[要旨]
限界利益は、管理会計の考え方であり、売上高から変動費を差し引いた残りを指します。しかし、現実には、変動費を厳密に算出できなことから、実際の限界利益も算出することは、ほぼ、不可能です。また、限界利益の限界とは、数学の微分の考え方であり、したがって、限界利益とは売上高の端のほうにある利益という意味です。
[本文]
今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、財務面のデューデリジェンスは、資産が実際の価格より多く貸借対照表に計上されていないか、負債が実際の価格より少なく計上されていないかを確認するということを説明しました。今回は、限界利益について説明します。限界利益は、財務会計ではなく、管理会計の考え方です。結論から述べると、実際の限界利益を計算することは、ほぼ、不可能であり、概念的に存在するものであると、私は考えています。
この限界利益の計算式は、限界利益=売上高-変動費です。また、売上高=変動費+固定費+利益なので、前述の式を代入すると、売上高=変動費+限界利益であり、限界利益=固定費+利益でもあります。そして、限界利益を計算することができない理由は、そもそも、変動費(売上高に比例する費用)と固定費(売上高に比例しない費用)を計算できないからです。費用の中には、売上高に比例する費用(材料費や燃料費)や、売上高に比例しない費用(地代やリース料)もありますが、どちらかはっきりしない費用の方が圧倒的に多いというのが現実です。
例えば、工場で働いているラインの責任者の給料は、ラインで製品の組み立てをする工員としての部分もあるし、ラインの工員を管理する役割に対して支払われる役職手当も含まれているので、変動費と固定費に分けることは困難です。給料の内訳を、変動費と固定費に分けるという方法もありますが、あまり、現実的ではありません。したがって、おおよその変動費、固定費、限界利益は分かりますが、それぞれを明確に計算することはできません。ただ、これは私の考えですが、中小企業では、売上原価を変動費、販売費及び一般管理費を固定費として計算しても、ほぼ問題ないと思います。話を限界利益にもどすと、「限界」という言葉の意味は、なじみのない人も多いと思います。
実は、この「限界」という考え方は、数学の微分の考え方です。具体的には、限界利益は、「商品がひとつ売れたときに増加する利益」という意味で、もともとは、ひとつの商品の販売価格のうちの変動費を差し引いた部分を指すものです。そして、一般的には、限界利益というと、その会社の売上から変動費を差し引いた部分を指すようになりました。もうひとつ、限界利益の理解が難しい要因として、限界利益は、英語では、「Marginal Profit」であり、ここでいう「Marginal」とは「端の」という意味です。
よく、売上と仕入の差額をマージンと言うことがありますが、その「Margin」は、「Marginal」の名詞であり、そのような観点からは、限界利益の限界とマージンは同じ意味です。ところが、一般的に、「限界」というと、「Limit」という意味で使われることも多いので、「Margin」の意味が理解されにくいのではないかと思います。私も、「Margin」を「限界」以外の日本語に置き換えられないか探してみたのですが、他に該当しそうな言葉は見つからなかったので、やはり、「Marginal Profit」は、「限界利益」と記すしかなさそうです。この続きは、次回、説明します。
2022/5/6 No.1969