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思い立って資格を取るまでのお話(2)

取りたい資格のこと

長年諦めてきたもの

 何をきっかけにして、それを調べたのか。このnoteを書き始めた2022年6月の時点で1年とちょっとしか経っていないのに、私は何を思ってパソコンのキーを叩いたかを思い出せない。とりあえず、人の名前が顔は浮かんでいるのに思い出しにくくなってきたり、ちょっとしたことで疲れやすくなってきたりしているのは否定しないけれど、自分のこれまでを左右するできごとにも関わらず、そのきっかけとなったできごとを、私はほぼ覚えていない。
 ただひとつ、2021年4月20日。検索ワードに「保育士」と入力したことだけは覚えている。何の前触れもなく突然やってきたこの瞬間がなかったら、今の私はいない。
 
 保育士が、私が取りたいと思った資格であり、長年夢止まりで諦め続けてきた資格。

 以前からあこがれていた職業ではあった。
 小さい子どもが大好き。過去に数年だけ、いわゆる認可外保育所で働いたことがある。認可外保育所には規定として「全職員の1/3が有資格者であること」とあるようで、私は保育を担当はできても保育士と名乗ることはできない(★)立場で週に3日、1日あたり3~4時間勤務していた。10年以上前のことだ。
 幼稚園入園前のお子さんや幼稚園児(幼稚園が終わってから保護者の方がお迎えに来るまで)を受け入れている小規模な場所。その小規模な中でも、本当に多様な人がいるのだと学んだ数年間。働き始めたころは彼氏の「か」の字もなく、子どもももちろんおらずの私が、オムツ換えや着替えなど、日常的な世話の部分を体験できたことは本当に貴重だったと思う。
 もうひとつ、今思うと恥ずかしい経験もたくさんした。当時の私は何でも気合で何とかなる! と思っていた厄介なヤツ。相手が発達障害が疑われる人であっても、「相手の気もちを受け止めていさえすればいいんだ!」と突っ走り、結果こじらせる名人。
 こんな私を、当時の園長は本当に辛抱強く雇っていてくれたと今でも感謝しかない。
 
 一応、私は大学で教員を目指していた。その過程で発達心理学や教育学について少しはかじったつもり(途中で情熱が失せて最終的には免許取得のみで終わっている)。けれど実際に子どもと接してみる中で、自分が本当に無知なままでいいのかと思うようになった。何ごとも体験! 実践第一! 理論は体験があれば必要ない! という曲がった主義の私が、働くうえでしっかり理論理屈を学びたいと思った。これが、私の保育士に対する興味の最初のきっかけ。もうひとつ、学ぶ延長で資格を取れば、この仕事先で「全職員の1/3以上が有資格者であること」の制約に引っかからなくなり、シフト作成者の手間を少し軽減できるかもしれない。
 ただ、このときも私の無知ぶりが勝る。保育士資格を得るには、何らかの学校に通う必要があるのだろうとしか考えていなかった。大学か短大、専門学校に通うとして、問題は4年あるいは2年遠回りすることよりも、その費用。
 学生時代、親に車の免許を取りたいと言ったところ、
「自分でしたいことへのお金は自分で」
と、正式に援助の言葉を口にする前に断られた経験がある。このときも、自動車学校入校から免許取得の各費用まで、アルバイト代を貯めてすべて自分で支払った。援助してほしいときに援助してくれなかった(という思いがある)親が、大卒の私の学費をもう一度出してくれるとは到底思えない。きょうだい3人のうち、やっと1人学費を払う必要のないのができたと思ったら、また学費が発生するなんて。今の私だったら同じような状況に立たされたなら、うれしくはあるが、諸手をあげて喜ぶことができないと思う。
 在職中に付き合いを始めた彼氏(今の旦那)にも、保育士の資格を取るために、勉強をしたいと語ったことがある。学生時代の専攻も含めてガチガチ理系脳の彼には、「何となくそう思った」では通用しない(逆に何となくモヤモヤしたものを「言葉にすることで整理ができた」とも考えられる)。
 そのとき考えたことを、箇条書きにしてみる。

