうしても細かい部分が見たく、画面に近づきがち。
作品の写真撮影は禁止なので集中してみれる。
もしかすると、平日の午後がゆったり鑑賞したい方にはおすすめなのかもしれない。

帰りがけに見かけたポスター。これも面白そう

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