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ロシア語読本と朗読音声(中上級編)
最近、私の note のダッシュボードを見ていると目立つのが、ロシア語版のAmazonサービスのようなLitResや、ロシア語の学習環境に関しての記事へのアクセスが増えてきている、という点です。
前から書こうと思っていた内容でもあり、せっかくお越し頂く方のために、この機会にまとめてみました。
はじめに
英語の学習方法については諸説ありますが、どんな方法をとってもこれだけは間違いないと思うのは、大量の英語に触れなければ「英語を身に着けた」というレベルには到達しないだろうということで、ある程度の基本的な文法や単語を身に着けた人は、たくさんの量の読書が必要になると思います。
英語に関して言えばアメリカのAmazonが提供してくれているWhispersyncというKindleとAudibleの連携は奇跡のようなサービスです。私のところの note でもアクセスを稼ぐのはこれらKindle/Audible関係の記事です。
ロシア語にも同じようなサービス、LitResがあることはこちらの記事で説明した通りです。さすがにWhispersyncのような機能はないようですが。
LitResではウェブでもアプリでも電子書籍とオーディオブックが提供されている、という点で確かに「ロシア版Amazonのようなサービス」です。これができただけでも素晴らしい。
今や世界のリンガ・フランカになりつつある英語はありとあらゆるレベルの新刊書籍が、毎月のように出版されますが、ロシア語はあらゆるレベルは望むべくもなく、新しい学習書の出版される頻度も落ちてしまいます。せっかく出版された良書・名著も、きちんと売れなければ再販されなくなってしまうリスクが高いことでしょう。それどころか、そもそも最初の出版にこぎつけるだけでも大変なのだと思います。
そんな中、昔から地道な語学書籍を出版し続けてくれている出版社の一つが大学書林さんです。
他にもナウカ出版さんも素晴らしい学習書籍を出版してくれており、本稿でも幾つかの本については取り上げていますし、別記事でもまとめてみました。こちらも合わせてお読みください。
大学書林の語学文庫(ロシア語版)
ロシア語の教科書・参考書もいかにも「大学書林さんですね」という感じの、流行に乗るつもりとかそんな意識は全くなさげな装丁も素晴らしいのですが、そもそも1950年代に発売されてから今まで改訂されることもなくいまだに売られている「大学書林 語学文庫」というのがあります。
元は8冊ほどあったようですが、一冊はさすがにお役御免となったのか大学書林のサイトにも掲載されていません。
1950年代などといえば、カセットテープですらあったかどうかという時代ですので、ロシア語の朗読などを安価な値段で提供するなどということは非常に困難だったのだと思います。
今の時代でもロシア語のマーケットサイズからしても、文学作品の朗読テープやCDなどを新たに付けて販売するのは困難に違いない、というのは業界関係者でなくても想像がつきます。
ところが、AmazonのKindle/Audibleに類似したサービスが提供されるにいたり、日本の出版社が新たに朗読CDを製作しなくても、それらが入手できるようになりました。
日本で出版された対訳本とロシア語音声の組み合わせ
今現在、発売されているロシア語の語学文庫についていえば、ロシア語学習についてきっと役に立つ作品です。プーシキン、チェーホフ、ゴーゴリ等々。
語学文庫については、今後も在庫がふんだんに提供されるかどうかわかりません。もし、ロシア語を学ぼうとしておられる方で、CDなどがないことを理由に購入に二の足を踏んでいるという方がいらっしゃいましたら、以下の組み合わせは最強だと思います。
そして在庫がさばけて、大学書林さんの方でもこれらの書籍を今後も販売し続けてくれるようにという気持ちも込めて、この記事を書きました。
以下の書籍タイトルの〇・△・×について
以下、タイトルの前に「〇」が付いているのは録音あり。「△」は一部のみ録音あり、「×」は残念ながら録音が見つけられなかった作品です。
※ △について:投稿時には一部の録音しか見つからなかった作品もあって、△も利用していました。その後、YouTubeで朗読が見つかったので、現在は基本的には一作品以外の全てに朗読があります。
1)〇 ベールキン物語 (大学書林語学文庫)
А.С.Пушкин (著)、小沢 政雄 (訳註)
7冊からトップバッターに持ってきたのは、ロシア語とロシア近代文学の父プーシキン。プーシキンについてはこちらの記事で簡単に触れています。
