哀しみ、不安、そして恐怖再び。2024アメリカ大統領選挙
アメリカに来て約9年、うちニューヨークに住んで約7年。2024アメリカ大統領選挙に関し、自分の正直な雑感だけを書く。エビデンスなどはないのでご容赦を。
まず、息をするたびに嘘やデマを口にし、人種差別や女性蔑視、他人への誹謗中傷を繰り返す低俗きわまりない人物を国の統治者としてアメリカ国民が選んだ、という事実に心底打ちのめされている。哀しい。自分がアメリカに勝手な幻想を抱いていたことを痛感する。
同時に、政治家や国のトップとなる人間は尊敬される人格者たるべき、と疑うことなく信じきっていた自分の価値観と、皆がそう考えているのではないという当然の事実に、今更ながら気づいた。
今後世界がどうなってしまうのか考えると、不安でたまらなくなる。彼の言動を見聞きするたびに、何をどうしたら彼が大統領として適任と思えるのか、私には到底理解できない。完全なる分断。しかし、彼に投票した人たちは、私が彼に抱く不信感とさほど変わらない思いが、カマラ・ハリスや民主党の主張に対してあるのだろう。
そして、アジア人かつ女性で子連れという、アメリカのカーストで最下層・最弱クラスターに属する私にとっては、再び恐怖の日々が始まる。
2016年にトランプが初当選するまでは、各自が胸に抱く人種差別意識を人前で露わにするのは、自分の人格を疑われるので控えたほうがよい、という躊躇や遠慮が社会全体としてあったように思うが、彼が当選したことで、なーんだやっぱみんな思ってたよね?!大統領が公に言ってることなんだから俺たちも本心言っちゃって(やっちゃって)良くね?みたいな空気感が漂い始め、2020年のパンデミックで、大統領自らが繰り返すチャイニーズヴァイルス呼ばわりにより、それは決定的、かつ、あたかも正当化されたかのようなものになったと感じる。いくら私が日本人でも、アメリカでは完全にチャイニーズ枠であり、チャイニーズの抱えるリスクはそのままアジア人のリスクなのである。
道を歩いていて、いつ言いがかりをつけられ暴力を振るわれてもおかしくないという状況は、バイデン大統領時代になり現在に至っても、落ち着いた実感はない。通り魔事件はコンスタントに発生しているし、今年も、友人がニューヨークの地下鉄ですれ違い様に見知らぬ男にいきなり殴られたことがあった。
私は幸いにしてこれまで切迫した身の危険を感じたことはないが、生活のさまざまな局面で、男女問わず相手から舐められているのかも、と引っかかることはときおりある。今後はその頻度が増えると覚悟しておくほうがよさそうだ。
トランプ氏はundocumented の移民がアメリカ国民の生活を苦しくしている敵であり、彼らのみ強制送還するなどと言っているようであるが、人種差別主義者が実際に我々に対し何かしらの嫌がらせや犯罪行為に及ぶとして、私や子どもの出自や、undocumented の移民かを事前にわざわざご確認くださるわけがない。不特定多数の人が行き交う場に外出する際には、今後、必ず前後左右つねにアンテナを張り巡らせて警戒しなければならない。今までよりもっと、数段階レベルを上げて。日本の実家で誰もいない住宅街の路地をぼんやり歩いている時に比べると、当社比1.5-2倍の心拍数になりそうだ。顔も険しくなるだろうし、皺が増えるのも確実である(加齢に伴い加速度的に)。
私がさらに暗い気持ちになるのが、在米か否かを問わず、日本人で彼を熱烈に支持する人が相当数、存在することである。彼は日本は大事な同盟国だとか口先では言いながら、戦勝国として下にしか見ていないし、アメリカにいる日本人ひいてはアジア系移民を本気でリスペクトしたことなぞ、過去一度たりともないであろう(少なくとも私は記憶にない)。目的は、もっと日本にお金を払わせることだけだ。
明らかに自分たちを見下している人間をなぜ支持できるのか、理解に苦しむ。本気で気付いていないのか、自分はほかのアジア人と違うから大丈夫と信じているのか。トランプ支持の日本人のウェブページを少し覗いてみると、ロシア―ウクライナ戦争を終結させる、中国製品に対する高い関税、不法移民シャットアウトと強制送還、経済立て直し等さまざまな変化に期待しているらしいが、おしなべてそういう所で囁かれる(そしてトランプが最後の砦として対峙し戦ってくれると本気で信じている)、いまこの世を牛耳る「魔の手」「影の力」「闇の世界」ってなんなのだろう。ちょっと自分でググりたくはないので(自動候補でゾロゾロそういう類の動画が上がってくるようになるのは勘弁)、検索しなくてもわかる程度に説明してほしい。
来年1月からの4年間、彼が民主主義と法治国家のデュープロセスを無視して無双状態を目指すのは明らか(就任初日から大量の大統領令発出→各州で差止請求訴訟提起→行政官庁の実務ストップ、日本人的にはまずビザ関係手続の大幅遅延で出入国に支障が出そう)。前回当選時よりもイエスマンが周りを固めている模様だし、最高裁も完全に彼寄りで、防波堤のなさには不安しかない。
マスク氏は、自分が実現したい世界を創造するための規制緩和で懐柔しやすいのがハリスよりトランプ、と判断したにすぎず、4年間を通してまともな盟友関係を続けるのは難しかろうと個人的には推測しているが(政治にすぐ飽きそう)、公僕たる政府高官の立場から、彼の経営する会社の雇用を増やして雇用統計の数字を支え、テスラ車をさらに短時間充電で長距離走行可能にし、価格も下げて、地球温暖化対策の大きな後退を埋め合わせてほしい。
投票日深夜からは、開票速報を見るたびに気が滅入るので兎にも角にも現実逃避の必要に迫られ、ほっこりする文章を読もう!と、カンタさんの過去の子育て奮闘noteを一通り拝読した。
https://note.com/qantasmz/n/nf7ef275797a8
結局、翌朝にかけて睡眠も家事も覚束なかったが、投票日翌日は事前から申し込んでいた料理教室があったので出かけ、ステーキの美味しい焼き方を教わった。美しく焼き上がったステーキと美味しい赤ワインで初の女性大統領誕生の祝杯!となるはずが、ヤケ酒の雰囲気になりつつ、素敵な参加者の方々が揃って自分と同様の思いでおられ、お互いの気持ちを共有したり吐き出し合えたことで、ずいぶん心が晴れた。参加して本当に良かった。
なおトップの画像はガイドブックでもよく目にするBrooklyn Farmacy & Soda Fountainのブラウニーサンデー。生クリームで汚れたスプーンが添えられて出てきた。これぞアメリカ!的、まったく遠慮のない甘さで、バニラアイスが口直しの役割。温かい日だったので脱いだ上着を置き忘れたまま店を出て歩いていたら、店員さんが走って追いかけてきてくれた。心無い人に傷つくこともあるけど、必ず助けてくれる人もいる国で、私は好きです。
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