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BIOPUNK(バイオパンク)とは何か?

どうも、わしです。
緑翔 ヤモリ(ろくとび やもり)と申します。
バイオパンククリエイターとして活動しております。

突然ですが、皆様は「バイオパンク」というものをご存知でしょうか?
初めて聞いた方がほとんどではないかと思います。

簡単に説明しますと、「バイオパンク」とはバイオテクノロジーに焦点を当てたSFの二次的ジャンルの一つです。

最近各所で「サイバーパンク」や「スチームパンク」など「◯◯パンク」と名のつく創作ジャンルが活発になって来ていますが、その中で今後注目が期待されるとわしが(勝手に)睨んでいるジャンルが「バイオパンク」です。

なので、今回は「バイオパンク」についてわしの知識や考えをこちらにまとめさせて頂こうと思います。

あくまで個人的な解釈なのでこれが正解という訳ではないのですが、これから「バイオパンク」というジャンルで活動を始めようと考えてる方に対して何らかの指標になれば幸いです。


バイオパンクとは?

わしはよく「“バイオパンク”って何ですか?」と聞かれるのですが、皆さんは「バイオパンク」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?何かとりあえず実験とかやるのかなぁといった感じですかね。

先に申し上げますと、わしはこの問いに対してバイオパンクとは「生物学的技術による下剋上、もしくは民主化」なのではないかとお応えしております。

ではこの「バイオパンク」につきまして、個人的な解釈にはなりますが、「バイオ」と「パンク」に分けてご説明させて頂きましょう。

まず「バイオ」とは生命や生物を指す接頭語です。バイオテクノロジー指す場合もあります。何となく分かりますよね。「バイオハザード」とか「BioShock」などの作品で大まかなイメージはあるかと思います。

では「パンク」とは一体何でしょうか?よく「〇〇パンク」ってジャンルはよく耳にしますが、大抵の人は説明に難儀するかと思います。

そもそも「パンク」という単語は元々不良やチンピラを指す単語で、音楽やファッションを中心に発展していきました。イギリスのロックバンド「セックス・ピストルズ」などが有名ですね。

この「パンク」は労働者階級など社会で下の階級に属する人達が中心となって活動していたため、反権威主義やDIY(自分でやる)精神をスローガンに掲げていました。要するに「おカミに頼らず俺たちがやるぞ!」といった感じです。

では創作の世界における「パンク」とは一体何でしょうか?

「〇〇パンク」の原点であるサイバーパンクの作品を見ると大抵の場合「巨大な組織」が存在します。ほとんどは科学技術で莫大な利益を得た企業や政府などです。

一方、主人公側はその「巨大な組織」に立ち向かうために身の回りの物を駆使して科学技術を手に入れた「民衆」であることが多いです。なので、やはりここでも「パンク」精神が存在する訳ですね。

上記をまとめると、創作の世界における「パンク」とは「おカミが抱え込んでいる技術をただの民衆が工夫を凝らして自分達のものにする」≒「技術の下剋上(民主化)」と訳せるのではないでしょうか?

ただ、最近の「〇〇パンク」を見ますと、必ずしも「巨大な組織」が存在する訳ではなく、「民主化」により焦点を当てている傾向が強い気がします。もしかしたら「パンク」の意味も変わりつつあるのかもしれませんね。

ということで、わしは上記の「バイオ」と「パンク」を組み合わせて、バイオパンクは「生物学的技術による下剋上、もしくは民主化」と訳しているってわけです。

バイオパンクはどうやって生まれたのか?

現在巷で流行っている「〇〇パンク」と言われるジャンルの原点がサイバーパンクとされていますが、バイオパンクもサイバーパンクからの派生ジャンルの一つだと言われています。ここでわしの知る限りにはなりますが、バイオパンクの発端についてお話させて頂きましょう。

バイオパンクで有名なSF作家の一人にポール・ディ・フィリポさんという方がいらっしゃいます。

この方は1991年11月14日にリリースされた「BEYOND CYBERPUNK!(サイバーパンクを超えろ!)」という5枚のフロッピーディスクと小冊子で構成されたものの中で「ライボファンク:宣言集(RIBOFUNK: The Manifesto)」を発表しています。

ライボファンクとは細胞の小器官である「リボソーム(ribosome)」と音楽ジャンルの「ファンク(FUNK)」を組み合わせた合成語で、バイオパンクの原点とも言える単語です。バイオパンク的な作品はこれよりも前に存在しますが、この宣言はバイオパンク的な認識を改めて言語化したものになります。

ここで皆さんも疑問をお持ちだと思うのですが、では何故フィリポさんは「バイオパンク」ではなく「ライボファンク」を提唱したのでしょうか?

