見出し画像

amazarashiのライブに行ったよ

 

【騒々しい無人のネタバレが多分に含まれます!注意!】


 8月くらいにストーリーノートのシナリオライター募集に落選して、何だこの人生、突破口が無いなと視野狭窄の自己嫌悪に満ちていたとき、ふとyoutubemusicのシャッフル再生で流れてきた「ロングホープ・フィリア」のfirst take音源を聴いてからamazarashiにのめり込み、そこから毎日のように全曲をシャッフル再生して聴き、にじさんじのamazarashi歌枠とかも聴いたりして、そして遂に今日名古屋まで行ってライブを観た。名古屋に住んでた時期もあるので、どこか懐かしい気持ちになりながら会場まで向かった。黒い帽子を被っている、秋田ひろむナイズドされた格好の客が散見された。もっと鬱みたいな人しか居ないかなと失礼なことを思ったが、意外と皆明るい感じで良かった。

 会場に入り、開演までシナリオ制作講座の課題をやり、そして照明が消えて幕が空いた。ギターだけ置かれた無人の空間をスポットライトが照らす。そこに秋田ひろむが入ってきた。会場は拍手に包まれる。

1.アンチノミー
 「感情は」と舞台上の男が歌い始めた瞬間、この空間だけが世界の一切と隔絶され、そして異世界に放り出された。タイポグラフィーの演出も聞いてはいたが本物だった。まるで彼が言葉を紡ぎ歌を歌うその声が可視化されてスクリーンに映し出されているような、そんな感覚を覚えた。東京名古屋間の新幹線往復代は高いと思ったけど、この一曲で「ああ、来て良かったな」という感情になってしまった。
 アコースティックライブというだけあって、ギター1本での歌唱。歌の迫力がとにかく凄まじく、会場全体に「生きろ」というメッセージが木霊するようだった。

 曲が終わると皆拍手をする。というか、事前に調べてはいたけど、誰も立たないし誰も声援を送らない。彼らの表現は拍手とすすり泣く声だけ。まるで映画を観に来てるみたいだ、そんなことを思っていたら次の曲が始まった。

2.エンディングテーマ
 サビで、ああこの曲か、と分かった。あれだけ聴いているのに中々AメロBメロは覚えられないものだ。客の誰も彼もが泣いていた。隣の席の女性もすすり泣いていた。私も目頭が熱くなった。何というか、声量も迫力も音源より凄いんだけど、でも音源より優しい歌声だなと思った。タイポグラフィの力は凄い。「僕が死んだら流れ出すエンドロール」「ありがとう」など、文字演出にされるとこんなにグッと来るのかと思った。

 一曲ごとに送られる無言の拍手。

3.リビングデッド
 赤い照明。サビ終わりの「おおおおお〜」のところもライブだったら皆で合唱しそうなものだがそれも無し。少し寂しい気持ちにはなるが、こうやって大勢が居る中で聴いていると、誰も彼もが「無言の死に切らぬ人ら」であると感じる。

4.ロストボーイズ
 夜は涙隠すけど太陽が暴くから僕の恥が地面に張り付いてって歌詞の表現がまず凄いし、そのあとの大人は少年を隠すけど真夜中が暴くっていう、夜の感じ方が年齢を経て変わるという対比の書き方が凄いなと思っていた曲。10年20年前は俺ももっと無邪気だった気がするな、なんてことを思いながら聴いていた。

 MCが入る。デビューしたてのときに東京でやっていけるか不安で、ライブ前に渋谷の喫煙所に逃げ込んだらamazarashiの服着てる人が居て、「こんなところまで歌が届くなら頑張ろう」という時期に作ったのが次の曲です、という流れ。

5.ワンルーム叙事詩
 魂が燃えて街を焼き尽くし、それで消防車のサイレンが鳴って、という、比喩と現実味の間を行ったり来たりする映画パプリカみたいな曲。この妄想力、なんか鳥居みゆきっぽさも感じるなと思いながら聴いていた。「それでも人生って奴には負けるわけにはいかない」のタイポの力強さがすっごい強くて薄っすら泣いた。「焼け野原」の部分の歌唱とタイポのタイミングがバッチリすぎる。
 それでも とか でも って歌詞が出るとamazarashiの由縁らしさを感じられて私は好き。

