会計取引の記録をリアルタイムで行う
[要旨]
前月の月次試算表を15日までに作成できない会社は、経理部門が、後からまとめて会計取引を記録していることが原因と考えられます。しかし、経営者にとって有用なリアルタイムの情報を得るためには、部門ごとに、会計取引が発生した時点で記録することが必要です。
[本文]
今回も、経営コンサルタントの篠崎啓嗣さんのご著書、「社長!こんな会計事務所を顧問にすればあなたの会社絶対に潰れませんよ!」の内容について、私がとても共感した部分についてご紹介します。これについては、私も以前から述べていますが、篠崎さんは、「毎月15日までに前月の試算表を必ず完成させるべき」と書いておられます。
その理由については説明が不要と思いますが、タイムリーに自社の状況が分かれば、効果的な改善策も打ち出すことができるからです。しかし、15日までに前月の月次試算表を作成しない会社は圧倒的に多いことも現実です。その理由は、中小企業では、毎月、試算表を作成する労力が大きいと感じているからだと思います。これは、もう少し詳しく述べると、中小企業の多くは、経理部門が会社のすべての会計取引を会計ソフトに入力しているからだと思われます。すなわち、会計記録は取引発生時にリアルタイムで行われずに後回しになり、15日までに、前月分の会計取引の入力を終わらせることが難しい状況になっているのだと思います。
でも、15日までに前月の月次試算表を作成する会社は、多くの場合、事業部門の各部署で会計取引を会計ソフトに入力していると思われます。例えば、購買部門が部品の納品を受けたときに、その場で、会計ソフトに「借方:仕入10万円/貸方:買掛金10万円」というように入力をしています。ですから、経理部門は、会社全体の経理業務に滞りがないか監督したり、会計の月次の締め上げの業務を行ったりするだけになりますので、15日までに前月の試算表を作成することができます。では、なぜ、多くの中小企業はこのような体制をとらないのかというと、会計取引の記録をあまり重要なものと考えていないからだと思います。
すなわち、事業とは商品を売ったり、製品を製造したりることが本来の活動なので、会計取引の記録は、事業とは直接的には関係がない業務であると考えられているのでしょう。そのように考えていれば、会計取引の記録は、負担にしか感じないでしょう。でも、そのような会社は、考え方を180度変え、「会計取引の記録は、事業の競争力を高めるために欠かせない活動」と位置づけ、タイムリーに会計取引を記録していただくしかありません。ただ、いままで実践してこなかった業務を新たに行おうとするときは、大きな負担を感じることになると思います。でも、自社の収益の状況をタイムリーに把握している会社の競争力は高いことは事実ですので、実践するかどうかは、経営者の決断しかないでしょう。
今回は、もう少し厳しい書き方をすると、会計取引の記録を迅速に行うことができない会社は、そもそも、事業活動そのものもうまくいっていないのではないかと思います。会計取引の記録に割かなければならない労力は、事業活動全体の活動量からみればわずかです。それすらできないとうことは、そもそも仕事のスキルがあまり高くないからということになるでしょう。21世紀は、「経営の巧緻」で差が出る時代ですから、事業活動だけに注意を払っていても競争力は向上しません。経営者の管理能力が問われているわけですから、財務データの活用ができない会社は土俵にさえ上がっていないことになるでしょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?