初めての東京(楽器屋と交差点)
初めて上京した。
私の田舎では、行きたい所はすぐ分かる。
お茶の水に行ってみた。
楽器屋さんを見たかったからである。
私の田舎では、ピアノが一台でも置いてあれば、立派な楽器店である。
こんな感覚で楽器店に入った。
もう目眩がするほど同じ種類に楽器がある。
しかも複数の店舗である。
店員さんに「何かお探しですか」と尋ねられた。
田舎者とナメられないように、「ええまあ」と答えた。
店員さんは「弾いてもいいですよ」と続けた。
さらに、「何がいいですか」と続けられた。
私の田舎では「エレキは不良」と言われていた。
思い切り突っ張って、「エレキ」と答えた。
「ギブソンですか、フェンダーですか、それともグレコですか」
店員さんに言われ、パニックになってしまった。
エレキ 、フォーク、クラシックの3種類しか知らなかった。
ブランド名での分別があるなど想像もしていなかった。
「試奏もできますよ」と言われた。
恥ずかしさのあまり、店を飛び出した。
ホテルに帰ろうと思い、走った。
逃げ続けた。
「駅がない!」
見たことのない交差点である。
勇気を出して通りの人に駅を尋ねた。
坂を登る必要があるらしい。
恥ずかしかっただけでなく、重い足取りでの登り坂、容赦ない夏の日差し。
「東京はエズイ(怖い)」
と強く心に刻まれた。