かしわ記念レポ
超前残り!田んぼと化した船橋
5/1(水)
第36回かしわ記念当日の船橋競馬場は雨に見舞われていた。
午前中、大学に向かうバスの中ではまだ曇り空だったのを覚えているが、昼食を食べて大学を後にする頃にはすっかり雨模様になっていた。
船橋競馬場についた時も小雨以上土砂降り未満の雨がさーさーと降り続いていて、傘や合羽の人たちがパドックや直線前に並んでいた一方、スタンドの建物の中には平日だというのに多くの人が詰めかけていた。
馬場の表記は2Rからずっと不良馬場だ。
はじめの2、3Rはカメラを出すのが億劫で撮らなかった。
2R(1200m)の勝ち馬は逃げた1番人気クリノファルコン(笹川)。JRAから金沢、船橋と移籍して船橋では5戦目で初勝利。以前に撮っていて記憶にあった馬だからうれしい。長かったがこれからも頑張ってほしい。
3R(1200m)の勝ち馬は好位の3,4番手から押し切った1番人気グッドマン。
そして4R(1500m)の段になって一眼を取り出し、ビニール袋をかけて撮影の準備。
逃げた7番人気ラニーズグレイス(澤田)と番手につけた1番人気モンレアーレ(笹川)が後続を6馬身離す大接戦を演じ、モンレアーレがわずかにハナ差差し切った。
雨のレースもなかなか味があって楽しいが、かなり注意しないとカメラが濡れるし、なぜかシャツ1枚で来てしまったので合羽を着ていても寒い。
それはともかく、ここまでレースを見ればいやでも分かるのは、明確な前残り、ということだ。
まあ不良のダートが前残りなんて当たり前すぎて今更太字にすることでもないが。
写真から分かる通り、もうダートが砂じゃなくて泥になっている。どっからどう見てもタフな馬場だ。
そして第5R(1200m)は、2番手でレースを進めた1番人気スミダカチドキ(野畑)が、2着に3馬身の差を付けて完勝した。
勝った野畑凌騎手はデビュー3年目にして通算200勝を上げる期待のルーキーで、2004年生まれの同い年だ。これからもガンガン勝って活躍してほしい。
ちなみに後ろに写る真っ赤な勝負服の山崎誠司騎手は、地方騎手には珍しく身体を大きく上下させないコンパクトなアメリカンスタイルで鋭い騎乗をしてくるので割と好きなジョッキーだ。今回は4番人気のオダマキを3着に残した。
6Rの前後でスタンド内のお店を物色し、600円の醤油唐揚げを買った
めちゃくちゃ美味かったのでおすすめだ。他にも明太マヨポテトとか酒のつまみになりそうなメニューが多かった。
この日はあまり馬券を買うつもりではなかったが、7R(1200m)で7番人気のオーソレリカ(福原)の単複を買い、複勝520円を儲けさせてもらった。1,2着とは離されたが泥を被らない立ち回りで好走してくれた。ありがとう。
8,9,10Rに関しては、これ以上書いてるとキリがないし自分が飽きそうなので割愛させていただく。かしわ記念の中でも少し触れる予定だから許してほしい。
その後のレースも含め、だいたい4コーナーで前にいた3,4頭で決着が決まるという展開だった。やはり直線での差しは厳しい一方、道中で中団から捲って上がるのはそこそこ決まる印象だ。
かしわ記念の話をしよう
1300文字書いてようやくメインレースに辿り着いた。これでも情報は最低限にしているし、入場者プレゼントでポロシャツを当てた話なども省略しているのだけれど…。
ともかく本題に入ろう。
JpnⅠ(ジーワン)かしわ記念だ。今年はJRA勢6頭、地方勢7頭の13頭立てで行われた。
1番人気はJBCクラシック覇者のキングズソード、2番人気は東海Sを逃げ切ったウィリアムバローズ、3番人気は波乱のフェブラリーSを制したペプチドナイルで人気を分け合い、以下はクラウンプライド、タガノビューティー、シャマル、ミックファイア、ギガキングと続いた。
俺の本命は最初から3頭に決まっていた。
◎タガノビューティー
◎シャマル
◎ミックファイア
丸が3つ。実に美しい。
上位人気を無視してこの3頭に固めたのは単に推し馬だからというのもある。ビューティーは推しの石橋脩騎手とずっとコンビを組んでダート戦線で戦っている馬だし、シャマルは3歳から目を付け、2年前東進の自習室で見た南部杯(3着)から絶対ジーワンを取れると思い応援してきた馬だ。ミックは初めて行った大井でJDDを勝ち、最後の南関東三冠馬となった馬だ、推すに決まっている。
それはそうと、3頭を本命というまじめな理由もあった。
