足穂と獏と
イマジレイン
二十年前のことです。久し振りに稲垣足穂の本を読んだら、大いに感覚を掻き立てられ、日々はシュールに泡立って……ある夜、夢に獏が現れました。
それから毎夜夢の洪水に襲われ、その記録を『夢線通信』というタイトルの下に書き続けました。記録は一月から五月まで。その間、初めての童話を書いたり、絵本を作ったり、「寝食を忘れる」という言葉は本当なんだなあと体験もしたのでした。
イメージが次々に湧いて、ペンが追っ付かない状態、「イマジレイン」が降ってきたなどと造語して喜んでいたのは初めのうち。右向けば何かが目に入って物語が立ち上がり、左向けば別の風景が蠢き出そうとし、目を瞑ればまた誰かが囁き出す始末。あげくにはイメージで窒息する作家の話まで思いつき……。
もっともこんな贅沢な時期は長くありません。ものかきは、ある時もののけになっても、やがて霧が晴れるように、つきものが落ちるように、尋常の世界に戻ります。このあと二度とイマジレインに降られることはなく、創作三昧に明け暮れることも叶いませんでした。
★
(付記)
六角文庫の電子本には、この時期に書いたものが幾つかあります。
『ばくの木』
『サックスマン』
『満月祭』
『笑う森』
『りんご上人』
『月へのぼったピアニスト』*
『カンムリカイツブリ』*
『与呂見村ロシナンテ』
『あめんぼ老人』
『夢線通信』
『夢の生活誌』
最初の5冊はAmazonから配信しています。(著者ページからご覧になって下さい。またiBooks Storeにも置いてあります。)
*印の2冊は六角文庫のサイトの立ち読み書架に並んでいます。
『満月祭』と『夢の生活誌』は、このnoteでも販売しています。
あとの作品も以前にエキスパンドブック(.ebk)やT-Timeの本(.ttz)として発行していたのですが、いまは読めなくなってしまい、まだ新しいフォーマットの電子本(.epub)になっていません。
『夢線通信』もその一つで、近いうちになんとか復刊したいと考えています。
*
『無線通信』はこの後電子本として復刻しました。
『夢の生活誌』は『Sweet Dreams』と改題、
共にAmazonから配信しています。