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有力銀行のお墨付きを他行は評価する

[要旨]

粉飾により、5月に倒産した堀正工業は、メガバンクをメインバンクにしていたことが、サブメインバンク以下の地方銀行が融資に応じていた要因になっていたようです。このように、有力な銀行をメインバンクにすることは、資金調達を安定化させる要因になります。

[本文]

先日、東京経済取締役東京本部長の井出豪彦さんが、ダイヤモンドオンラインに、粉飾決算の末に事実上倒産した、ベアリング商社の堀正工業に関する記事を寄稿しておられました。井出さんによれば、同社は、実際には347億円の負債があったにもかかわらず、取引銀行に提出した決算書には、40億円台しか記載していなかったそうです。ちなみに、「破産申立書によれば、2008年9月期における取引金融機関は10社であったが、その後、年を追うごとに、毎年、数社ずつ取引金融機関は増えていき、2022年9月期には54社にも達した」そうです。

とはいえ、融資審査の専門家である銀行が、そのような粉飾を見抜くことができなかったことに、多くの方は関心を持つと思います。この点について、井出さんは、次のように述べておられます。「地銀の審査部門とコミュニケーションを取っているとわかるが、地銀はある企業に新規融資を検討する際、既存の取引金融機関の『顔ぶれ』を非常に重視する。例えば、東北地方に本店がある地銀の東京支店が、都内の中小企業に初めて融資する場合、事前に得られる情報量には限界があり、『貸してすぐ倒産するのではないか』などという不安にさいなまれる。そこで、三菱UFJ銀行のようなメガバンクが、その会社をメインバンクとして支えているというのは、願ってもない強力な『お墨付き』となるのである」

地方銀行が、自社の地盤がないところでは、地盤を持っているところと比較して、収拾できる情報は少ないことから、井出さんが指摘しておられるように、メインバンクに有力な銀行があると、安心してしまうという面はあると、私も考えています。また、これと同様に、地方都市においても、その地域において地盤の強い地方銀行がメインバンクになっている会社に対しては、他の地域を地盤としている地方銀行のその都市での支店や、同じ地域を地盤としていてるものの、資金量が2番手以下の地域金融機関は、その会社への融資に応じても大丈夫と考える傾向があります。

繰り返しになりますが、割合は少ないとはいえ、銀行は、融資相手の会社の粉飾決算によって損失が発生するという経験があるため、「粉飾の疑いがある」、「会社の資金繰が忙しくなっている」といった、アングラ情報がないかということに大きな関心があります。だからこそ、そういった情報を得やすいであろう有力銀行が、会社のメインバンクになっていると、サブメインバンク以下の銀行は、融資の決定をしやすくなる傾向があります。このことを、逆に言えば、メインバンクとの関係を良好にしていれば、それ以外の銀行との取引も円滑になるということになります。そこで、私が、中小企業の経営者の方から、資金調達に関してご相談があったときは、メガバンクや、地元の有力な地方銀行をメインバンクにすることをお薦めしています。

2023/9/6 No.2457

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