雨予報なためタフな馬場になることはあらかじめ分かっていたし、上位人気で道悪の実績があるのはウィリアムバローズくらいだったため、コースや馬場に一日の長がある3頭は勝負になると見ていた。
ちなみに、紹介した順序は一応期待度の大きさ順になっている。全員本命だし勝ってほしいけど、一番可能性ありそうなのはビューティーかな、という感じ。シャマルはベスト距離は1400mだし、ミックは復調の兆しこそあったものの万全ではなく、出遅れの恐れもあった。
そんなわけで購入した馬券は全部で5枚。計2500円。
単勝 タガノビューティー 石橋脩 500円
シャマル 川須栄彦 500円
ミックファイア 吉原寛人 500円
ワイド シャマル・タガノビューティー 500円
シャマル・ウィリアムバローズ 500円
おそらく逃げるのはシャマルかウィリアムバローズで、タガノビューティーは後ろから。先行する人気馬がどういう動きをするか考えての買い目だ。
この馬場ならシャマルが1番安定すると見てワイドの軸に決めた。また重馬場で東海Sを買ったウィリアムバローズも3着以内はあると見て馬券を買った。ごめん、ミック。
馬場入場!侵される一眼レフ
いよいよ11Rかしわ記念の時間。
俺は8Rからスタンド最前列に位置どっていた。雨とは言えどジーワンは人が多いので、早めに場所を確保しておかないと近くで写真を撮れない。手は悴んで感覚も胡乱だが、これから推したちの晴れ舞台を取れると思えば些事に過ぎなかった。
ビジョンの向こうで続々とジョッキーたちが馬に跨り、こちらへと向かってくる。
真っ先に馬場入りしてきたのは12番のリュードマン。中央で2勝したあと船橋に移籍し、未だ勝利をあげられていない。勝ち目の薄いブービー13番人気ではあるが、出ている以上可能性はあるし、出走馬には敬意を払うべきだ。
そうしてレンズを彼に向けると、異変が起こった。
バシャバシャバシャバシャ、と勝手にカメラのシャッターが切られていく。
シャッターボタンに触れてもいないのに、だ。
どのボタンを押してもシャッターが止まらないので、電源を落としてみたら静かになった。慌ててスマホで調べてみると、低温と湿気で内部のセンサーがバグったらしい。時間を置けば治るらしいが、この雨の中では治しようがない。
一応ピントは合うし写真は撮れているようなので、腹を括ってこれで頑張るしかない。
どうしてこんなことに…🥲
泣きそうになりながら各馬を見送っていると、黄色と青の格子模様に赤の腕──シャマルの勝負服が視界に入った。
トラブルのせいでほとんどの馬は撮れなかったが、シャマルだけはカメラに収めねば。なぜかそう確信してシャマルと川須騎手に視線を向けた。
そこに写る人馬は、前々走の根岸Sで見た彼らと別人のような風格がある気がした。
結局、まともに撮れたのはこの3頭くらいだった。ペプチドやキングズも撮りたかったのだが…こればっかりは仕方がない。
発走!そして1コーナーへ
時刻は夜8時過ぎ。
発走の赤いランプが灯り、まもなくゲートが開いた。
ミックファイアはここでよそ見をして出遅れてしまう。
厳しいって。この前残りの馬場で出遅れは。
ポンと出て前で競馬ができれば、おそらくまともに勝ち負けできていただろう。2歳の内から、不良の大井で逃げて38.4で上がれる馬だ。もちろんそのレースとは展開も相手も違うが、クラウンプライドのような位置でその脚が使えれば前に届いてもおかしくない。
先頭の話に移ろう。
まず最初に飛び出したのは青い帽子、シャマルだった。
川須騎手が手綱をしごいてあっという間にハナに立つ一方、もう1頭の逃げ候補と見込んでいたウィリアムバローズは行き脚が付かずに控えた位置にいた。
前走を逃げ切った2頭だが、両者の逃げは全く違う条件だった。
シャマルの逃げた黒船賞(1400m)の前半3Fは12.9- 11.2- 12.7。高知の深い砂かつ不良馬場でのタイム。
一方東海S(1800m)は12.2- 11.8- 12.5。これは前半バビットが逃げて作ったタイムで、ウィリアムバローズは1馬身以上後ろでこれに着けていた。
つまり根本的にテンの脚が違う。
前回は展開的に逃げただけで、瑠星騎手も今回はシャマルに行かせるプランだったのだろう。道悪実績があったとはいえここまでの不良馬場は合わなかったというのもある。
それと4番のオメガレインボーの行き脚がだいぶ良く、締められる形になったのも大きい。これもシャマルには1枚落ちるとはいえ、1400の重賞でハナを切れる馬だ。
ここでひとつアクシデントが起こる。