「ライボファンク:宣言集」の内容についてはWikipediaに和訳が書いてありますので以下のリンクをご参照頂ければと思います。

こちらを読むと、どうやらフィリポさんは当時「サイバー」は活きた実践者がおらず、「パンク」は実践者はいたが行き詰まりだと感じていた様です。確かに80年代はサイバーパンクが流行していたので、フィリポさんはその過程で生じた作品の中にはサイバーパンク本来の思想を反映していない「劣化コピー」とも取れるものが多く含まれていたと感じていたのかもしれません。

なので、フィリポさんはテコ入れのために「ライボファンク」という単語を作り出したみたいなのです。なかなか挑戦的ですよね(笑)。

しかし現在、「ライボファンク」という単語はほぼ耳にしません。フィリポさんは劣化コピーを防ぐためにあえて難解な「ライボファンク」という単語を採用したのかもしれません(あくまでわしの憶測です)が、やはり「ライボファンク」と聞いてもみんな意味がよく分からなかったせいか、ジャンルとしてはあまり定着しなかった様です。

なのでわしは、ジャンルとして確立させるためにはある程度分かりやすい単語を選択すべきだと考えております。だって「バイオパンク」だったらキャッチーですし分かりやすいじゃあないですか。

バイオパンクの定義をどう決めるか?

では、「バイオパンク」というジャンルを確立するに当たってどう定義すれば良いでしょうか?

「サイバーパンク:エッジランナーズ」というアニメの予告では「“鋼(メタル)は肉(ミート)に優る”世界へ」というキャッチフレーズが流れるんですが、サイバーパンクが「“肉”を“鋼”で強化する世界」ならば、バイオパンクは「“肉”を“より強い肉”で強化する世界」かと思います。

“肉”を“鋼”で強化する世界、サイバーパンクの代表作。
カッチョいいから見て。

実はバイオパンクは広義の意味ではサイバーパンクとほぼ同義であると考えている人もいらっしゃいます。改造するベースが「肉体」でバイオ的要素を含んでいるからです。

ただ、わしとしてはバイオパンクというジャンルを確立するためにもうちょっと差別化を図りたい。
ではサイバーパンクとバイオパンクの違いは何かと言うと、本質が「メカ」側にあるか「肉」側にあるかの違いではないでしょうか?

例えば見た目は普通の人間が負傷などで機械が露出して「メカバレ」するのと、メカメカしいロボットの中身が実は生体組織だったと「肉バレ」するのとどっちがバイオパンクだと思います?

難しい方は質問を変えましょう。「◯◯バレ」した時に注目するのは殻である「外見」と露出した「中身」のどちらでしょうか?

おそらく後者の「中身」と答える人が多いのではないかと思います。やっぱり「中身」を見た時が一番SF的ロマンを感じますよね。

となると、SF的要素を感じる「本質」は「外見」ではなく「中身」側にあるということです。なので最初に書いた、人間が「メカバレ」するのとロボットが「肉バレ」するののどちらがバイオパンクだと思うかという問いに関しては後者の「肉バレ」の方がバイオパンクだとわしは考えております。

先ほど述べたSF的要素を感じる「本質」は「動力は何か?」で考えると分かりやすいのではないでしょうか?

例えば他のSFジャンルで考えると次のようになります。

・サイバーパンク → 動力が「電気(メカ)」
・スチームパンク → 動力が「蒸気(蒸気機関)」

なので、バイオパンクだと以下の様に表現出来るのではないでしょうか?

・バイオパンク → 動力が「生体機能(肉)」

攻殻機動隊などで見られる「義体」は肉体がベースなので
バイオっぽく見えるが、動力が「電気(メカ)」なので
やっぱりサイバーなんじゃないかなぁ。

バイオパンク作品と言える要素は何か?

以上を踏まえて、ではバイオパンク作品とはどの様な物を指すのでしょうか?

