回収不能の売掛金の会計処理(2)
[要旨]
売掛金支払いが遅延している会社が、まだ倒産していない段階であっても、回収の見込みがなくなったときは、貸倒引当金を計上し、実質的に、売掛金を資産から外す会計処理を行います。このような保守的な会計処理を行うことで、財務諸表は会社の実態が反映されるので、経営者などが、適切な経営判断ができるようになります。
[本文]
前回は、販売先が、法的に倒産したり、倒産に至らないまでも、回収が見込めない状態になったときは、その売掛金は貸倒損失として計上ということを述べました。今回は、貸倒損失と並んで中小会計要領に記載のある、貸倒引当金について説明します。中小会計要領には、「債務者の資産状況、支払能力等からみて回収不能のおそれのある債権については、その回収不能見込額を貸倒引当金として計上する」と記載されています。
貸倒損失は、売掛金の回収が不能になったことが明確になったり、または、それと同様の状態になったときに計上する費用であるのに対し、貸倒引当金は、将来の売掛金の回収不能額を、あらかじめ見込んで計上しておく引当金です。これは、やや難解な説明になりますが、貸倒引当金は費用ではなく、負債(または、マイナスの資産)です。そこで、貸倒引当金を計上するときの相手科目は、費用の科目である貸倒引当金繰入で、貸倒引当金と同額を計上します。
例えば、A社の売掛金回収が遅延し、A社はまだ倒産手続きに入っていないものの、信用状況から判断して回収が難しそうだと判断したとき、会計上は貸倒引当金を計上し、実質的に、A社への売掛金を資産から外しておくという会計取引をするということです。これを、A社への売掛金が100万円であるとして、仕訳で示すと、次のようになります。(1)A社に対する売掛金の回収の見込みがないと判断したとき→(借方)貸倒引当金繰入100万円割/(貸方)貸倒引当金100万円(2)A社が倒産し、法的に売掛金の回収が不能となったとき→(借方)貸倒引当金100万円/(貸方)売掛金100万円
では、なぜ、会計上は、売掛金が遅延している相手が倒産する前に、回収不能見込額を費用として処理するのかというと、これは、保守的に記録するという原則があるからです。保守的に記録するとは、売掛金の回収がいぶかしいときは、回収が不能になることが確定するまで待たずに、資産から外しておくことで、に会社の財政状況の実態を財務諸表に反映させるという考え方です。
このように、会計データを実態に即するものとしておくことの方が、経営者や銀行は適切な判断ができると考えられます。したがって、売掛金の回収に懸念が生じたときは、中小会計要領に記載されているとおり、貸倒引当金を速やかに計上することが望ましいでしょう。なお、今回説明した貸倒引当金の計上の方法は、「個別引当」といいます。これ以外にも、「一般引当」という方法もありますので、ご関心のある方は、専門書で学んでいただきたいと思います。
2022/1/29 No.1872