シャマルの斜め後ろに付けようとした黄クラウンプライドに、橙ペプチドナイルが突っ込んできた。クラウンプライドとしては泥がかかる真後ろには行きたくないし、内で閉じ込められるのも当然よろしくないので対抗しに外に張るのだが、ここで躓いてしまい、ポジションを下げざるを得なくなった。
すると当然、後ろのオメガレインボーやウィリアムバローズも位置を下げざるを得ない。
止まらないシャマル
今回のレースを一言でまとめるなら、この一言で済んでしまう。終始シャマルが止まらなかった。
ここで着順と道中の位置を見てみる
1着 シャマル 1-1-1-1
2着 タガノビューティー 9-9-6-5
3着 ペプチドナイル 2-2-2-2
4着 キングズソード 3-3-3-3
5着 ミックファイア 8-8-9-6
そしてシャマルの刻んだラップタイムは以下の通り。
12.0- 11.6- 12.0- 12.2- 12.1- 12.4- 13.1- 13.6
35.6- 39.1の前傾ラップだ。
最後1Fは完全に脚が上がっている。
ここで同じ日の船橋1600m戦のタイムと比較してみよう。参考までに、同じ船橋の不良馬場で行われた、2013年のマリーンカップのタイムも並べる。
9R A2B1一
12.4- 12.5- 12.5- 12.6- 12.6- 12.6- 13.1- 13.3- 1:41:6
13年マリーンカップ
12.1- 11.3- 11.9- 12.5- 12.4- 12.8- 13.3- 13.6- 1:39.9
かしわ記念
12.0- 11.6- 12.0- 12.2- 12.1- 12.4- 13.1- 13.6- 1:39:0
200mのラップが12:5を切ったところを太字にしてみた。
13年マリーンカップは今回と似た前傾ラップだが、途中でラップが緩む部分がある一方、かしわ記念は1200mまで持続的に速かったことが分かる。
こうなってくると前に付いていったペプチドナイルとキングズソードは厳しい。ペプチドナイルは前走歴史的ハイペースになったフェブラリーSを先行して押し切っている馬だが、慣れない馬場でこのペースをぴったり2番手で押し切るだけの力はなかった。
当然シャマル自身にも楽じゃない内容だが、先頭で泥を被らず最短距離を回ってこれる利点と、高知の不良馬場をものともしない適性がある分有利なペースではあった。
1200mをこのラップで回ってきた時点でシャマルの勝ちは決まったようなものだ。
そしてこれだけ緩みがないラップだと後続も苦しい。ポジションを上げようとするとラップ以上の速度で走る必要がある。そうするとラストで使える脚がなくなる一方、控えたままでは前残りの馬場で前を捉えられない。
しかし、ここで動いた馬が2頭いる。
ミックファイアとタガノビューティーだ。
ミックは出遅れてから中団に付けるのに少なからず脚を使っているが、向正面で吉原騎手がムチを入れて進出していった。
一か八かでも早めに動かなければチャンスは無いという判断だろう。
一方、後方3,4番手で落ち着いて進んでいたタガノビューティーの石橋騎手(バシシュー)は上がっていくミックを見る形で内からポジションを上げて行った。直線だけの競馬でも途中からのロングスパートでもいい脚を使えるのがこの馬のいい所。長くコンビを組んでいるバシシューだからできた判断だ。
そして3,4コーナーに入ってきてキングズソードのモレイラ騎手の手が動き始める。ビジョンでそれを見ていた俺は、「これはシャマル逃げ切れるぞ」とこぶしを握った。
ペプチドナイルも手応えはありそうになく、そこからはひたすらシャマルに、シャッターを切り続けるカメラを向けた。
もちろんゴール前は号泣しながら撮っていたし、ピントもブレブレである。
3歳の頃から目を付けていたし、2年前の南部杯ではカフェファラオに食らいついて3着になり、「この馬は絶対ジーワンを獲れる」と東進の自習室で確信した。
しかし去年は乗り変わりがあって、かしわ記念4着後は競争中止と競争除外が続いた。ピークの時期が走ることすらできずに過ぎてしまい、もう厳しいのかと思っていた。
しかし、今年になって手綱が川須騎手に戻り、黒船賞で1年ぶりの勝利をあげた時は本当に驚いたし、結果を見ただけで涙が溢れてきた。
今度こそ、今度こそ川須騎手とジーワンを。
そう思って、予報が雨でも大学があっても船橋競馬場に足を向けた。
博物館展示論のTeamsも場内でちゃんと出席した。
