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イールドの動きが細胞環境に与える影響とは?

体表の細胞にイールドを促す意味

支持面と接触している体表のケラチノサイトは、脳内と同じホルモン分子を分泌し、それらの受容体を発現していることが知られています。これらのケラチノサイトは、近接する細胞間でコミュニケーションを取りながら、力学的刺激に応答して重要な役割を果たします。特に、イールドの基本的な足場として働くタッチによる力学刺激が加わると、ケラチノサイトは活性化され、セロトニンなどの幸福ホルモンを分泌します。このセロトニンは、ケラチノサイトの最下層から上層へと連鎖的に伝わり、隣接する細胞が力学的刺激に応答して相互作用を強化します。

このプロセスでは、力学的刺激がケラチノサイトの分泌するコミュニケーション分子(例: サイトカインや成長因子)と相互作用しながら、化学的シグナルが下層から上層へと伝達されます。こうして、ケラチノサイトが構成するレイヤー全体が「安全な足場」として機能し、慢性炎症を引き起こしている細胞や組織を下層から支える形になると考えられます。セロトニンは、細胞間の相互作用を調整するだけでなく、炎症性メディエーターの抑制や抗炎症性経路の活性化を促進する可能性があります。

イールドが体表に作用し、最下層が安全な足場となり、その細胞が足場になっていく

さらに、慢性炎症が進行している組織では、O₂ラジカルなどの活性酸素が過剰に放出され、細胞外マトリックス(ECM)や細胞そのものに損傷を与えます。この酸化ストレスは、がん、糖尿病、自己免疫疾患などの生活習慣病の主な原因とされており、健康状態を維持するためには酸化ストレスをどのように軽減するかが重要な課題となります。慢性炎症を組織のトラウマ化として捉えると、安全な場や基盤となる足場を提供することで、トラウマ化した組織の慢性炎症を緩和する可能性があります。

3日間のイールド基礎研修の酸化ストレスの変化

この仮説が正しい場合、酸化ストレスのバイオマーカーを測定し、その値が低下するかどうかを確認することで評価が可能です。予備的な実験として、イールドの3日間の基礎研修に参加した被験者Mさんに協力を依頼し、尿中の8-OHdG(DNA酸化損傷マーカー)を測定しました。その結果、研修前と比較して、研修2日目終了後(研修3日目の朝)に採取された尿ではやや高い値を示したものの、それ以外の測定では8-OHdGの値が最も低いAランクまで低下していました。これは酸化ストレスや慢性炎症の軽減を示唆しています。

さらに注目すべき点として、研修終了後40日目の測定でも、尿中8-OHdGの値は低い状態を維持していました。このデータは、研修参加者が実習中に受けた3回のイールドのセッションが、持続的に酸化ストレスを軽減する効果を持つ可能性を示しています。


イールド基礎研修参加前後の尿中8-OHdGの推移
Day 0は研修参加前、Day Nは研修N日目終了後翌日朝にサンプリングした尿の検査結果
8-OHdGの値によるランク分けの例(検査キットからの引用)


ロルフィングセッションと酸化ストレスの低減事例

また、別のケースで、イールドの技法をベースにしたロルフィングセッションを受けている方の尿中8-OHdGを測定した事例があります。このKさんはセッション前から抗酸化サプリメントを常用していたにもかかわらず、測定結果では非常に高い8-OHdGレベル(18.5 μg/gCr)を示していました。さらに、3回目のセッション後には19.6 μg/gCrと僅かに値が上昇しており、ほぼ変わらない水準を維持していることが確認されました。しかし、7回目のセッション後の再測定では、酸化ストレス値が2.3 μg/gCrに大幅に低下していることが確認されました。

この結果は、抗酸化サプリメントの摂取が単独では必ずしも酸化ストレスを低減するわけではないことを示唆しています。一方で、身体全体の構造と機能の統合を促すロルフィングセッションや、イールドの技法のようなアプローチが、酸化ストレスの低減に寄与する可能性を強く示しています。特に、身体構造が整い、より統合されるプロセスが、酸化ストレスの改善に大きな影響を与えることが考えられます。


ロルフィングセッション前後の尿中8-OHdGの測定結果と背面の写真データ
Kさんのロルフィングセッション前後の尿中8-OHdGの比較


MさんとKさんの最初の8-OHdG値(μg/Crg)には約2倍の差があり、それぞれ11.5と18.5を示していました。この差は、生活習慣や日常のストレスの度合いの違いに起因していると考えられます。研修中に受けた3回のセッションにより、Mさんでは酸化ストレスが継続的に減少しました。一方、Kさんは、3回のセッションによって慢性的な首の違和感がほぼ解消したものの、酸化ストレスマーカーには十分な改善が見られませんでした。このことから、スタート地点の違いにより、酸化ストレスの改善が反映されるまでに必要なセッション回数は、個人ごとに異なる可能性が示唆されます。
いずれにしても、イールドの技法やロルフィングの慢性炎症やその関連疾患に対する新たな介入の可能性を示唆しています。

8-OHdGと健康状態の指標

8-OHdG(8-Hydroxy-2'-deoxyguanosine)は、DNAの酸化損傷の指標として利用される物質です。これは、DNAを構成する塩基の1つであるグアニンが、活性酸素種(Reactive Oxygen Species, ROS)によって酸化されることで生成されます。簡単に言えば、身体の「サビつき」を示す目安であり、尿中に排出されるため測定が容易です。

イールドやボディワークのような介入後に尿中の8-OHdGが低下する場合、それは酸化ストレスの軽減や身体へのポジティブな影響を示唆します。医療診断にBi-Digital O-Ring Testを積極的に活用する認定医は、この8-OHdGを主要な指標として、がんを含む生活習慣病リスクの評価に用いています。


酸化ストレスの軽減とサンクスコスト効果への注意

上記の例にもあるように、抗酸化サプリメントや他の健康法、身体のケアを行っていることが、実際に酸化ストレスが抑えられているかどうかは別の問題です。サンクスコスト効果により、「これを飲んでおけば大丈夫」「ここに通っているから安心」といった心理的な正当化が働く場合があります。しかし、身体は正直です。実際にどうなのかを知るためには、今回測定した尿中8-OHdGなどを用いた客観的な測定が必要です。このような測定は、ケアの効果を科学的に評価するための重要な手段となります。

酸化ストレス測定キット カラダのサビつき検査「サビチェック」

※ 8-OHdGのデータの単位はμg/gCr で表されます。尿中の物質濃度を クレアチニン補正 した値を示しています。この補正は、尿中の特定物質(例えば8-OHdG)の量が、尿そのものの濃さ(濃縮度)に影響されないようにするために行われます。

※※上記のデータは、機関誌 Structure, Function and Integration 2024年7月号に掲載した値を用いています。


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