初めての東京(かねやす)
初めて上京した。
友達と待ち合わせることにしていた。
葉書には「かねやす11時」と書かれていた。
田舎者の私には「東京ぼったくりバー11時」と読めた。
当然のように新宿と思っていた。
歌舞伎町に行く必要があるのかと重い気持ちになった。
怖くなった。
フロントで尋ねることにした。
「かねやすはどこですか?」
「うちでは取引はありません!」
「かねやすって何ですか?」
「きっと金融業者です」
「そうですか、ありがとうございました」
江戸の両替商が今もあるらしい!
東京はズゴイと思った。
ケイタイのない時代である。
アナログで調べるしかない。
電話帳で調べればいいことに気づいた。
電話帳が1冊ではない!
これでは時間がかかる!
気を取り直して、フロントで尋ねた。
「1番有名なかねやすを教えてください」
「丸の内にあるはずです」
「丸の内って何処ですか?」
「東京駅前です」
「???」
「東京駅の丸の内側です!」
「???」
フロントのおじさんは怒っているようだ。
東京の人はイライラしているとは聞いていたが、ここまで短気だとは思ってもみなかった。
東京駅に向かって歩いた。
今にして思えば北口に着いていた。
目眩のするほどのビル群である。
その中の一つに入った。
警備の方に呼び止められた。
「どちらに御用ですか?」
「かねやすに来ました」
「???」
「かねやすで11時待ち合わせです」
葉書を見せた。
「かねやすですか...」
どうやら此処ではないようだ。
警備のおじさんが調べてくれることになった。
10分程無言で立ち去った。
恰幅の良い背広のおじさんがやってきた。
その顔は笑顔だった。
暗号を解読した顔だった。
「地下鉄丸の内線で本郷三丁目へ移動して下さい」
もう時間もないので、歩かないことにした。
「かねやす」は待ち合わせ場所には不向きだと確信した。
行ってみて驚いた。
「かねやす」はギリギリ江戸であることがわかった。
しかも中山道の途中である。
教科書に載っていた中山道が目の前にある!
感動していた。
私の田舎は、歴史の教科書には出てこないのである。
歴史が身近であることに驚いた。
同時に、「かねやす」は余り知られていないことも分かった。
東京で待ち合わせるときは、有名な場所にしようと思った。