そうした日々を経て、目の前をシャマルと川須騎手が先頭で駆けていくのは最高の気分だった。
川須栄彦騎手は昨年5勝。今年は中央では未だ2勝と、決してトップジョッキーとは言えない成績だ。
それでもシャマルに新馬戦から乗り続け、毎日の調教にも跨るようになった。
そうしてどのトップジョッキーよりもシャマルのことを知り尽くし、最高の結果を掴み取った。
シャマルの背にふさわしいのは、間違いなく川須栄彦ただ一人だと、誰もが認めるだろう。
次に挑むのはおそらく、今年からジーワンに昇格した さきたま杯(浦和1400m)。シャマルの得意距離で再び最高のパフォーマンスを見せてくれると確信している。
余談とレース後の表情
改めて着順と道中の位置を見てみる
1着 シャマル 1-1-1-1
2着 タガノビューティー 9-9-6-5
3着 ペプチドナイル 2-2-2-2
4着 キングズソード 3-3-3-3
5着 ミックファイア 8-8-9-6
だいたい前にいる3,4頭で決着すると冒頭に書いたのに、9番手、4コーナー5番手で2着に食い込んでいる馬がいる。
馬場傾向をひっくり返してこれだけの走りを見せたタガノビューティーは間違いなく強いし、バシシューは最高の騎乗をしている。
最高の走りをしてもいつも前に1頭いるのがこの人馬らしさだ。
前走フェブラリーS4着の後は「石橋じゃなければもっと上の着順だった」とか「いい加減鞍上を変えろ」みたいな意見も散見されたが、今日の騎乗はビューティーを知り尽くしたバシシューでなきゃできない騎乗。
とはいえ結果だけ見ればいつ乗り替わりになってもおかしくないし、早くタイトルを掴んで欲しいんだけどな。絶好の条件だったここ2戦を落としたのは大きい。賞金的に南部杯は出れるのかな。
一番人気だったキングズソードは、不良馬場とシャマルの厳しいペースに削られたことに加え、やはりコーナーが上手くなかった。
ペプチドナイルのすぐ後ろに付けていたのに大きく外を回している。
しかも直線を向いてからも口が外を向いているのが分かるだろうか。
前走チャンピオンズカップでもこういう傾向があったし、根本的に左回りが向いていない。かといって右回りのダートG1は軒並み2000m近くでキングズソードにとっては少し長い。次走は帝王賞だろうけれど、JBCのようなパフォーマンスが出せるだろうか。
適距離のマイルだと国内もサウジもドバイも軒並み右回りなのが悩ましい。今後の買い時も難しそう。
順番は前後したが3着ペプチドナイルについて。途中でも書いたが、今回は慣れない地方の不良馬場と、シャマルにぴったり付けたことが敗因だろう。馬場の有利はあったし、後ろから抜かせる馬が(タガノビューティー以外)いなかったからの3着、という印象。
とはいってもG1馬としての走りは見せたと思うし、秋の南部杯で人気を落とすなら狙い目かもしれない。
5着ミックファイアは本当によくやっている。前半でも書いたがまともにゲートを出てロスが少なければ馬券圏内もあり得たように思う。
伊達に昨年のJDDでJRA勢を下して三冠を取った馬じゃない。
輸送で痩せてしまったりメンタルの難しい馬だが、久しぶりの掲示板入りで希望は見えたように思う。キングズソード同様距離は長いが、ホームの帝王賞で再び戴冠を目指すか、輸送を克服できれば秋には南部杯やチャンピオンズカップでも期待をかけたい。
6着ウィリアムバローズは1コーナーまでが全てだったかな。タフな不良馬場で最内枠、しかも外にテンの速い馬が何頭もいた。1600mも彼にとっては忙しそうだったし、帝王賞に出てきてたら面白い。
12着クラウンプライドは、初めての不良馬場とアクシデントで走る気をなくしていそう。今回でメンタルをやられてなければいいが。
ちなみに馬券の収支だが、
単勝 シャマル 500円―11.7倍→5850円
ワイド タガノ・シャマル 500円―10.9倍→5450円
で計11300円ということになった。
やはり推しを信じて馬券を買うのが一番いいと再確認させられた。
ちなみに、雨に侵されてバグったカメラだが、当日は家に帰っても治らず、翌日やっと復調した。
今後は雨や気温の低い日にはカメラを持って行かないと誓いたい。
そんなわけで、長年の推しがジーワンを勝って財布も分厚くなり、最高の気分で帰宅したのだった。
思ったよりレースが淀みない展開で書くことが少なかったが、少しでもレースの面白みが伝わっていたらいいなと思う所存。
参考資料
かしわ記念競走成績