錆戦日誌14・とある商店
「あんたも財団への攻撃には行くのかい」
「まさか。未識別と、航路を狙ってくるジャンクテイマーの相手で手いっぱいだ」
「功名心とは無縁そうだもんな」
「そんなものがあったら、戦場から逃げて雀荘に入り浸ったりしてない」
違いない、と商店の親父は笑った。
「しかしあんたが傭兵とは。人に歴史ありってところだな」
「碌な仕事じゃないぞ。今も昔も、人を殺して金をもらってンだから」
「昔はどうか知らないが、今は強盗を追い払ってるみたいなもんだろう。ちょっとは胸を張っていいんじゃないか」
そう言って親父は、カウンター後ろの棚を振り返る。
「あんたがいなかったら、ここの商品のうちいくつかは並んでないんだ」
「それは言い過ぎだろう、復帰してまだひと月も経ってないぞ」
「感謝の言葉くらいは受け取っておきなよ」
「感謝の気持ちは態度だけで示すもんじゃないんだよな」
「バイオ枝豆の缶詰でいいか?」
「不良在庫!」
妙なエグみと伝承にある枝豆とは似ても似つかない見た目から、本当に好きなやつしか手に取らないと言われている翡翠系列企業の商品だ。枝豆がごわっとしたペールオレンジの見た目をしていますか? おかしいと思いませんかあなた。こういう物こそジャンクどもに食わせておけばいいんだ。それはそれとして、誠意は誠意だからありがたく受け取りはする。
「いつも助かってるよ、いや本当に」
「お互い様だ。傭兵になっても、羽振りがよくなる見通しは全くないから」
「いやいや、未来はわからんぞ」
「明日には海の藻屑になってる、って意味でな」
「夢も希望もないが、それも傭兵稼業の厳しさか。お得意様が減るのは困るなあ」
それからまた取り留めのない話に戻った。コンテナの流通、グレムリンの操縦、テイマーになるための最も手っ取り早い方法……。
「今なら財団だろうが、ちょっと前なら真紅か翡翠かだな。俺も食うに困っての真紅入りだったし」
「翡翠といえば、例の噂は本当なのかい。ほら、量産バイオ人間」
「ああ、防設とセットで運用しているって話を聞いたことがある。うなじの辺りに傷跡があったらバイオ人間だ、見た目には普通の人間と変わらないから気をつけような」
気をつけるも何もバイオ人間なんかいやしないんだが、震えあがる親父が愉快なのでもう少しからかってみよう。
「ほら、なんとかいう神様の祝福とか、そういうの? それが普通の人間より伝導率がいいらしくてさ」
「じゃあ、やっぱりあの時の客は……」
「えっ」
「三人組で、そのうちのひとりにはうなじに傷があったのを見たんだ。まさか、あれが……」
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