未払費用と前払費用
[要旨]
貸借対照表には、会計期間の末日時点で、その会計期間の費用でまだ支払われていない費用相当額が、未払費用として流動負債に計上されます。このような負債や資産を経過勘定といいます。この経過勘定は、決算日だけに計上される特別な科目であることに注意が必要です。
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今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、会社の資産は、日々変化しているものの、貸借対照表の示す資産の額は、会計期間の末日のものであることから、この点に注意が必要ということを説明しました。
今回は、西山教授が、直接、指摘していることではないのですが、私が貸借対照表について注意が必要と感じていることについて説明します。そのひとつは、経過勘定です。例えば、毎月1日から末日までの給料を、翌月10日に支払っている会社(A社)があるとします。そして、A社の会計期間は、毎年、4月1日から、翌年の3月31日までであるとします。そうすると、A社は、令和3年3月31日の時点では、3月分の給料は支払っていないことになります。
そこで、4月1日以降、3月分の給与を計算した後、3月31日に遡って、「未払給料(または、未払費用)」という「負債科目」(流動負債)を計上します。科目名には「費用」とついていますが、負債科目であることに注意が必要です。仕訳は、(借方)給料●●●●●円/(貸方)未払給料●●●●●円とします。この仕訳をすることで、3月31日時点では実際に支払われていない給料を、3月の費用と計上し、かつ、その金額相当額が、まだ支払われていないものとして、負債の部に計上されます。
そして、4月10日に、実際に、A社の普通預金から給料が支払われたときは、(借方)未払給料●●●●●円/(貸方)普通預金●●●●●円という仕訳を行うことで、未払給料の計上額は0円になります。このような、決算のために、一時的に計上する未払給料のような科目を、経過勘定といいます。ちなみに、この経過勘定を知らないために、銀行職員でも勘違いをするときがあります。
これまでの説明からも分かる通り、A社の未払給料が3月31日の貸借対照表に計上されることは、簿記の手続き上、問題はありません。しかし、経過勘定の意味を理解していない人は、未払給料という科目を見ると、支払いが遅延している給料がA社にはあると、誤って理解してしまうことがあります。でも、未払給料は、その会社の1か月分程度の給料であれば、適切な金額です。もちろん、数か月分の給料相当額が未払給料に計上されていれば別ですが…
また、逆に、資産に計上される経過勘定もあります。そのひとつの例は、前払費用です。例えば、A社が、賃借している4月分の倉庫の賃料を3月に支払ったとします。しかし、その賃料は、4月1日以降に始まる会計期間の費用を前払いしたものなので、3月31日に、(借方)前払費用●●●●●円/(貸方)地代家賃●●●●●円という仕訳をして、いったん、3月31日までの会計期間に計上された費用を戻し入れします。
そして、4月1日に、(借方)地代家賃●●●●●円/(貸方)前払費用●●●●●円という、逆の仕訳をして、4月1日以降の会計期間の費用に計上します。また、この仕訳によって、前払費用に計上された金額も0円になります。このような経過勘定には、これらの他にも、「未収収益(資産)」や「前受収益(負債)」もありますので、ご関心のある方は、専門書で学んでいただければと思います。
2022/4/17 No.1950