初めての東京(ロケ)
初めて上京した。
新宿に着いた。
出札口を出た。
高いビルがあった。
距離感がわからない。
見回すとロケがあっていた。
(写真の様だった)
私の田舎にも、タレントさんが1度来たことがある。
集落中の人たちは、仕事を中断し、見に行った。
私も行った。
声をかける人、サインをねだる人、それぞれにタレントさんは対応していた。
田舎と同じように近寄った。
テレビでしか見たことのないタレントさんである。
タレントさん以外の人が多い。
「邪魔するな!」
心で叫んだ。
ファンが取り囲んでいると信じていた。
田舎者と引っ込み思案になってはいけない!
左の肩を滑り込ませた。
押し返された。
力を入れて割り込んだ。
間近でタレントさんを見た。
その瞬間、男がやってきた。
「向こうに行ってください」
「?」
「ロケ中です」
「?」
「邪魔しないでください」
「?」
「あっちで見てください」
指さされた方に移動した。
内心腹が立った。
集団の後ろについた。
ファンの集団だった。
タレントさんを取り囲んでいたのは、カメラマンさんだけでなかった。
マネジャー、付き人、衣装の人、記録係などだった。
ファンの人たちの会話が聞こえた。
「何なの、あの人」
「ほんと図々しい」
「いい加減にしてほしいよね」
「ほんと」
バカにされていた。
悔しかった。
田舎では当たり前なのに!
その場を離れ、ホテルに戻った。
「あいつは好かん!」
田舎に戻った後、事の顛末を話した。
私の仲間も色々言い出した。
「気に食わん!」
「ファン辞めた!」
SNSなどない時代だから、この程度の広がりだった。
私の田舎では、このタレントさんのファンがいなくなった。
数年後、都会と田舎の決定的違いを知った。
都会では、タレントさんに
「気軽に声かけてはいけない!」
思い出すと恥ずかしい。