 ・保育士の資格を取りたい
 ・そのためには学校に通わなければいけない
 ・費用は、親からの援助は見込めない
 ・その費用を貯めるためにしっかり働いたとして、何年かかる? そこから2年または4年。(交際年月を重ねてから)結婚・出産を視野に入れたとき、そのころには私は何歳?
 ・そもそも、もう一度短大または大学に入り直すだけの学力が、私にはあるだろうか(ここには特別な事情があるが、割愛)
 
「資格を取りたい取りたいって、そのために学校に通う余裕あるの? 時間は? 時間が取れたら収入が減るかなくなるんだよね? 学費は? 親からの援助が期待できないんなら、自分でどうにかするしかないんでしょ?」
 改めて全部言われなくたってわかっている。わかっているのだけど諦めきれない気もちと、実質「諦めろ」と言われているような気もちの狭間で、私は何度も涙を流した。
 
(★)「保育士」は名称独占資格、つまり(保育士の)資格がある者しか名乗ることができないが、「保育」そのものは誰でも行うことができる。言葉としての「保育」の意味は「守り育てること」や「生まれて間もない人を保ち育てる営み。一般に乳幼児期に対する行為を表す言葉」といった表現がみられる。

衝撃の事実!


 保育士に憧れを抱くものの、現実的に考えては諦め、でもどこかで諦めきれず。この間に私は親元を離れ、先述の彼と結婚。現在6歳と3歳のともに男児の母。仕事はフリースクールのスタッフ。
 ちょっと手のすいたときだったと思う。先に書いたように、本当に何がきっかけで保育士について調べようと思ったのかを思い出すことができない。ただどうも、それを検索したのが2021年4月20日ではあったようだ。今思うと、ちょうど令和3年度前期の筆記試験直後ぐらい。
 ない記憶を一生懸命絞りだしてみた結果、某会場で会場側都合で試験を受けられない状況となったネットニュースを見た覚えがある。令和3年度前期保育士筆記試験は、4/17(土)と4/18(日)に開催されたようだが、うち1日の試験が受けられない状況となったそうだ。この会場で受験予定だった人たちに、何も特例措置はないんだろうか、などと思いながらネットニュースをサーフィンしているうちに、キーワード「保育士」にたどり着いていたかもしれない(後日、この会場で受験予定だった人には特例措置が設けられたそうだ)。
 キーワードから保育士受験資格について、改めて調べでもしたのだろう。事細かく記載されていた中で、大卒の場合を見てみる。
 
 受験資格あり。
 
 え? もう一度、じっくり見てみる。
 受験資格があるのは、特定の学部卒でしょ? と疑って、何度も見てみる。
 どの学部を卒業したかは不問で、受験資格あり。
 
 大学・短大や専門学校など、厚生労働省に指定された保育士の養成施設であれば卒業と同時に保育士資格を取得できる。これは知っていた。他にもうひとつ、「試験を受けて合格する」ことで保育士資格を取得する方法もある。これは気づかなかった。たとえそれが教育に関係のない学部であってもだ。 
 一応私は教員免許は所有している。が、高校の免許であり、科目も高校にしかない科目。さらには教育関係の学部に在籍して取得したわけではない。
 それでも受験資格はあるらしい。電気が走るとか、目の前が急に明るくなるとか開けるとは、このことだと思った。
 
 なぁんだ、私、保育士になれるじゃん! なりたくてもなれなくてモヤモヤとしていた霧のようなものが、一瞬にしてサーッと晴れたような気がした。
 試験を受けるからにはそれなりの勉強も必要だろうということは簡単に想像ができた。それが大変だろうということも同時に想像できた。それ専門の学校や学部、授業があるのに自分の力で何とかしようとしているのだから、大変じゃないわけがない。
 でも、それでも構わない。
 だって、自分にはないと思っていた受験資格が、本当はあったんだとわかった。それだけでも、そのときの私にとっては大きな一歩だったのだから。

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