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収益のうめき声と自己資本の泣き声

[要旨]

稲盛和夫さんは、京セラが急速な事業展開ができたのは、経営の状態を一目瞭然に示し、かつ、経営者の意志を徹底できる会計システムを、黎明期から構築備し、それによって経営を進めることができたからと述べておられます。したがって、会社を発展させるためには、経営者の方も、事業での専門性だけでなく、会計も得意分野にすることが望ましいと考えられます。

[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「稲盛和夫の実学-経営と会計」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回、稲盛さんは、「会計がわからなければ、真の経営者になることはできない」ということを述べておられたということを説明しましたが、それに続いて、会計システムの構築の重要性についても述べておられます。

「中小企業が健全に成長していくためには、経営の状態を一目瞭然に示し、かつ、経営者の意志を徹底できる会計システムを構築しなくてはならない。京セラが急速な事業展開ができたのは、そのような会計システムを、早いうちから整備し、それによって経営を進めることができたからである。そのためには、経営者自身が、まず、会計というものを、よく理解しなければならない。計器盤に表示される数字の意味するところを手に取るように理解できるようにならなければ、本当の経営者とは言えない。

経理が準備する決算書を見て、例えば、伸び悩む収益のうめき声や、やせた自己資本が泣いている声を聞きとれる経営者にならなければならないのである。京セラでは、まだ、会社が小さかったころから、月次決算資料が部門別に出るようにしていた。私は、会社にいるときも、出張に出かけるときも、細かい部門別になっているその資料にすぐに目を通すようにしていた。その部門も、売上、経費の内容を見ていくと、ひとつの物語のように、その部門の実態がわかってくる。(中略)常識的には、月次決算書などの決算資料は、経理が一般的な形でつくられるものかもしれない。

しかし、それでは、本当に経営者の役に立つものにはならない。経営者がまさに自分で会社を経営しようとするなら、そのために必要な会計資料を経営に役立つようなものにしなければならない。それができるようになるためにも、経営者自身が、会計を十分に理解し、決算書を、経営の状況、問題点が浮き彫りとなるものにしなければならない。経営者が会計を十分理解し、日頃から経理を指導するくらい努力して、初めて、経営者は真の経営を行なうことができるのである」(37ページ)

稲盛さんは、鹿児島県立大学工学部をご卒業された技術者であり、碍子メーカーご勤務を経て、1959年に、京都セラミック(現在の京セラ)を創業しました。その稲盛さんは、京セラの黎明期に、経理の方に、「貸借対照表に書いてある、この『資本金』は、会社の金庫にしまってあるのか」と質問をするほど、会計については知識がなかったそうです。しかし、そのような技術者であり、会計の知識がなかったにもかかわらず、会社を発展させていくには、経営者が会計について理解し、正しい経営判断をしなければならないと考えるに至ったわけです。

その考えを実践した結果、前述の通り、京セラが急速に発展しただけでなく、後に第二電電(現在のKDDI)を起こして発展させたり、日本航空を短期間で再生したりするまでの、日本を代表する名経営者になられました。もちろん、事業活動では、競争力を高めるために、よい製品を製造する必要があり、そのためには、技術力も高めなければなりません。したがって、経営者は、会計だけに注力してさえいればよいということではないことも当然です。

しかし、事業活動は組織的な活動であるということを考えれば、事業活動の状態を、最低でも月次で見直すことが、改善活動を早めることができます。これについては、稲盛さんも、「京セラが急速な事業展開ができたのは、そのような会計システムを、早いうちから整備し、それによって経営を進めることができたから」と述べておられます。すなわち、PDCAを早めることが、競争力を高め、事業の発展を早めることができるわけです。このような観点から、経営者が会計について十分に理解することの重要性が理解できると思います。

私は、自社の製品のよさは、製品を作る側からの観点の評価であると考えています。一方、利益が出ているかどうかは、顧客の側からの観点の評価だと思います。事業活動は、よい製品をつくるためのものでもありますが、顧客から評価されなければ、意味がありません。よい製品をつくった結果、それが顧客から評価されているかどうかを、迅速に把握して、事業活動の素早い改善ができるようにするためにも、経営者は、会計に関しても、できればエキスパートになることが望ましいと、私は考えています。

2022/12/8 No.2185

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