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錆戦日誌3・とある雀荘

霧的麻雀――悪鬼の部位と数字とが刻まれた牌を集め、決まった役を作り、他の参加者から点を奪う。そうして誰かの持ち点が尽きるまで繰り返す。歴史は無駄に長いらしく、このゲームの由来を知る者はいない。いや、今はそれどころではない。

「どういうつもりだって聞いてンだよ」

上家の男を洗面所に呼び出した。2局まではついていると思っていたが、3局で疑念に、今しがたの4局で確信した。

「お前、わざと振り込んでただろう。コンビ打ちだと思われたらどうしてくれンだ」

意図は全くわからないが、こいつは俺を勝たせようとしている。
髪を剃り上げたこの男――おそらく真紅系列の船外作業員だ。彼らは髪や髭が粉塵を吸着することを嫌う――とは初対面のはずで、見ず知らずの人間にこんなことをされる覚えもない。

「万が一出入り禁止にでもなったら、」
「あんたは人類の希望なんだ」

は?

「今日ここであんたが負けたら、世界が崩壊する」

は?

「あんたがどう思おうが関係ない。俺はあんたを勝たせるために、のべ400年のループを繰り返してきたんだ」
「お前正気か」

勝ち負け以前に、麻雀をやる気が完全に失せてしまった。今日はもう帰って寝よう。
坊主頭の男に背を向けて、洗面所を出ようとした時だった。

「打ち合わせは済んだかあ?」

下家の男が洗面所に入ってきた。俺たちがコンビ打ちをしているのではないかと疑っているようだ。

「知らねえよ。今日は気分が悪いから帰るわ」
「おいおい、勝ち逃げするつもりかあ? そうはさせねえぜ」

こいつはこいつで面倒だな。無視して帰ろうとしたが、下家の男は出入り口に立ちふさがった。

「邪魔だ。俺がどうしようがお前にゃ関係ねえだろう」
「いいや、ある。俺ァてめえを負かすために来たんだからなあ」

は?

「いや、違う。お前たちがグルなんだな。カネならないぞ」
「カネはどうでもいい、卓に戻れ。うんと言うまでここは通さんぞお」

強請や強盗の類ではないらしい。まさか、こいつら本気で、俺の勝ち負けに世界の命運がかかってるっていうのか?
坊主頭の男を振り返ると、そいつは自信たっぷりに頷いてみせた。

「安心しろ。俺は今日この日のために修練してきたんだ。あんたを絶対に勝たせるために」
「おお、つまり対面のてめえが今回の俺の敵かあ」

下家の男に喜色がにじむ。

「てめえは俺に勝てるかなあ? のべ4000年をかけて霧的麻雀を改変、浸透させたこの俺によお」


※:霧的麻雀の語句以外は捏造。

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