ロシア語読本 アクセント符号と朗読音声付(中級編)
昨日、「ロシア語の対訳書籍と朗読音声(中上級編)」というタイトルでロシア語の学習教材に関して一つ投稿しました。
その後、あらためて記事や持っている書籍と実際の音声とを比べてみて、こちらはロシア語の文法を終えた程度の初級者にはかなりハードルが高いことに思い至りました。
前回の記事で取り上げた大学書林の語学文庫の作品はどれも詳細な語句解説がついています。たとえば『マカールの夢』などは、ページによっては本文はわずか5行で残りは半分以上のスペースを語句の解説が占めるところもあります。
左ページにロシア語原文、右ページに日本語対訳、下段に語句解説、という対訳本によくあるスタイルですね。しかし、いくら語句解説が充実してるとはいっても、やはり文庫(サイズは新書版)ですから、それによるスペースの制約もあります。
初級者が辞書だけあれば、これらの本があれば、自分でどんどんロシア語の学習を進めていけるか?さすがにそれはハードルが高いと感じます。
そこで新たに中級編としてもう少し解説が丁寧についている他の書籍を上げることにしました。
ロシア語の中級書籍に必要な条件
「ロシア語の中級書籍に必要な条件」としていますが入門・初心者の書籍であっても同じかと思います。
ツイッターのプロフにも書いていますが、黒田先生の刺激を受けてロシア語に関心を持ったので、この本には非常に影響を受けました。
黒田先生が何度も強調しているようにロシア語において正しいアクセントは大切です。
ロシア語でなくても、英語や、さらに声調が意味を左右する中国語やタイ語のような言語では正しいアクセントがとても大切だと思いますが、黒田先生のこの本を読むとどれだけロシア語のアクセント(ウダレーニエ)が大切なのかが初心者でもわかります。
発音やアクセント(ウダレーニエ)も含めてロシア語の初歩を終えた人が次のステップとして文学作品を正しく読んだり覚えたりするための書籍には、次のような条件が最低でも必要かと思います。
中級のロシア語書籍に必要と考えること
1)音声CD/ダウンロードがついている
2)テキストにはアクセント(ウダレーニエ)がついている
3)語句や文法事項、必要に応じて文化的・歴史的な背景の補足説明がある
4)必須ではないけれども、個人的には書き込みができる余白が適度にある
大きめの書店などでも実際の書籍をめくったりして調べてみましたが、この点で素晴らしいと思うのは、ロシア語に関して言えば「ナウカ出版」の各種書籍ではないかと思います。
ナウカ出版の『名作に学ぶロシア語』
ナウカ出版。
日本でナウカと言えばロシア語書籍を扱っている東京・神田のナウカ・ジャパン社もあります。
こちらの会社と関係しているのか、その辺はよくわかりませんでした。
ナウカ出版社さんの一覧によれば『名作に学ぶロシア語』読本シリーズとして以下の5冊が示されています。
『プーシキンを読む』、『チェーホフの『谷間』を読む』、『アンナ・カレーニナ』を読む』、『ゴーゴリ『鼻』全文読解』、『罪と罰』いま読み解くドストエフスキイ』
しばらく前まで『名作に学ぶロシア語 初歩から講読へ』が掲載されていたのですが、現在は絶版となっているようです。
ジュンク堂のサイトでは注文できなくなり、Amazonのサイトでもプレミアがついてとんでもない値段になっています。
非常に良書だったと思うので、絶版になったのはとても残念です。
ところでナウカ出版から現在も発売されている残りの5冊の作家を見てみますと、プーシキン(1799年 - 1837年)、チェーホフ(1860年 - 1904年)、トルストイ(1828年 - 1910年)、ゴーゴリ(1809年 - 1852年)、ドストエフスキー(1821年 - 1881年)と、どの作家も19世紀から新しくても20世紀初頭、つまり今から100年以上前の作家ばかりです。
日本で言えば明治時代の作家ばかりを集めているのですが、これで良いのでしょうか?
