『虫祭』 -斎藤別当実盛異伝-
『虫祭』というのは耳慣れないかと思いますが、『虫送り』ともよばれる、稲の害虫を追い払う儀式のことです。
殺虫剤が発達した現代からすると、今は廃れた風習……ではなく、現代でも、行われている地域があります。
虫祭の形式は以下の通り。
・藁人形と幟をもって田のあぜ道を練り歩く。
・太鼓に合わせて歌を歌う。
・馬の絵を描いた旗を田に刺す。
虫祭を終えた藁人形を、農家の小屋で見つけました。藁人形は斎藤別当実盛。幟は『悪霊退散』と、『五穀豊穣』です。
斎藤別当実盛は、平家物語で語られる平家方の武将です。
源氏との合戦で平家方が総崩れとなって逃げ惑う中、ただ一人残って敵と戦い、討ち死してしまいます。
平家物語に記述がありませんが、討たれた原因が乗馬の足が稲に引っかかって落馬したとの伝承から、実盛の霊が稲を食べる虫となった……という民間信仰が虫祭の起源です。
そういえば、実方中将はスズメ、頼豪阿舎利はネズミ……とういうように、遺恨を残して亡くなると群れを成す小さな生物に生まれ変わるケースが結構多いですね。
ちなみに、平家物語での実盛は討ち死覚悟で戦をしており、稲穂につまずいたからといって、稲に八つ当たりするような武将ではありません。
虫祭がおわり、役目を終えた実盛が、「不作をおれのせいにすんなよ」とぼやいているように見えました。
いや、まったくその通りで……。