世間でバイオパンクとされている著名な作品を例に上げて検証していきましょう。

※以下、作品に言及するために多少のネタバレを含みます。

・バイオハザードのバイオパンク的要素の検証

「バイオハザード」はアメリカの地方都市ラクーンシティ郊外の洋館で起こった猟奇的殺人事件を発端に特殊作戦部隊S.T.A.R.S.が国際的製薬会社である「アンブレラ」の陰謀を暴いていく有名なサバイバルホラーゲームです。

この作品にはウイルスの蔓延や生体実験によって生み出されたクリーチャーがふんだんに出てくるので、バイオパンクの特に「バイオ」的要素を豊富に含んでいます。アンブレラという巨大な組織の存在においては「パンク」的要素の方も一部含まれていると言えるかもしれません。

しかし、最初の章の「バイオパンクとは?」で先述したように「パンク」を「技術の下剋上・民主化」と訳すならば、バイオハザードはバイオ技術をアンブレラという一企業が占有している状態で、民衆にはバイオ技術が下って来ていません。

確かにS.T.A.R.Sという民衆側の特殊部隊が「アンブレラ」という巨大組織に立ち向かうという点においてはバイオパンクっぽいですが、S.T.A.R.Sがアンブレラの技術をハックし、それを応用して武器を作ったり自ら肉体改造を施して立ち向かっているかというとそうではありません。

また、バイオハザードはバイオ技術による「文明の繁栄」ではなく、ゾンビやB.O.W(有機生命体兵器による「災害」の方に焦点を当てています。

確かにサイバーパンクなどのSFでは新しい技術による「闇」がよく描かれていますが、パンクが「民主化」の意味を含むとすると、やはり民衆がそれなりに新しい技術を扱えてる必要があります。

故に「パンク」さを出すのであれば、未知の脅威に晒されているという「闇」の面だけではなく、新しい技術を駆使して必死に生きる「光」の面を見せなければなりません。

なので、バイオハザードはバイオパンクの特に「バイオ」的要素を多く含んでいますが、「パンク」的要素の方はやや少なめなのかもしれません。

・BioShockのバイオパンク的要素の検証

「BioShock」は飛行機事故に遭った主人公ジャックが冷戦時代に科学の発展のために作られた“理想の”水中都市「ラプチャー」に迷い込むホラーゲームです。

この作品の舞台となるラプチャーではかつてあらゆる規制から開放された実験が行われていました。その中で「ADAM(アダム)」という人間に特殊能力を与える新物質が発見され、ラプチャーの住民はこぞってこのADAMを自分に投与します。

しかし、後にこの物質は過剰投与すると精神と身体に異常を来して「スプライサー」という狂人になってしまうことが発覚し、ラプチャーは暴徒化した住民により崩壊してしまいました。ジャックは手にした武器と「プラスミド」を自ら投与することで得た超能力で、このスプライサーと戦いながら物語を進めていきます。

さて、こちらの作品について見ていくとどうでしょうか?ADAMなどのバイオ技術による都市の発展や主人公がプラスミドによって超能力を得る点においては前述のバイオハザードと比べるとより民主化の面が強い様に思えます。

しかし、このBioShockもバイオハザードと同様、バイオ技術の繁栄というよりは災害の面が強く出ている印象があります。住民の科学者達がADAMによる被害を受けず、たとえ下心はあれど経済が上手く回っている状態を維持できていたのであれば、ラプチャーは安定したコミュニティのままですので特に問題なく「バイオパンク」と言えたかもしれません。ですが、このゲームはすでにコミュニティが終わった状態から物語がスタートします。

なのでこのBioShockに関しては「バイオパンク」の世界そのものというよりは「バイオパンクしてみたけれど失敗した」世界と言えるかもしれません。

「バイオ」を「パンク」することへの警鐘

前章でバイオパンク作品とされる代表作について再検証を行った結果、バイオパンクに該当する要素と該当しないかもしれない要素を検出することが出来ました。

ただ、両作品共は先述したようにバイオパンク的要素をふんだんに含んだ素晴らしい作品ですし、現にわしはバイオハザードに憧れて生物系の大学に入ったとんでもねぇ不届者です(笑)。あ、災害起こすつもりじゃないからやめてぶたないで。

こうして見てみると、「バイオ」という接頭語は新しい技術の有効利用というより、禁忌に触れるという認識が他のSFジャンルの接頭語に比べてより一層強いのかもしれません。

そりゃそうです。だってむやみにDNAを弄ったら生態系が崩れて食料の確保が難しくなるかもしれませんし、未知のウイルスを生み出してしまって直接我々に害を及ぼすかもしれません。それだけ「バイオ」という物は我々にとって身近なものであるが故に、我々に甚大な被害を及ぼす可能性のある危険な代物なのです。

