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ガードレールがあるから安心できる

[要旨]

心理的安全性のない職場は、定着率が低くなったり、従業員の士気が下がったりするので、業績も高くなりません。そこで、心理的安全性を高めるための経営者の行動が大切になります。ただ、それは、自分についてこいという伝統的なリーダーシップではなく、説得型、説明型の、新しい方法でのリーダーシップに移りつつあります。


[本文]

経営学者の斉藤徹さんの東洋経済オンラインへの寄稿を読みました。斉藤さんの記事によれば、転職支援サービス会社が行った、入社後1か月以内に転職した経験を持つ383人を対象にした調査では、「入社後すぐに転職した理由」の1位が、「人間関係への不満」だったそうです。具体的には、「社員同士がギスギスしていた」、「上司が体育会系のノリで合わなかった」、「経営者の態度が傲慢だった」などだそうです。

私の世代では、このような環境は当たり前と感じるのですが、だからといって、肯定できる状況ではありません。むしろ、このような職場は、従業員の定着率を下げてしまうだけでなく、残っている従業員の方の士気も下げ、そのことは業績を下げることにもなるので、改善すべきであることは間違いありません。でも、このような職場環境の会社が減らないのはなぜなのでしょう?その理由のひとつとして、斉藤さんは、「責任感の罠」を挙げています。これは、厳しい成果を求められた組織のリーダーは、プレッシャーによって、組織の構成員に対し、厳しき接したり、コントロールを強めたりしてしまい、心理的安全性が崩れ、かえって、成果を落としてしまうということです。

斉藤さんは、これについて、「(リーダーの)キャラクターの問題ではなく、リーダーは組織に貢献しようという思いで、よかれと思って管理的な行動を強めている」と指摘しています。ですから、成果を高めようとするとき、心理的安全性を維持することは欠かせないということは、言及するまでもありません。では、心理的安全性を高めるにはどうすればよいのかというと、斉藤さんは、経営学者のエドモンソンが提唱した、「心理的安全性を高める7つの行動」を紹介しています。

そのうちのひとつに、「境界(規範)を設け、その意味を伝える」というものがあり、私は、これが最も大切だと考えています。これについて、エドモンソンは、「規範は、橋に設置されたガードレールのようなものだ。ガードレールがなければ、車はセンターラインの近くに寄せて走るだろう。ガードレールが設置されていることで、追い越し車線を走れるのだ。心理的安全性を担保するための規範は大切で、それを考え、意味とともに伝えるのはリーダーの大切な役目である」と説明しているそうです。

この説明も、やや抽象的なので分かりにくい面も残っていると思いますが、現在は、リーダーだからといって、「自分についてこい」という、文字通りのリーダーであるよりも、エドモンソンの説明にあるように、「心理的安全性を担保するための規範を考え、意味とともに伝える」という、説得型のリーダーシップが求められているということです。リーダーシップとはどうあるべきかという課題は、なかなかつかみどころが明確でないという面では難易度が高い課題ですが、冒頭で述べた通り、定着率を高めたり、従業員の方の士気を高めたりするには、現在は、それへの取組は欠かせないものとなっいることは間違いありません。決して一朝一夕には解決できるものではありませんが、だからこそ、直ちに取り組むことが大切であると、私は考えています。

2022/1/6 No.1849

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