ベールキン物語はAmazonの説明ではこのように書かれています。
ロシア散文小説の出発点となった『ベールキン物語』
ロシア散文小説の出発点となった作品。ロシア語の古さ・新しさに言及できるほどの実力はありませんが、対訳を読む限りにおいては普通に小説として楽しめます。
ロシア語の父ともされるプーシキンの作品は是非とも触れておくべきものの一つかと思います。
オリジナルの『ベールキン物語』には5つの短編、『吹雪』『百姓令嬢』『その一発』『棺桶屋』『駅長』が収められています。
この語学文庫版には、5つの短編のうち、『その一発』『駅長』の2編のみが収められています。
大学書林 語学文庫『ベールキン物語』
LitResの録音には『ベールキン物語」の5編すべてはもちろん、別作品となる『ドゥブロフスキー』『大尉の娘』まで収録されています。これで数百円なのはお得だと思います。
LitRes:『ベールキン物語』
もし大学書林の語学文庫『ベールキン物語』を読み終えて、ここに収録されていない残りの3編をロシア語で読みたくなったり、あるいはLitResの録音を聴いて、『ドゥブロフスキー』『大尉の娘』のテキストを読みたくなった人がいても大丈夫。それらもLitResで入手できます。
もちろん、大学書林の語学文庫のような日本語の注釈はついていませんが、昔のように書籍を探して歩く必要がなくなっているだけでも素晴らしい。
しかもプーシキンのように明治維新以前の作家は著作権も切れていますし、LitResでも無料で提供されています。
LitRes 『ベールキン物語』(書籍:無料)
LitRes『ドゥブロフスキー』(書籍:無料)
LitRes『大尉の娘』(書籍:無料)
『大尉の娘』については、挿絵付きの書籍も販売されていました。中身まではみてませんが、表紙絵も美しく、当時の雰囲気を目でも楽しみたいという方はこちらを購入しても良いのではないでしょうか?
LitRes『大尉の娘』(書籍:有料)
為替レートの差が生じるかもしれませんが、仮にあってもレートによる差額は多くても10円以下。一冊数百円でこれが買えてしまうのは、何と言いますかいろいろ錯覚してたくさん買い込んでしまいそうになります。
2)× 子供の知恵 (大学書林語学文庫)
Л.Толстой (著)、和久利 誓一 (訳註)
2番手はトルストイです。2番手にもってきてはみたものの、残念なことにこちらの朗読音源は見つかりませんでした。現在、入手可能な「大学書林 語学文庫 ロシア語版」に掲載されている作品の中で、一切の録音が手に入らなかった唯一の作品となります。
大学書林 語学文庫『子供の知恵』
ロシアで朗読音源を探せるサーバーもあるのですが、そちらでも見つかりませんでした。
チェーホフのところで後述するTouTubeで多数、公開されているオーディオブックやロシアの学校の課題の動画なども見つかっておりません。
テキストは簡易で、子供向けという意識から、本国でも録音するまでもない、ということになっているのでしょうか?外国語学習には、こういった本の録音の方が役に立つような気もします。マザーグースのCDが売られているような感じで。
今後、録音が見つかれば追記することにいたします。
3)〇 殻に入った男 (大学書林語学文庫)
А.П.Чехов (著)、中村 融 (訳註)
次は世界的にも人気が高く、巧みな短編集で愛されているチェーホフ。
大学書林 語学文庫のロシア語版でも人気で、2冊出版されています。
まず1冊目は『殻に入った男』。チェーホフは短編作家として有名ですが、『殻に入った男』は語学文庫一冊で一編ですので、中編小説ぐらいになるのでしょうか。
『箱に入った男』と訳す方もいらっしゃるようです。
未知谷 『箱に入った男』
以下が大学書林およびLitResの作品となります。
大学書林 語学文庫『殻に入った男』
LitRes:『殻に入った男』
4)〇 結婚申込み・熊 (大学書林語学文庫)
А.П.Чехов (著)、野崎 韶夫 (訳註)
語学文庫ではチェーホフの作品がもう一冊あり、こちらは短編が2つ掲載されています。
LitResでは『結婚申込み』も『熊』もどちらも見つかりませんでしたが、『結婚申込み』については別の出版社のCD付対訳集には音源がありました。この対訳集については後述いたします。
※2021年10月29日追記
IBCパブリッシングの本だけでなく、YouTubeでも朗読音声が公開されていました。
大学書林 語学文庫『結婚申込み・熊』
『熊』についてLitResでも検索したら表示されるオーディオブックもあります。