なので人間は「バイオ」を「パンク(民主化)」する事を本能的に恐れているため、「バイオパンク」というジャンルがなかなか定着しないのかもしれません。

ただ、「バイオ」技術は遺伝子疾患や臓器移植などの面で医療現場に役立ちますし、「バイオ」を知る事は生態系を知るきっかけになり、環境保全にも繋がります。

iPS細胞やバイオコンピュータの研究が進み、2025年の大阪・関西万博が「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げている今、我々は今後正しく「バイオ」に向き合うためにも今のうちにシミュレーションしておくべきなのかもしれません。

個人的におすすめしたいバイオパンク作品

こんなに講釈垂れといてじゃあお前さんの思うバイオパンク作品って何なのよ?とそろそろツッコまれそうなので、わしのおすすめしているバイオパンク作品を以下でご共有させて頂きますね。

※以下、作品に言及するために多少のネタバレを含みます。

・螺旋じかけの海

#螺旋じかけの海

こちらの「螺旋じかけの海」はわしが「バイオパンクとはこれだ!」と直感した作品です。個人的にバイオパンクだと思っている要素が全部詰まっております。教科書にしたいくらいです。

この作品は遺伝子操作が産業として発達して人間であることの境界線が曖昧になった世界において、遺伝子操作を生業とする生体操作師、音喜多(おときた、通称オト)が幾多もの異種遺伝子を抱えた自身を実験体に試行錯誤しつつ、周囲の様々な事情を抱えた人々と関わっていくというストーリーなのですが、
・巨大組織が存在する
・バイオ技術が人々の暮らしの中に溶け込んでいる
という点でかなり王道なバイオパンク作品と言えるかと思います。

さらに、こちらを読み進めていくと人々が織り成すを物語を通して「生物とは何か?」と深く考えさせられていきます。

またね、この登場人物ひとりひとりに生命の儚さを感じて切ねぇんですわ。特にオトよ。何なんだあの繊細な表情と抱きしめたくなるような背中は。とりあえず泣けます。読めばいい。

惜しくも星雲賞受賞とはなりませんでしたが、
ノミネートされるとはすごい!!

余談ですが、以前コミティアで永田先生にお会いした際、わしのいつものイカつい普段着で行ってしまいました。永田先生怖がらせてしまったらホントごめんなさい。

※普段着です。

・JUNK HEAD

#JUNKHEAD

こちらの「JUNK HEAD」は長命になった代わりに生殖能力を失った人類が絶滅の危機から逃れるため、地下世界に住むかつて労働力として生み出された人工生命体「マリガン」の調査を行うというストーリーです。

この作品は地上の世界こそサイバーパンク的ですが、マリガン達が営む地下世界はバイオパンク的です。

地上の世界では窓に映し出された景色をチャンネルで変更し、ホログラムで映し出された料理を食べ、仮想空間上でダンスのレッスンを行うなどほとんどがバーチャルで成り立っています。

一方、地下世界は異形の姿のクリーチャーが襲いかかってきたり、「クノコ」と呼ばれる人間のクローン体から生えるキノコの様なものを食べたり、筋肉質な女性がバルブを回して機械を動かしたりと物質的な活動で世界が動いています。この対比もバイオパンク感を引き立てる要因の一つに感じます。

堀貴秀監督は操り人形を制作していた経験を活かして3DCGではなくあえてストップモーションアニメを選択したそうですが、(引用元)これがまた温かみがあって生っぽいモチーフとよく合うんですよねぇ。世界観もミニチュアで作ったとは思えないほど壮大です。

またキャラクターもひとりひとりに愛情が感じられて、グロテスクに見えがちな風貌でもしっかり可愛いです。可愛いとはこういうことなんだよ。

こちらの作品、なんとアマプラで見れますので皆様是非見てください!

JUNK HEAD(Amazon Prime)

そして!続編「JUNKWORLD」が来年2025年に公開されます!みんなで見に行こう!!


おわりに

いかがでしたでしょうか?バイオパンクは先駆者の方たちが築き上げてきたものですが、まだまだ伸び代があり、これから発展していくであろうジャンルです。今回バイオパンクについてあーだこーだしゃべらせて頂きましたが、飽くまで個人的な見解ですので議論の余地はいくらでもあります。

今後是非、お互いの意見を尊重し合いながらバイオパンクについて活発な議論が出来たらいいですね。

これを読んで頂き「バイオパンク」に興味をお持ちになりましたら、イベントやネット上でわたくし緑翔ヤモリがグッズを販売しておりますので、よろしければそちらもご覧になって下さいませ。

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最後までお付き合い頂きありがとうございました!


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緑翔ヤモリ
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