 MC。次の曲は皆の人生の応援歌になったりしてるけど、青森戻ってから防音室の無い部屋で窓開けっぱにしたりして録音とかやってた時期、自分を奮い立たせる気持ちで書いた曲です。とか何とかそんな感じの。

6.ジュブナイル
 amazarashiが好きでこれ嫌いなやつは多分居ないだろう、ってくらいグッとくる名曲中の名曲。もう、平穏な人生の中でまったり頑張ろうみたいな気持ちだったのにこんなに熱く歌い上げられたらまた成し遂げるまでは死ねない誇り高き少年に戻ってしまうやないかい。大人と子供をこうやって反復横跳びしながら少しずつ年老いていくのかしらね。わたしは。
 自分で歌うとキーを2つくらい下げないといけないけど、良くこんなに力強い高音が出るなーと思いながら聴いていた。ラスサビは少しピッチの外れてるところがあったように聞こえたけど、それも凄く味というか心から思い切り叫んでる雰囲気が出てて良かった。
 これもアコースティック1本でまた違った味になっていてそれもとても良かった。

7.そういう人になりたいぜ
 ここでキーボードの豊川さん(秋田ひろむの奥さんだっけ?)登場。彼が豊川さんに向かって歌ってるところもあって、彼女のようになりたいって歌ってるようにも聞こえてくる。

 MC。次はアマチュア時代に死ぬほどやった曲とのこと。スターライトかしら?と期待したけどそうではなし。

8.光、再考
 これをまっすぐに歌われ続ける豊川さんはどんな気持ちなんだろうと思った。
 「神様なんてとうの昔に阿佐ヶ谷のボロアパートで首吊った」って歌詞は陰鬱としてるんだけど凄く詩的で美しくて私は大好き。こんな表現を小説でも使いたい。
 あと、豊川さんのハモリが綺麗。
 それから、「光」の歌詞の部分はタイポでは歌詞ではなく月明かりで表現してるのが印象的だった。

9.令和二年
 ここからドラムやベースや2本目のギターの方々も参戦。一気に音が賑やかになる。
 中止の入学式、公園の桜誰にも見られずに咲いた など、ダイレクトに観客達の感覚に刺さる2020年を歌い上げる。ラスサビで「先は見えないけど大丈夫 僕に嘘をつかせた令和2年」と歌詞があるけど、なんだかんだ今振り返るとコロナウイルスも、本当に割と大丈夫なものになってしまったなとふと思った。
 余談だけど、「大丈夫」の歌い方がアオモリオルタナティブみがあって好き。いや、発表時期的には逆か。

10.パーフェクトライフ
 俺が死ぬほど好きな曲を2曲もやってくれるとは……良いライブすぎる。パーフェクトライブ。
 これはタイポが良かった。歌詞の一文字一文字が必ずどこか欠けていて、歌詞の中で歌われている人生の不完全さを凄く上手に表現している。
 そんでもって秋田ひろむの声が伸びる伸びる。ラスサビの力強い「でも」が本当に助かる。
 1サビ2サビの「どれだけあったら失敗じゃない?僕らの人生は」がラスサビで「でも それだけあったら失敗じゃない」になる、この「じゃない」の意味の変わり方が何度聴いても好き。
 余談だが、ライブ終わったあとの帰り道で「パーフェクトライフ久々に聞いたわ〜6年ぶりくらいじゃない?」という古参の会話を聞いて、へえ〜と思った。

11.この街で生きている
 紅い夕焼け、でライトが夕暮れ色になる演出が印象的。令和2年に関わらず、俺達はずっと悩みながらこの世界で生きてきたよな、と語りかけているかのようだった。これ俺が名古屋住んでる時に聞いたら「この街で生きてるな〜」ってなったかもしれない。今は「この街でも生きてたな〜」という感覚。「美しき思い出」がセトリに入ってたらめちゃめちゃ感情移入してたなと今になってふと思う。