しかし実際に購入して聞いてみますと該当するオーディオブックには肝心の『熊』は含まれていません。後述するチェーホフ作品の朗読音源サイトやCDについても自分が探した限りでは見つかりませんでした。
なお、『結婚申込み』はこちらのIBCパブリッシング社の対訳集に掲載されています。CD付で『結婚申込み』もCDに録音されています。
IBCパブリッシング 『日露対訳 チェーホフ短編集』
この本で驚くのは、書籍としては12編の短編が収録されているにも関わらず、付属のCDに録音されている作品は4編のみという点。
残りはロシアのサーバーで提供されているので、そちらでどうぞ、との紹介でした。購入者特典として掲載されているリンクなら転載は控えますが、探せば見つかるところに置いてあるものを書籍に記載してあるだけですので、こちらにも参考として掲載いたします。ロシアのチェーホフ関連の音源を集めたサイトのようです。
チェーホフ mp3 オーディオブック集
書籍に収録された作品を検索してみますと、残り8篇は全てこのサーバーで公開されているようです。ロシア語初心者でもキリル文字を頼りに探せるはず。
『対訳集 チェーホフ短編集』の注意書きによれば、ここに掲載されている録音で使われたテキストが違うようで、『対訳集』に収録した作品について「若干のテキストの異同はある」と記されています。
不思議なことに、このオーディオブック集のサイトでも『結婚申込み』と『熊』については見つかりませんでした。しかし、2021年10月29日、YouTubeのオーディオブックの録音が公開されていることを知りました。
まずは『結婚申込み』
そしてこちらが『熊』
これらの動画を探したときの記事がこちらです。
無料でこれだけ公開されているのは驚きました。
ただ、これらのYouTube動画を発見した後も一生懸命調べてみていますが、それでもトルストイの『子供の知恵』は未発見です。
5)〇 ツルゲーネフ散文詩 (大学書林語学文庫)
И.С.Тургенев (著)、岡沢 秀虎 (訳注)
5番目は『猟人日記』などで知られるツルゲーネフ。散文詩は彼の晩年の作品のようです。LitResには他の長編もありますが、中級で読むにはこちらの散文詩=短編集の方が読みやすいのでしょう。
大学書林 語学文庫『ツルゲーネフ散文詩』
「ツルゲーネフ散文詩」は、ツルゲーネフの最晩年に書かれた小品集で、詩というよりは散文小説集といった形式。
著作権は切れているのでネット上で公開されています。ロシア語は相変わらず文字化けしていますが、リンク先はロシア語の青空文庫のようなサイト。
前文にあたる「読者に向けて」から、「田舎」以降、全83篇があり、大学書林の語学文庫ではこのうち14作品が収められています。
LitResは全部で1時間24分ありますが、この順番の通りの録音でもなく、全83篇がすべて収められているかどうかは、まだ未確認です。
LitRes『ツルゲーネフ散文詩』
注意:ツルゲーネフ散文詩
念のためここで紹介しているオーディオブックは購入して確認済みです。
上述の通り、オリジナルの『ツルゲーネフ散文詩』は全83篇ありますが、収録された詩の最初の方から確認したところ、順番がバラバラなようで、83篇すべてが収録されているかは、確認できていません。
1時間24分で一つの音声ファイルとなっていて、タブや区切りなどもありませんでした。
LitResではなかったとしても、必殺!YouTubeのオーディオブックで探してみたところ、見事に語学文庫に収録されている14作品はすべて見つかりました。
いくつかの動画は、2~3作品を続けて収録していますが、せいぜい3つ程度ですし動画の画面に朗読中の作品名が表示されますので探すのははるかに容易でした。
語学文庫にある14作品名と、対応するオーディオブックのリンクを貼っておきます。リンクが一つしかないものも、タイトルで検索すれば他にもたくさんでてくる可能性があります。
ツルゲーネフ 散文詩のオーディオブック@YouTube
14作品のオーディオブックのリンクをこちらに貼ると、それだけでも割と膨大なボリュームになるので、別記事で一つ作成しました。
こちらも合わせてご覧ください。
ツルゲーネフについては、他にも『父と子』や『初恋』など人気の高い作品も多く、『初恋』についていえば、シメリョフという作家が書いた『愛の物語』という小説でツルゲーネフの『初恋』について言及されており、さらにはこの『愛の物語』をもとにして『春のめざめ』というロシアアニメまで作られています。
アレクサンドル・ペトロフ 監督 『春のめざめ』
シメリョフの『愛の物語』については、邦訳は見つかりませんでした。この件については後述いたします。
