錆戦日誌5・とある取引
星の海。真紅連理所属駆逐艦、その船室のひとつで、額を横切る傷跡のある男が椅子に縛りつけられている。
船室の扉が開いて、灰色の服を着た一団がなだれ込んできた。
「お前の雇い主、タワー寄港中の真紅連理船舶に対し、自爆テロを企てた男が帰ってきた」
一団のうち、リーダー格らしい男が言った。
未識別機動体の中にグレムリンが含まれている――その情報はグレムリンテイマーのみならず、三大勢力の首脳部をも震撼させた。人類が雲霞の如く現れる未識別機動体を相手に持ち堪えていられたのは、グレムリンが一騎当千の働きをしているからだ。機能を模倣しただけとはいえ、それが敵として現れたら?
「あいつは海に還った。もはや俺とは無関係だ」
「我々はそう考えてはいない」
寛大な真紅連理はお前にふたつの選択肢を与えることにした、とリーダー格の男は続ける。
「大罪人を撃墜せしめるか、否かだ」
「選択肢って意味わかってるか」
「否であればお前をこのままグレムリンに乗せ、搭乗口を溶接し、漂着の海に捨てる」
選べ、と灰色の男はさらに迫る。傷の男はわずかな間だけ瞑目し、
「証拠がない。それは本当にあいつなのか」
灰色の男は口角をゆがめ、別の男に命じた。彼は小さな通信端末の画面を、傷のある男に見せる。映っているのは未識別グレムリンだった。
「防設からの砲撃を受けた対象は急激に加速。大気中の粉塵を取り込み、戦闘海域の通信を阻害した。ニアデスコフィンと呼ばれる操縦棺の機能だ」
画像をスライドさせる。機体からほとばしる電光が、海域に存在する全てをなめる。
「対象はエレクトロフィールドによる無差別攻撃の末に撃墜、反応エンジンによるものと思しき大爆発を起こして消滅した。あの時と同じ手口だ」
「待て。だったらなおさら」
「わからないのか。これはテイマーと紐づいたグレムリンではない」
画像をスライドさせる。同じグレムリンが映っている。
「3時間前、横道潮流の船から送られてきたものだ」
もう一度だけ言うが、と灰色の男は椅子に縛られた男に歩み寄る。
「今死ぬか、死ぬまで働くか。お前の希望を汲んでやろうというんだ」
耳元でささやく。
「それとも、また兄を撃つのは嫌か」
跳びかかる椅子をかわし、灰色の男は距離を取る。額に傷跡のある男は椅子とともに転がったまま、不自由な姿勢でもがいている。
「30分だけ待つ。お前の未来はお前が決めろ、傭兵」
※:年表にない事件を起こすの、TRPG的だなって。