プーシキン以後の作家のロシア語
現代ロシア語を確立したとされるプーシキンは1799年6月6日(旧暦5月26日) - 1837年2月10日(旧暦1月29日)に活躍した作家です。明治維新の始まりとされる「大政奉還」があった1867年より30年も前に決闘で命を落としていますが、ロシアビヨンドの特集でも次のように書かれています。
彼の作品は、現在もなおロシア人が書き、話している言葉で書かれている。
明治維新より30~40年前に活躍した作家が確立したロシア語が現代でも読み書きされているというのは日本人の感覚からすれば驚くべきことです。
しかし、このことは現代においてもロシア語を学ぶ日本人にとってもプーシキンを読むことは十分に意味も価値もある、とも言えます。
これらの作家群の中では最も早いプーシキンが確立したロシア語が現代でも使われているのであれば、プーシキン以後の作家のロシア語はさらに現代のロシア語と異なることはないでしょう。
『プーシキンを読む』の構成
というわけで、ナウカ出版の『名作に学ぶロシア語』シリーズの一冊、『プーシキンを読む』を見てみます。CDもついていて、全20課のすべてのテキストの音声が録音されています。
アクセント記号はもちろんついていますし、「単語帳」としてかなりたくさんの単語の解説がついています。
さらに各作品について、「学習書としての観点でつけられた和訳」、「鑑賞のヒント、リズム/形式、あらすじ」や、「作品の魅力」、「このとき、プーシキンは」といった説明もロシア語・対訳と同じボリュームでついています。この「リズム/形式」がまた詳細な説明でして、拍子やリズムがわかりやすく書かれています。
「作品の魅力」も相当な分量を割いて、当時の状況を踏まえて作品が持つ意味合いが説明されています。第14課の「漁師と魚の話」ではプーシキンの家系図まで示されていて(掲載は第4課の余白に記載。説明が第14課からとなっています)、「ミニロシア語便覧」のようなつくり。
中級学習者にはこれぐらい詳細な説明があって初めて、プーシキンの当時の状況を思いつつ作品に触れることができます。
ここまで丁寧に説明されているため、書籍の厚さに比べて音声が43分しかありませんが、「ミール式」に正確に暗記・発音しようとすると、これぐらいの分量は適切ではないでしょうか。
他の購入可能な作品のリンクを貼っておきます。
他の出版社の中級読本
ナウカ出版さんのは、ロシア語学習書籍専門ということで、上述した通りにかなり丁寧な本を出版していただいています。
昨日、別記事で紹介した大学書林さん以外でも中級レベルの学習に使えそうな書籍をリストアップしておきたいと思います。上記で上げた4つの条件を満たすものから優先的に。
NHK出版 ロシア語対訳 名場面でたどる『罪と罰』
望月先生がNHKのロシア語講座で解説していたものをまとめて出版された書籍。Kindle版では音声はダウンロードですが、書籍はCDが付いているようです。
語句の解説はかなり充実しています。
ロシア語で読む星の王子さま―CD付
解説の必要ないと思いますが、ロシア語に翻訳された『星の王子さま』。音声CD付なのは表紙に書かれています。アクセント(ウダレーニエ)や語句の解説もあり。
『星の王子さま』に関しては、東京外国語大学で扱っている全28言語で読めるものまで出版していて驚愕せざるを得ない。
語学マニアがいれば必須の書籍かなとは思いますが、惜しむらくは音声CDが付いていないこと。
それさえついていたら私も買ってたかも。
いえ、さすがに28言語は手が出ませんが、もう趣味の一環として。
IBC対訳ライブラリーから数冊
書店にいくと、IBCパブリッシングさんからも対訳ライブラリーが出版されています。
昨日紹介した『チェーホフ短編集』もIBCパブリッシングさんの書籍。この本にはアクセント記号(ウダレーニエ)もついていますし、語句の説明もあります。
IBC チェーホフ短編集
作品紹介や背景説明のようなものはありません。
IBC 日露対訳 『罪と罰』&『カラマーゾフの兄弟』
そしてIBCパブリッシングさんから、同じような体裁の対訳本が2冊。
どちらもドストエフスキーで、MP3のCD付。語句説明はありますが、中をざっとみるとアクセント(ウダレーニエ)がないのは中級者には痛い。
それがなくても正しく読める様に学習すればよいのでしょうが、中級者レベルではかなりハードルが高いと思います。
IBCパブリッシングさんの対訳本としては、もう一冊。『やさしいロシア語で読む 罪と罰』という本が出ています。
この本はリライト者がクレジットされていますので、単語や表現は英語のグレイドリーダーのような感じで学習者にも読みやすい、ということだと思います。
ただ、音声CDやダウンロードもなかったようですし、アクセント(ウダレーニエ)もないので、これが読めるのは中上級者でも上級者に近くないと難しいのではないでしょうか?
ちなみに、IBCパブリッシングの【日露対訳】シリーズ2冊とこちらの『やさしいロシア語で読む罪と罰』はすべて同じ方(ユーリア・ストノーギナさん)がリライトしているので、『罪と罰』は同じテキストの可能性があります。(少なくとも最初のページのロシア語は同一でした。)
CD付で学習した人が、手軽に持ち歩いて読書できるようにと出版されたのが『やさしいロシア語で読む罪と罰』かもしれません。
ロシア語の基本文法を終えた人は、次にナウカ出版の『名作に学ぶロシア語』シリーズやNHK出版のドストエフスキーを読み、さらに大学書林の語学文庫を音声付で読み込んでいけば、中級を越えて上級の入り口あたりまで踏み込んでいけるのではないかと思います。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
他にも有益な書籍等がありましたら、引き続き紹介していきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
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