『春のめざめ』については、映画の邦訳を担当された方の記事がこちらで公開されています。
シメリョフの作品については、『CDブック ロシアのクリスマス物語』のみが見つかりましたが、こんな素敵な紹介文を読むと、読んでみたくなりますね。
寒い寒いロシアの冬に、人びとの心を芯から温めてくれたのは、作家たちが腕によりをかけて作ったクリスマスの物語。幻想的ななかにも人びとの心を映し出すものがあって、そして、いつも幸せが訪れる。そんなクリスマス・シーズンのとっておきの話。
群像社 『CDブック ロシアのクリスマス物語』
シメリョフについては、LitResでもすべての作品が公開されていないようです。たとえばLitResの作品リストで「クリスマス物語」に関係しそうな作品は1897年の『Рождество. Чудесные истории』と思われますが、いろいろ調べてみると、シメリョフは『クリスマス』に関する短編も、『クリスマス』や『モスクワのクリスマス』といくつかあるようです。
また、『愛の物語(原題:История любовная)』も、LitResではリストに上がっていません。
最初、翻訳がないのは原作がないからかとも思いましたが、さすがにそれは早とちりなようです。単にLitResには見つからないだけで、他にはいくらでも出てきます。
まずLitResのリスト。
LitResのイワン・シメリョフの著者ページには、『История любовная(愛の物語)』はでてきません。しかし、東京外語大学の沼野先生の研究室のサイトでも以下のように記載がされていますし、『История любовная(愛の物語)』をもとに映画まで作成されているわけですから、LitResのリストにないことが即ち作品がない、にはなりません。
2007 年に日本で公開された『Моя любовь(邦題は「春のめざめ」)』は、Иван Шмелев イワン・シメリョフの『История любовная(愛の物語)』を原作にして作られたアニメーション(沼野研究室サイトより引用)
この件について、『CDブック ロシアのクリスマス』が到着した後にいくつか調べた内容をまとめたのがこちらの記事です。『История любовная(愛の物語)』の原文テキストも、「春のめざめ」から転載された挿絵で出版された書籍も、朗読もいくらでも見つかりました。
イワン・シメリョフや『История любовная(愛の物語)』について、こちら「イワン・シメリョフとロシアのクリスマス」の記事もご覧ください。
6)〇 外套 (大学書林語学文庫)
Н.В.Гоголь (著)、吉原 武安 (訳註)
日本文学にも影響を与えたウクライナ人作家のゴーゴリの『外套』。ウィキペディアの記事にはこんな記載もあります。
芥川龍之介の作品『芋粥』は導入部分が、ゴーゴリの『外套』に酷似している。
芥川龍之介の作品にも似ているという『外套』。以下をご覧ください。
大学書林 語学文庫『外套』
LitRes『外套』
参考:ナウカ出版 ゴーゴリ『鼻』全文読解
ゴーゴリの『外套』と並んで評される『鼻』については、ナウカ出版社さんから、このような全文読解・CD付の本もでています。
ナウカ出版『ゴーゴリ『鼻』全文読解』
7)〇 マカールの夢 (大学書林語学文庫)
В.Г.Короленко (著)、染谷 茂 (訳注)
最後がコロレンコによる『マカールの夢』。
実は、このコロレンコの作品の音源がないかと探し回って見つけたのがLitResだったりします。大学書林の語学文庫に一冊が取り上げられるほどの作家でありながら、あまりなじみがなかったので、どんな感じなのだろうと。(その前にロシア語やんなきゃ、なんですけどね。)
大学書林 語学文庫『マカールの夢』
LitRes『マカールの夢』
LitResで『マカールの夢』を見つけたときは、なんと便利な世の中なんだろう?と思ったものです。
番外編
上述しましたように、大学書林の語学文庫を調べると、昔は8冊出ていたようです。それがこちら。
大学書林 語学文庫『ソヴェト・ユーモア・コント集』
これはものすごいプレミアがついてて、現在34,900円。
さすがにそこまで投資してソヴェト時代のコントが読みたいかっていうと、私は不要かな。そういう時代のユーモア・コントにご関心の方に紹介だけ。
今日も最後までお読みいただきありがとうございました。マニアックなネタの記事ですが、ロシア語学習者の方の一助になればと思い投稿します。
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