12.穴を掘っている
 演奏の前後でメンバー達の影がホログラムのように映し出される演出。メンバーの後ろに光源があって、それが前面の透明なスクリーンかなんかに映されてホログラムっぽく見えてる?原理は分かんないけどなんか凄い。演奏の前はかっけえなくらいの感想だったけど、演奏の後は機材と秋田ひろむの影が墓標の中に佇む男のシルエットに見えて「うおわ〜」って内心声出た。
 秋田ひろむを真っ赤なライトが終始照らし出していた。amazarashiの中でも、「だって神様も悪人」「生まれてすぐさま諦めたぜ」とか凄くネガティブな曲なんだけど、どこかにこの語り手の「諦めたくねえな」って気持ちが見え隠れして憎めない。
 ラスサビの前で10秒くらい全ての音が止まった。曲に集中させるための演出とは思うが、ここで語り手が「諦めたくないな」っていう自分の気持ちに気付いたりした瞬間だったのかなとか今になって思う。
 あと、ドラムの人がマラカス振ってたのは覚えてる。

 このへんくらいでMCあった覚え。ライブのときに「このまま歌ったら声枯れちゃうけど、なんかこのまま突き進もう」ってなる瞬間が好きで、そのためにライブをやってることがあるとか何とか。

13.吐きそうだ
 微睡みみたいな赤青白の光の演出と豊川さんのオク上ハモリが印象に残った。
 amazarashiはこういう、自分の中で内省であったり、もう1人の自分との論議や論破を繰り返して、挙げ句に自己嫌悪に陥るみたいな1人相撲の歌詞がめちゃめちゃ共感出来て好き。

14.まっさら
 唯一曲名が思い出せなかった曲。この辺はライブへの集中力が若干切れていて、「蛇口をひねって水を飲む 死にたい時でも喉は渇く」という歌詞に対し「でも海外は生水飲めないところがほとんどだからなんだかんだ日本って恵まれてるよな」とか訳のわからないことを考えていた。
 「君の目は真っ赤だ 何があった涙」の部分は、これまでの曲でべしょべしょに泣いてる人達には凄く語りかけられているような聞こえ方をしたと思う。「白紙に戻れない僕らだから」の歌詞の演出が割と格好よかった記憶はある。

 MC。あと2曲になりますという合図。「え〜!」みたいなレスポンスも一切無い。
 次の曲を最近歌いたいのは何故か、という話。ドラムやリードギター、ベースなど他のサポメンとやってて、あるところで「やりたいことが出来たから抜ける」となったりして、それはめでたいことだけど、僕にとってはやっぱり寂しくもあって、そんな人達に気持ちを込めて歌いたいからだとか何とか。

15.夕立旅立ち
 なんかレヴュースタァライトみたいなライトが降りてきて会場が今日一番明るくなる。いかにもフィナーレ感。コンドルが飛んでいくみたいな曲だなと音源を聴いてた時に思っていた曲。

 サポメンと豊川さん撤退。初めのようにスポットライトが秋田ひろむだけを照らす。
 最後は新曲をやるとのこと。アルバムもまたしばらくしたら出るので気長に待ってて欲しいとのことでとてもワクワクしながら最後の曲。

16.どうなったって
 秋田ひろむとしては、工事現場のバイトで死にかけていた歌手として無名の日々から、メジャーデビューして、豊川さんと結婚もして、子供も出来て、今の人生は一つの到達点を迎えてるんだろうなと思わせる歌詞だった。子供の頃に夢見た自分になれていないとか、ずっと何かを探し続ける日々は続くけど、それでも、どうなったっていいや、と。秋田ひろむのジュブナイルは一旦の完結をしたのだろう。俺もそんな風にもっと自然に人生を受け入れられたらいいなと思いながら聞いていた。

 ありがとうございました、の挨拶に万雷の拍手。アンコールは無く、会場が明るくなる。
 名古屋駅で、新幹線終電まで30分というところで味仙の手羽先と台湾ラーメンを急いでガッと食べて、なんか腹がぐるぐるしながらも帰路につく。

 総じて、初ライブ行ってよかった。地方遠征は次はしないと思うが、関東でやるならば行こうかなと思う。
 俺の人生もまた、ジュブナイル と どうなったって を反復横跳びしながら少しずつ進んでいく。そんな感じだといいな。

 




 
 



いいなと思ったら応援しよう!