錆戦日誌2・とあるジャンクテイマー
食糧が底をついた。干しておいた虚空魚――脚が3本生えているが、頭と尾びれがあるから魚だ――にいよいよ手をつけなければならない。
「しかもよくわからないメカを買えだあ? 冗談じゃねえ」
アレッポだかハトポッポだか知らないが、突然やってきてセールストークを始めやがった。あのくたびれた印象の営業マン(※)は、どうやって俺を捕捉したんだか。
零力照射気嚢。鹵獲した未識別機動体からリバースエンジニアリングした代物で、零力からの悪影響を軽減するという。戦闘地域へ最低1機の配備を目指していて、所構わずグレムリンテイマーのいる場所へ営業をかけているとも。
「だからって俺のところへ来なくてもいいじゃねえか」
グレムリン曳航ボート(※)の小さな甲板で、虚空魚を炙る。そう、ボートだ。クレジットに余裕があったり、ちゃんとした後ろ盾があったりすれば、悪鬼巡洋艦に専属オペレーターがつく(※)。だがはぐれもののジャンクテイマーにとっては、ボートとグレムリンとの維持管理費、そして自分自身の食い扶持をまかなうので精いっぱいだ。
生まれは翡翠経典の船だった。父は戦死し、母は病死した。ここに救いはないと悟り、青花師団に身を寄せた。グレムリンの操縦技術を学んだのも、ジェイクたちと出会ったのもこの頃だった。己を救えるのは己だけだと実感していた。
「夢も希望もねえな、現実はよ」
ジェイク、カタリナ。全てが灰燼に帰した。そうして翡翠にも青花にも戻れず、真紅にも身を寄せずに、天からの恵みを口を開けて待っている。
その恵みが、振ってきた。
『同業者』から高値で買ったコンテナ・レーダー(※)が反応した。コンテナにのみ含まれる合金に反応するという話だったが、それが東から1個近づいてくる。これは三大の輸送船ではなく、単独行動中の傭兵、あるいは『同業者』だ。いや、たとえ輸送船であろうとも背に腹は代えられない。この機を逃せば、次の遭遇がいつになるかわからないからだ。
「恨むなら、この航路を選んだやつを恨むんだな」
錆びの浮き始めたグレムリン・スペリオールに火を入れる。首尾よくコンテナを手に入れたら、まずは食糧だ。それから弾薬。ボートのくたびれてきたエンジンもそろそろ交換してもいいかもしれない。
あるいは、コンテナを手土産に三大のどこかに身を寄せてもいいが。
「冗談じゃねえ」
俺はこの虚空の海で、罪を重ねるしかないのだ。
※:いずれも捏造設定。
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