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深宇宙より

「ああいうのは先生のご専門でしょう!」
「君にはあれが言葉の通じる相手に見えるのかね!」
 てらてらした金属質の表皮を持つ、巨大な芋虫のような、多脚のトカゲのような生物が犠牲者を頭からむさぼっている。
 ボイジャーのレコードを読んだ、というメッセージを人類が受け取ってから80年余り。これが地球外生命体とのファーストコンタクトになる。それは月面コロニーのドッキングハッチをこじ開けて侵入し、無差別攻撃を始めた。
「私にできることがあるとすれば、君を差し出して、その隙に逃げることくらいだ!」
「でしたら今すぐここを出て行ってください! 先生が化け物と交渉している間に、距離を稼がせてもらいますよ!」
 クソ狭い貨物運搬ドローン制御室で、いけ好かない宇宙生物学者のじいさんと言い争いをしている場合ではないのだ。まずセントラルへ連絡し、港湾部を隔離、場合によっては地球へ応援を要請しなければならない。
 制御室を含む港湾部を出る通路は、化け物を挟んだ側にある。火災か爆発でも起きればセントラルにも警報が届くはずだが、残念ながら貨物の山が崩れたり、作業員が食われたりした程度で済んでいる。
「何とかなりませんか先生、ご自慢の知識を生かす場面ですよ!」
「そうさな、あれは肉食性生物のようだ。さらに貨物コンテナやドローンには目もくれず我々人類を襲撃していることから考えるに、有機体を選んでいるとみるべきだろう」
 つまり食料のコンテナを開けることによって、その中身であいつの気を惹けるかもしれない、というわけだ。しかしキーボードやモニター、無数のスイッチがついたコンソールを前に、今なお飛び回るドローンを操るにはどうすればいいのかがわからない。横着して講習を先延ばしにしていたのが仇になった。
 連絡通路の扉が前触れなく開いた。現れたのは交代の作業員だろうか、化け物がそちらの方に血塗れの頭部を向ける。



【続く】

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