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[要旨]

事業改善のご相談は、土俵際に至ってから行う中小企業経営者は少なくありません。しかし、土俵際にいる状態では、実践できる改善策、役員・従業員の労力などが、あまり残っていません。そこで、そこに至る前に、改善活動に着手するという経営者の方の決断が重要です。


[本文]

前回、稲盛和夫さんのアメーバ経営について述べたのですが、稲盛さんというと、私は、もうひとつ、「土俵の真ん中で相撲をとる」という言葉を思い出します。「『土俵の真ん中で相撲をとる』とは、常に土俵の真ん中を土俵際だと思って、一歩も引けないという気持ちで仕事にあたるということです。納期というものを例にとると、お客様の納期に合わせて製品を完成させると考えるのではなく、納期の何日も前に完成日を設定し、これを土俵際と考えて、渾身の力をふり絞って、その期日を守ろうとすることです。

そうすれば、万一予期しないトラブルが発生しても、まだ土俵際までには余裕があるため、十分な対応が可能となり、お客様に迷惑をおかけすることはありません。このように私たちは、常に安全弁をおきながら、確実に仕事を進めていく必要があります」私が中小企業の事業改善のご支援をしていて感じることは、土俵際になるまで、改善のための活動はなかなか行われないということです。

多くの方は、稲盛さんのご指摘していることをご理解されると思うのですが、実際には、ぎりぎりになるまでは、なかなか動かないようです。もちろん、早めの対応をすることの方が、トータルでは負担も少ないし、他社との競合上も有利なのですが、実際の改善のための行動は、ぎりぎりまで行われないことが現実のようです。

私も、ご支援のご相談を受けるときに、すでに「土俵際」に来ている状態になっており、ほとんど、改善策の選択の余地がない状態で、実践できることもあまりなく、また、そのようなときは、事業の維持に相当の労力がかかっているので、改善のための活動の余力もないという状態なっているということが、しばしば、あります。

そう考えると、経営者が適切なタイミングで決断できるかどうかが、とても重要だと私は考えています。そういう、私自身も、「土俵際」に関し、苦い経験があります。私がかつて勤務していた銀行は、土俵際に行くまで根本的な改善を怠り、表面的な改善の実践ばかりを行っていたことから、結局、国有化されるに至りました。

その経験から感じることは、土俵際での逆転は、ほとんど期待できないということです。これは、確率的なことではなく、土俵際にある状態では、ほとんど力が尽きていて、改善活動など、とてもできる状態にはないということです。すなわち、土俵際に追い込まれている時点で、勝負は99%決まっているということです。この私のような経験をする方が、今後、新たに現れていただきたくないと、私は考えています。

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