経過勘定と重要性の原則
[要旨]
企業会計原則の注解の中には、「前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる」と記載があります。したがって、重要性の乏しい費用については、経過勘定として処理しない取扱も可能です。
[本文]
今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、貸借対照表には、会計期間の末日時点で、その会計期間の費用でまだ支払われていない費用相当額が、未払費用として流動負債に計上され、その未払費用などは経過勘定という特殊な勘定科目であるということを説明しました。今回も、西山教授が、直接、言及はしていませんが、経過勘定に関連することがらとして、重要性の原則に就いて説明します。
日本の会計には、企業会計原則という基本的なルールがあります。この企業会計原則の前文には、「企業会計原則は、企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正と認められたところを要約したものであって、必ずしも法令によって強制されないでも、すべての企業がその会計を処理するのに当たって従わなければならない基準である」と記載されています。
さらに、この企業会計原則には、注解があり、そこには、「企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる」と記載があります。この内容は企業会計原則ではないものの、一般的には企業会計原則に準ずるものとして、「重要性の原則」と呼ばれています。そして、その注解の中には、「前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる」と記載があります。
例えば、会計期間が、4月1日から翌年の3月31日までのA社が契約している携帯電話の利用料金は、毎月21日から翌月20日まででで計算され、それを翌々月10日に支払っているとします。この場合、2月21日から3月20日までの利用料金は4月10日に、3月21日から3月31日までの利用料金は、4月1日から4月20日までの分と合わせて5月10日に支払うことになります。したがって、A社の3月31日の貸借対照表には、2月21日から3月20日までの利用料金だけでなく、3月21日から3月31日までの利用料金も合わせて、未払費用として計上することになります。
しかし、携帯電話の利用料金が、毎月、ほぼ一定額であることや、携帯電話の利用料金が、それが会社全体の費用から見て比較的少額である場合、3月21日から4月20日までの利用料金を、労力をかけて3月31日以前と4月1日以降に分け、3月31日以前の分を未払費用に計上するという厳格な計算は、重要性の原則と照らし合わせると、重要性に乏しいと考えることができます。したがって、A社の場合、携帯電話の利用料金は、2月21日から3月31日分の利用料金(=4月10日支払い分)だけを未払費用として、3月31日の貸借対照表に経常することは差し支えないと考えることができます。
ただし、今回の例で示した、携帯電話の利用料金の例は、一律に、どの会社でもあてはめてよいということではないということに注意が必要です。それぞれの会社の実情に照らし合わせて、専門家と相談した上で判断しなければなりません。また、今回の本旨とはそれますが、重要性の原則は、経過勘定以外にも、消耗品、消耗工具器具備品、その他の貯蔵品、引当金、棚卸資産なども対象になっています。
2022/4/18 No.1951