銀行との取引維持によって信用力を示す
[要旨]
日本ビニル工業は、メインバンクとの関係が決裂したことがきっかけとなり、私的整理を行うことになってしまいました。融資を受けている会社は、すべて、メインバンクの言いなりにならないわけではありませんが、メインバンクが取引をしている間は、業績が回復する見込みがあることを、対外的にアピールできる効果があります。
[本文]
今回も、「なぜ倒産-令和・粉飾編-破綻18社に学ぶ失敗の法則」を読んで、私が気づいたことについて述べます。同書には、ビニールレザー等を製造していた、日本ビニル工業の事例が載っていました。「業績不振が続く、日本ビニル工業に対して、メインバンクは厳しい見方をし、2011年に新規融資を停止する。その後、他の金融機関から、運転資金を調達して、何とか持ちこたえていたが、2017年、メインバンクから、自行の融資分(2016年12月期で約5億7,000万円)を他行で借り換えるよう、依頼を受けることになる。
『売上高20億円規模の会社に対し、メインバンクが他行への借り換えを要請してくる話はあまり聞かない、余程のことがあって、関係がこじれたのではないか』と、多くの関係者が見ていた。このときの状況を小林社長に確認すると、『関係がこじれたわけではない、金融機関全体が融資の見直しを図っていた時期であり、当社の経営状態と、業界の先行きを不安視した結果だろう』と、関係悪化を否定する。ただ、以前の経緯を詳細に見ると、メインバンクとの亀裂が広がる原因となりそうな出来事もあった。
例えば、2008年に、自動倉庫を造る際に、メインバンクが1億円の根抵当権を付けていた、旧北浦和本社を、さらに担保に使い、別の金融機関から7,000万円を借りたことだ。メインバンクとしては、根耳に水の話で、小林社長への抗議の連絡はなかったというが、『そうした“不義理”の積み重ねが少なからず影響を及ぼしているのかもしれない』(関係者)数億円の融資を借り換える先など、簡単に見つかるものではなく、その結果、メインバンクは、2018年9月、債権回収会社への債権譲渡に踏み切った。
これは、メインバンクとの関係が完全に決裂したことを意味する。これにより、日本ビニル工業の対外的な信用は失墜、他の金融機関からの資金調達も困難になり、同月、取引金融機関すべてに約定返済の一時停止を依頼、その後、埼玉県中小企業再生支援協議会に駆け込んで、支援を申し込んだ。しかし、その後も不安定な資金繰りが続き、2019年秋には、協議会での再生手続きを中断し、日本ビニル工業は、独自に私的整理を進めることになった」(128ページ)
私の想像の範囲ということになりますが、引用部分にある「関係者」の見解のように、小林社長は、銀行取引への危機感が薄く、また、駆け引きがあまり上手ではなかったという印象を受けます。銀行の判断がすべて正しいとは、私も考えていませんが、経験的には、銀行は、融資をしている相手の無理をきくことが多いので、債権譲渡をしてまで取引を解消するということは、小林社長に問題があったのではないかと想像します。
そして、同社が私的整理に向かうきっかけが、「メインバンクとの関係の決裂」であったわけですから、もし、100%納得できないとしても、メインバンクとの取引を継続できていれば、同社は私的整理をしないですむチャンスがあったとも考えることができます。これについては、「融資を受けている会社は、メインバンクの言いなりにならなければならないのか」と考える方もいると思いますが、これは、逆に言えば、メインバンクが支援を続けていれば、メインバンク以外の利害関係者、すなわち、仕入先、従業員、顧客などに対する信用を維持できるということにもなります。
繰り返しになりますが、業績が悪化している会社は、すべて、メインバンクに従わなければならないということではありませんが、メインバンクとの関係を維持することは、自社は業績を回復する見込みがあることを銀行が認めてくれているということを、広く社外にアピールできる効果があります。そういった観点からも、銀行との関係維持を図ることが大切だと思います。
2022/7/22 No.2046