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6年前の今頃、就活生だった私の話

世間はGWらしい。長い人は10連休だとか。

連休だとかボーナスという言葉を聞くと
サラリーマンになればよかったと思うことがたまにある。

就活で東京へ行った日のことを思い出した。
2泊3日で面接などのために東京へ向かった21歳の春。
希望の出版社での面接だった。

緊張と期待と私服が入った大きなリュックを背負い、
夜行バスに乗り込んだ。
片道2800円のただの観光バス。
体を小さく丸めて眠り、
起きた頃には東京についていた。

早朝の駅構内でリクルートスーツに着替えて
ナチュラルメイクをし、髪の毛をくくる。
どこにでもいるただの就活生の出来上がりだ。

鏡の中の自分が他人に見えて、
なんだか気持ち悪いな。
とか思いつつもこれでいいと自己暗示。

ルノアールに入り朝食を食べながら、
面接対策と書かれた紙切れに目を通す。


時間になり会場へ向かうと、同じような格好の人物たち。
受付を済ませると集団面接ということもあり、
各部屋に5名ずつ振り分けられた。

目が合うと簡単に自己紹介する人もいれば、
ひたすら食い入るように面接対策の紙を見つめる人、
ぼーっと景色を眺める人、いろんな人がいた。

番号を呼ばれ5人で別室へ向かう。
3人面接官がいた。

着席するなり中心に座る女の面接官が、
こちらを睨むような目つきで頬杖をつきながら
あぁーあ、と声を出して大欠伸をした。

私はまるで蛇に睨まれた蛙。
ここからの記憶がない。

ただ、あんな態度の面接官に向かって
御社のために!御社のために!
と、笑顔を振りまく他の受験者たちが恐ろしく奇妙で、
その瞬間これが社会ならば私は無理かもしれないと悟ってしまった。

ホテルに帰ったら
すぐにリクルートスーツを脱ぎ捨て、
私服に着替え、髪を解く。
スーツの下に仕込んでいたタトゥー(シール)が露わになる。
あと2件あった説明会や面接はドタキャンしてしまった。

しばらく拗ねたかったので、
ジトっと湿度の高そうなカフェを選んで入った。

そこにいた両腕タトゥーでびっしり髭でロン毛の店員さんに
「それとっても綺麗ですね。どこで入れたんですか?」
と聞かれてフリーズする。

シールだなんて恥ずかしくて言えない、
でも入れてないしスタジオも知らない。
と2秒くらい考えたのちに
「シールなんです〜!」と答えた。
「へー!最近のシールってクオリティ高いっすね!」と言われて呆気に取られた。
鼻で笑われるだなんて思ってごめんなさい。

あの面接官よりこの店員さんの方がよっぽど素敵な人間じゃないか。

そうしてすっかり機嫌を直し、
本を読んだりおやつを食べたりだらだら過ごしてお店を後にした。


夕方くらいに高円寺へ向かって辺りを散策。
2人組のお兄さんと2回すれ違う。
夜になりお店が閉まり始めた頃、
またお兄さんたちと出会った。

向こうも覚えていたみたいで目が合い、
「よかったら飲みに行かない?」と誘われた。

絶対着いて行ったらダメなやつ。
と思いながら好奇心で着いていくことに。

近くの屋台みたいな居酒屋でいろんなことを話した。(26歳のクリエーターってことと一人が山田孝之に似ていることしか覚えていない。)

21歳女子大生はとって食われる覚悟で着いて行ったのに、
少しのアルコールで顔を真っ赤にする私に
すぐお水をそそいで残りを飲んでくれたり、
帰りの電車を調べて乗り換えの案内までしてくれた上に、
それでも間違えてもいいようにと、
終電の3本前には送ってくれた。
(私はなぜか過保護にされることが多い。)

改札の前で「これお土産。」
と近くのパン屋のロゴが入った紙袋を持たせてくれた。
りんごとシナモンのベーグルだった。

ますます大人になることや社会がわからなくなったが、
スーツを着るのは向いていないかもと思った夜だった。


翌朝少し硬くなったベーグルを食べて、
昨日の出来事が本物だったことを確認する。

鏡に映った私は私服で、
リュックの中にはリクルートスーツと、
不安と焦りが詰まっていた。

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